26階層に潜る前に
本日1回目の更新です。
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──26階層に潜る前に
「まあ、まずは昼飯だ。また遅くなってしまったが、しっかり食え。エネルギーを補給し、しっかりとしたコンディションでないと次の階層には挑めないぞ」
「了解なの」
久隆たちは重箱を広げ、おにぎりや唐揚げ、ウィンナー、卵焼き、煮物などをフォークで掴んで口に運ぶ。どれも食べやすいように一口大になっているので、フォークだけで食器が済む。物をあまり持ち運ばないでいいのは利点だ。
「フルフルもしっかり食べておけよ。魔力は食事でも回復するんだろう?」
「ええ。しっかりと英気を養います」
フルフルも緊張でご飯が進まないということはなくなり、逞しくなった。
「しかし、今回の戦闘はどう思った?」
「不味かったですね。危うくゴブリンとオークに挟み撃ちにされるところでした。ただのゴブリンならともかくゴブリン長弓兵とゴブリンシャーマンです。オークの方はあたしとサクラさんでどうにかできましたけど、相手が重装オークになったら……」
マルコシアが渋い表情でそう告げる。
「ゴブリンそのものは決して強力な魔物ではないのですが、彼らは自らの非力さを補うために遠距離火力を手にしています。我々近接戦闘を行う人間にとっては大敵です。決して油断はできない相手でしょう」
フォルネウスもそう告げる。
「私としてもやることが増えるのはちょっと大変かもしれません。魔力量の問題ではなく、何を優先して行うべきかを指示していただかなければ動けなくなるかもしれません。やはり戦場では緊張します」
フルフルは付呪師としての立場からそう告げた。
「オークというのも弱点は人間と同じなのである程度はどうにかなります。しかし、数で押されると辛いですね。弓矢は銃と違って連射ができるものではないですから」
サクラのコンパウンドボウは威力はあるが、連射はできない。矢を番え、狙いを定め、そして放つという銃のように引き金を引けば連射できるものではないのだ。
「レヴィアは大丈夫なのよ。どんな敵が来ようとレヴィアと久隆たちがいれば絶対に達成できないことはないの!」
レヴィアはそう告げて唐揚げにパクリと食らいついた。
「そうだな。俺たちならやれる」
やらなければならない。
偵察部隊は27階層で立ち往生。30階層のエリアボスは不明。肝心のべリアたちはまだ見つかっていない。問題は山積みだ。
やらなければこの山積みの問題はいつか雪崩を起こして崩壊する。
そうなれば犠牲者は膨大なものになるだろう。
「26階層、いやできれば27階層を攻略する。準備はいいか」
「おー!」
「では、潜るぞ」
久隆たちはしっかりと食事を終え、26階層に降りていく。
26階層に降りると同時に久隆が偵察を始める。
「オーク12体。ゴブリン27体。ゴブリンよりも少し体重が重いものが1体」
「きっとゴブリンロードなのね」
「例の周囲のゴブリンの戦力を高める魔物か」
「そうなの。ゴブリンロードは常時ゴブリン限定の付呪を放っているの。ゴブリンの身体能力と魔力を上げるのね。中深度ダンジョンでも厄介な敵なのよ」
「じゃあ、最優先で片付けていくか」
ゴブリンが多いだけでも面倒なのに、それを強化されてはたまったものではない。
「ゴブリンは3つのグループに分かれていて、そのひとつにゴブリンロードと思われる反応がある。そのグループから優先的に叩き、可能な限り隠密を維持する」
しかしながら、と久隆は続ける。
「もし、隠密が失敗した場合はフルフルはマルコシア、フォルネウス、サクラに付呪をかけて、その3人は独自にオークがゴブリンと交わる前に叩くこととする。こっちはその間にゴブリンを掃討する。役割は交代してもいいが、ゴブリンシャーマンがいるとなるとフルフルがいた方がいいので、どうあってもゴブリン討伐グループにはフルフルを加える。何か質問は?」
質問はなかった。
「よし。こういう場合を想定してのこのサイズの部隊だ。臨機応変に運用しよう」
本来は2名を3つの運用なのだが、3つに分割するには自軍の戦力は乏しく、そしてあまりにもばらけすぎている。
3名編成というのは負傷者が1名発生すると一気に戦力が乏しくなる。分けるなら4名編成を2つが望ましくはあるのだが、8名では狭いダンジョン内で十二分に火力を発揮できないという問題がある。
それから地球における軍の編成を適応するのが難しいのは、それぞれがあまりに専門的でありすぎるという点だ。地球の歩兵分隊は6名から12名と幅はあれど、全員が自動小銃か軽機関銃で武装し、同じような戦闘力を発揮できる。
だが、ここではそうはいかない。
久隆は斧で近接戦闘ができるが遠距離火力と言えば一発限りの軍用ナイフの投擲程度だ。レヴィアは遠距離火力を投射できるが近接戦闘能力は皆無。フルフルは遠距離、近距離ともに戦闘は行えず、友軍の支援の下で友軍を補助する。
能力がばらけすぎている。体力にも差があるし、能力も違うのでは、ただ数だけで分割することはできない。
幸い、指揮についてはサクラが来てくれたことで2チームに分かれることが可能になった。だが、問題はいろいろとある。
本当に完全武装の日本海軍特別陸戦隊が1個小隊いれば、このダンジョンの50階層程度までは軽々と向かえただろうがと久隆は実現不可能なことを考える。
だが、手元にある戦力でどうにかするのも指揮官の仕事だ。それこそがまさに指揮官の仕事だ。軍隊が無尽蔵に戦力を与えてはくれない。軍上層部と戦況が許す限りの戦力しか与えられないのだ。そして、指揮官はそれで任務を達成する。
久隆の腕の見せ所だ。なるべくならば隠密で進みたいが、なかなかそれは難しい。
いざとなればチームを2つに分けて行動することを考えなければ。
「止まれ」
久隆が手で合図する。
「オークがかなり近くにいる。ゴブリンだけなら隠密で仕留められるがオークとなるとな。慎重に進めていくぞ。連中が連携してきたら不味いことになる」
オークの足音がダンジョン内で響いている。
「進むぞ」
久隆たちはゴブリンロードの居場所を探る。
「あれがゴブリンロードか?」
「間違いないのね」
ゴブリンロードは鉄の鎧を纏い、古代ローマ人の百人隊長が被っていたような飾りのある兜を被っている。そして、体格は普通のゴブリンよりも大きい。普通のゴブリンが140センチ程度あるかないか程度なのに160センチはある。
ゴブリンロードの傍にはゴブリンシャーマンが控え、ついて回っている。
「よりによって厄介なのがセットか。どうにかして取り巻きを引きはがして、確実に仕留めないとな」
ゴブリン長弓兵は8体。これを静かに片付けつつ、ゴブリンロードとゴブリンシャーマンの両方を始末しなければならない。
久隆はいつものように小石を使ってゴブリンを誘き出して仕留める。
そして、時には音もなくゴブリン長弓兵の背後に忍びより、口を塞いで首を軍用ナイフで掻き切る。サクラも同様にゴブリン長弓兵のはぐれたものを始末していっていた。
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