隠密作戦
本日1回目の更新です。
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──隠密作戦
久隆は小石を拾ってゴブリン長弓兵に投げつけた。ゴブリン長弓兵は周囲を見渡し、仲間を連れて久隆たちの方向に向かってくる。ここまでは上層でやっていたことと変わりない。それから斧と短剣と軍用ナイフで喉を切り裂くことも。
だが、ここからが問題だ。
ゴブリンシャーマンと残り数体のゴブリン長弓兵は仕留め切れていない。それに加えて足音からして近くに鎧オークがいる。少し間違えばあっという間にもうひとつのゴブリン集団と重装オーガ、鎧ジャイアントオーガを巻き込んで大乱闘だ。
乱戦になれば危険度が上がる。遠距離火力、近距離火力が入り乱れ、自軍に損害が発生する恐れも十二分にあり得る。
それだけは避けなければ。
都合のいい話だが、自軍に損害を出さず、敵だけ倒したい。そう思うのはどの指揮官も同じことだ。犠牲覚悟の作戦などは志願制にするが、それでも犠牲を最小限に抑えることは指揮官の責務であり、望みだった。
久隆も犠牲は出したくない。だが、任務として危険に挑まないわけにはいかない。
「ここからは外科手術のように慎重にやる。魔法はまだ使うな。サクラ、そのコンパウンドボウはどれくらい連射できる?」
「5発毎分というところです。しかし、命中率は落ちます」
「そうか。じゃあ、慎重に目標を選ばないとな」
久隆はゴブリン長弓兵がいるだろう方向に向けて音もなく進む。
陣形はいつものように久隆、レヴィア、フルフル、マルコシア、フォルネウス、サクラの順である。彼らは音を立てずにゴブリンたちのいる方向に向かっていく。
「ゴブリンシャーマンを視認」
ゴブリンシャーマンの周囲にゴブリン長弓兵が2名展開している。注意を惹いて釣り上げるには少しばかり際どい配置だ。3体のゴブリンが3方向を向いており、そして近くからは鎧オークの足音が響いている。
「サクラ。ゴブリンシャーマンを仕留めてくれ。残りは俺が片付ける」
「了解」
「3カウントだ」
久隆はそう告げて3秒数える。
3──2──1──。
サクラが前に出てゴブリンシャーマンの頭にコンパウンドボウから矢を叩き込んだ。それに続いて久隆が突撃する。
ゴブリンたちが突然のことに動揺しているが、それが鎮まる時間的猶予は与えられなかった。久隆が軍用ナイフを投擲してゴブリン長弓兵の1体を仕留め、斧でもう1体を仕留めた。ゴブリンは悲鳴も上げず、全てが静かに終結した。
「よしよし。敵が気づいた様子はない。このまま静かに仕留めていくぞ」
「久隆、凄いの……。本当に気づかれずに倒しちゃったの」
「そういう技術を学んできたからな」
特殊作戦部隊において隠密行動は重要だ。
敵地深くで、必ずしも友軍の支援が受けられる状況になく、それでいて大勢の敵を相手にする彼らは血痕の一滴、周辺の植生、自身の体臭の変化にすら気を配る。軍用犬が歩哨に使われることもあるし、熱光学迷彩を剥がす電磁パルスが使用されることもある。テクノロジーの加護は万能ではない。
テクノロジーに頼らず、自身の技術と知識で隠密行動が取れることは必須事項だった。訓練課程ではテクノロジーの加護のひとつもなく──銃やライトすらない──状況で、対抗部隊から3か月逃げ続けるという訓練すらあった。
対抗部隊は完全にテクノロジーの加護を受けている。軍用犬のような原始的なものから、ナノマシンによる視神経割込み補正型暗視装置、特殊なフェロモンで目標をマーキングする技術まで。
3か月間、そのような技術力を有する対抗部隊から逃げ、サバイバルを行い、最後まで捕まらなければ訓練は合格だ。
久隆はそのような訓練課程も経ていた。彼はある意味、海軍特別陸戦隊の歴史に残る離れ業をやって見せてもいた。最後の1週間、対抗部隊から逃げるのではなく、対抗部隊を攻撃したのである。
原始的な非殺傷のブービートラップで対抗部隊を翻弄し、対抗部隊の司令部に侵入し、そのまま対抗部隊の司令官を捕虜にして司令部に立て籠もった。
逃げるのではなく、攻撃に出た久隆の姿勢は評価されたものの、対抗部隊の司令官は人質にされて暫くの間は非常に不機嫌であった。
静かに行動し、それでいて攻撃によって主導権を握ることも忘れない。久隆は優れた特殊作戦部隊の士官だと言えただろう。
東南アジアの戦争でもその技術と知識は発揮された。訓練よりも実戦の方が楽だというのはよくあることで、民兵や海賊は軍用犬など育てていないし、人工的に合成されたフェロモンを物品に付着させておくことで追跡することもしない。
ドローンに対する電子攻撃はあったが、それぐらいのハイテクさしかなかった。それからありきたりな赤外線レーザーへの接触をトリガーにした即席爆発装置。
久隆たちはただただアナログな方法で発見されないように用心し、姿なく、民兵の指導者を暗殺し、爆撃を誘導し、現地部隊とともに少しずつ現地の人々の暮らすべき土地である国土を奪還していった。
ある民兵たちは久隆たち日本海軍特別陸戦隊に懸賞金をかけた。それほどまでに久隆たちの存在が恐ろしかったのだ。音もなく、気配もなく、幽霊のように自分たちの支配地域に忍び込む幽霊たちに怯えていたのだ。
「もう1グループの方を叩くぞ。隠密はここまでだ。次は派手に、だが迅速に片付ける」
久隆はそう告げ、捜索班を率いてゴブリンたちの方を目指す。
動き回る鎧オーク、重装オーガ、鎧ジャイアントオーガを避けつつ、ゴブリンたちに接近する。ゴブリンたちも移動し続けているので、きちんと追わなければならない。その点は久隆とサクラがいるので問題ない。
「ゴブリン長弓兵6体とゴブリンシャーマン1体。確認した」
久隆は少しばかり開けたフロアになっている場所でゴブリンたちを発見した。
「どうするの?」
「フルフルが付呪をかけたら、レヴィアとマルコシアが魔法を叩き込め。生き残りは俺とフォルネウスで片付ける。サクラ、お前はゴブリンシャーマンを確実に仕留めてくれ」
ゴブリンシャーマンさえいなくなれば敵の火力は激減する。
「では、まず付呪を。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
フルフルが付呪をかける。
「では、3カウントだ」
3──2──1──。
「今だ。やれ、レヴィア、マルコシア!」
久隆が合図を出す。
「『吹き荒れろ、氷の嵐!』」
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
レヴィアとマルコシアが同時に魔術を叩き込む。
ゴブリン長弓兵たちはパニックに陥り、切り裂かれ、焼かれた体で逃げ回る。
そして、嵐が収まった瞬間にサクラがコンパウンドボウでゴブリンシャーマンの頭を貫いた。ゴブリンシャーマンは矢の衝撃で倒れ、消滅する。
「フォルネウス!」
「了解!」
そして、残存する敵の掃討のために久隆とフォルネウスが突撃した。
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