24階層に至る
本日2回目の更新です。
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──24階層に至る
23階層はそれからいつも通り鎧オーク、重装オーガ、鎧ジャイアントオーガとの戦いになった。だが、そちらの方はもう手慣れたもので、全員が適切に連携して、強力な魔物たちを屠っていった。
そして、サクラが久隆を補佐するように助言をするようになった。
戦闘中に戦闘に集中する久隆に地図の情報を伝え、進むべき針路を指示したり、後方の状況を伝えたり、フルフルの付呪の効果時間やレヴィアやマルコシアの活用についてもアドバイスする。
これこそが久隆がベテランの兵士を欲しがった理由だ。
サクラは准尉と准士官であるが、それは叩き上げの地位だ。彼女は優秀な下士官から准士官に昇進したのだ。戦闘のプロフェッショナルとして。
あくまで指揮を執るのは久隆である。軍隊はひとつの頭で機能するべきだ。指揮系統がふたつに分かれてしまっては、船頭多くして船山に上る、だ。あくまで指揮系統上は久隆が指揮する。だが、久隆が戦闘不能になればサクラがすぐに指揮を引き継ぐ。
そして、サクラは久隆が指揮を行うのを助ける。
戦闘をしながら指揮をするというのは楽なことではない。
目の前の敵を殺し、自分が殺されないようにするためには自分の身に叩き込んだ動きで、反射的に対応することが求められる。思考しながら戦うことは難しい。柔道をしながら将棋はできないだろう。それと同じことだ。
訓練された軍人でも思考しながら戦闘を行うのは難しい。それでも指揮官にはそれが求められる。前線指揮官は自らの自動小銃を握り、銃火と砲火の中で、部下たちに適切な指示を出し、自動小銃で敵に撃ち返さなければならないのだ。
だから、下士官が必要になる。
「サクラ! 次はどっちだ!」
「右手に! そのまま行けば挟み撃ちは避けられます!」
「分かった! フォルネウスとサクラは引き続き後方を警戒! レヴィアは俺の支援を続けろ! フルフルの付呪はまだ余裕があるな!?」
「あります! 残り23分!」
こうしてスケジュールを管理してくれる部下がひとりいるだけで、目の前の戦闘と指揮に専念できる。久隆が求めていたものだ。
「行けるな。残り5分もあれば戦闘は終わる」
久隆の予想通り、5分以内に鎧オーク、重装オーガ、鎧ジャイアントオーガは全滅した。彼らは大量の金貨と宝石を残し、消え去ったのだった。
それから24階層。
鎧ジャイアントオーガ2体、重装オーガ2体、鎧オーク6体、ゴブリン長弓兵20体とゴブリンシャーマン2体。
確実にダンジョンの魔物の構成は変化しつつある。面倒な方向に向けて。
久隆たちはいつものようにゴブリンを1グループは隠密で仕留め、もう1グループで開戦の合図を上げる。そして、ゴブリンたちを殲滅後に大物を仕留めていく。
防御を削ることが必要な重装オーガが減った分、フルフルの負担が減った。だが、25階層以降はフルフルの負担はまた増えることになる。
重装オーク。それなりの大きさで、それでいて重装となると重装オーガより面倒な相手かもしれない。それに偵察部隊の報告では重装オークは兜までがっちりと被り、弱点となる部位を減らしているという。
フルフルの付呪は必須になるだろう。
「一時休憩だ。緊張しただろう。しっかり休めるうちに休め。休憩を終えたら、25階層に潜る。25階層以降はさらに面倒で、神経を使うことになる。万全のコンディションで挑めるように今のうちに休憩だ」
「疲れたのー」
久隆が用意したテント用のマットの上にレヴィアたちが横になる。
こうやって戦闘とその終了をしっかりと区切り、緊張が続かないようにしなければ、兵士は神経をすり減らして戦えなくなってしまう。
「チョコレートと麦茶がある。それぞれ食べておけ。栄養補給だ。25階層でへばらないようにな。まあ、この調子だと25階層も無事に通過できそうだが」
「久隆様は凄いですよ。ゴブリンたちは音もなく殺してしまわれますし、ジャイアントオーガが相手でも全く怖気づかない。近衛騎士でもここまではできませんよ。フォルネウスはまだちょっと緊張してるでしょう?」
「ちょっとぐらい緊張している方が生き残りやすい。マルコシアの支援も役立っている。レヴィアの魔法も殺傷力は抜群だが、マルコシアのは炎だ。原始的な生物というものは炎を恐れるものだ。だから、炎を恐れない自分たちを特別だと人間たちは思った」
「そうですね。魔族もそうですよ。炎は神からもたらされた贈り物という昔話があります。今は太陽信仰に取って代わられましたが、昔は炎の神を祀ることもあったんです」
「炎は宗教でも重要な立場だな」
日本でも炎で清めるなどと言う言葉があり、様々なものが炎で焼かれる。日本人は無宗教だと思っているが、日常生活や季節のイベントの中に溶け込んだ宗教的儀式はある。それでも久隆は神を信じていないと断言できるが。
「レヴィアの魔法も強力なのよ?」
「ああ。もちろんだ。殺傷力は抜群だ。氷の嵐も氷の槍も敵を攪乱し、ダメージを負わせられる。なくてはならないものだ。これからゴブリン長弓兵が増えるなら、お前の魔法はより一層必要になってくるだろう」
「えへん!」
レヴィアは嬉しそうに胸を張ってチョコレートを齧った。
「フルフル。お前の魔法にも助けられているぞ」
「あ、足手まといにはなっていませんか?」
「なってない。それどころかもっとも重要とまで言っていい」
フルフルは自信なさそうだったが、実際のところ何かあって困るのはレヴィアに続いてフルフルだった。純粋な戦力としてなら、フルフルを失うのがもっとも困る。
フルフルの付呪は身体能力をブーストし、魔法をブーストし、敵の守りを崩し、敵の足を遅らせる。乱戦になった場合、戦場をコントロールするのにフルフルの能力は欠かせないものとなるだろう。後方から追いかけてくる魔物たちの足を遅らせ、味方をブーストし、突破口を作る。
「実際、フルフルも自信がついて来たんじゃないか? 最近では適切なタイミングで付呪をかけてくれるようになっているだろう?」
「あれはサクラさんから指示というか指摘がありまして……。私は未だに戦場にいるのが怖いんです。けど、戦わなければならないと思って戦っています」
「それは上等だ。本物の勇気だ」
ナノマシンで作られた人工の勇気でも、人工の殺意でもなく、自分の意志で戦場で戦う。それこそが本物の勇気だと久隆は思っていた。
先進国の軍隊が兵士たちを甘やかしているとは思わない。ただ、少しばかり過保護ではある。もちろん、それには理由がある。1ダース120ドルの子供兵と違って、現在の先進国の兵士たちには大金が投じられ、専門性を得ている。
対戦車ミサイルは敵のアクティブディフェンスシステムを掻い潜るためにハイテク装備となった。それを戦場という極限状態で運用するのには専門性が必要になる。
それ以外にも戦術級小型ドローンやアーマードスーツ、強化外骨格を取り扱うには専門性が必要だった。まだまだある。熱光学迷彩などもそうだ。
その上、特殊作戦部隊ではただの射撃の訓練だけでも、1個小隊が1個連隊並みの弾薬を消耗する。普通の部隊でもVRトレーニングマシンの運用費を始めとする新しい予算の必要性が生じ始めていた。
だから、軍は過保護になる。
大金を投じた兵士たちが無駄にならないようにと。
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