物資の到着と療養
本日1回目の更新です。
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──物資の到着と療養
久隆たちは1日ダンジョンに潜っていたつもりだったが、実際には半日と経っていなかった。朱門も無事に地上に戻って、必要な薬品や機材の手配などを行っていた。
その翌日、追加発注していた災害非常食とペットボトルの水、そしてサクラが注文していたコンパウンドボウのパーツが届いた。
それぞれが生体認証とサインを済ませて物資を受け取り、中身を確認する。
「どんな食事が人気なんですか?」
「いや。それは俺も知らないな。マルコシア、フォルネウス。どういう食事がダンジョン内では人気があった?」
ダンジョンに長く潜っていた経験のあるマルコシアとフォルネウスに久隆はサクラの疑問を尋ねてみた。
「そうですね。女子はあっさりした食事が好みですね。野菜が多いものも好評でした。男子は肉ですね。とにかく肉を食べたがっていました」
「保存食の肉が美味いのには驚きました。干し肉というのは味が薄くて、固くて、あまり美味しくないんですが、あの特別な食事は温かくて、美味しいというとてもいいものでした。あれで全員の士気が大きく上がりましたよ」
マルコシアとフォルネウスが答える。
「だ、そうだ」
「食事はやはり大切ですね。誰が戦闘糧食III型なんて考えたんでしょう」
「戦闘を経験したことがある奴でないことと、料理の味見をしない奴なのは確実だ」
長期任務で戦闘糧食III型が配布されると士官から兵卒まで嫌な顔をするのが、日本国防四軍の共通点だった。
「しかし、何が人気だとかを考慮しなかったから、まとめ買いセットメニューになっているが、その点は大丈夫か?」
「もちろんですよ。食事があるだけで、温かい食事があるだけで士気は向上してますから。文句を言うようなものはいません」
「それならいいが」
久隆たちは災害非常食とペットボトルの段ボール箱を抱えるとダンジョンの入り口付近にまで運んでいった。
「来ますかね?」
「来るだろう。いや、時間が狂っているから今とは限らないだろうが」
サクラと久隆はそう言葉を交わし、じっとダンジョンの入り口で魔族たちが出てくるのを待つ。迎えに行きたい気持ちもあったが、20階層以降の戦闘でレヴィアたちには負荷をかけたので、なるべく休ませておいてやりたい。
「足音がする」
「魔族ですね」
サクラもダンジョン内に存在するものたちの足音の聞き分けができるようになっていた。実際のところ、彼女の方が索敵能力は優れていると言っていい。彼女の方が、久隆よりも軍歴も、戦歴も長いのだから。
「久隆様!」
「ようこそ、地上へ。負傷者などはいるか?」
「ひとり。ゴブリン弓兵に矢で足を」
「分かった。医者を呼ぼう。他は地上で休養を命じられたものたちがいるだろう?」
久隆がそう尋ねると8名いた魔族の内、3名が手を挙げた。
「よし。残りの連中はこいつを20階層に届けてくれ。頼むぞ。食い物と水だ」
「感謝します、久隆様」
魔族たちは深々と頭を下げると、荷物を抱えてダンジョンの中に戻っていた。
「負傷者と療養者はこっちに来てくれ。歓迎する。2、3日程度だが、地上の太陽を楽しんでいってくれ」
久隆はそう告げて魔族たちを導き負傷している兵士は背負い、家に運んでいった。
「朱門! 急患だ。足に矢を受けている」
「よし来た。外科医の仕事だ。任せておけ」
久隆は患者を朱門のところまで運ぶと、朱門は早速治療を始めた。
「さて、残る3名は2階に部屋がある。そこで休んでくれ。食事はこちらで準備するから、それを食べて、太陽の日差しを浴び、体内時計を整えてくれ」
「はい」
久隆は2階の部屋に魔族たちを案内し、彼に寝床とトイレと風呂の使い方と場所を教えた。療養者3名の中には女性騎士も含まれており、彼女は風呂にワクワクした視線を向けていた。衛生状態が決していいとは言えないダンジョンから出て風呂に入るのは格別なことだろう。
「じゃあ、俺はスーパーに弁当の買い出しに行って来る。留守を頼む、サクラ」
「分かりました、久隆さん」
レヴィアたちには接客は任せられない。海外の親戚というのはあまりにも無茶がある設定なのだ。そんなものがいれば、村中で噂になってもおかしくない。
久隆は朱門に頼んでおくためにスーパーで弁当を人数分と惣菜に関するメモを作成した。これを朱門に渡し、朱門には療養者の面倒を見てもらうつもりだった。
久隆はまたダンジョンに潜らなければならない。早くべリアを見つけなければならないのだ。いくら焦るなとしても、悠長にもしてられない。レヴィアたちは幸い、日常と非日常の線引きができており、ストレスを抱えたまま過ごすことにはなっていない。
この線引きがあいまいなゲリラ戦──非対称戦というのは、兵士の神経を摩耗させ、彼らを追い詰めてしまうのである。だからこそ、日本国防四軍は今や民間軍事企業としてカウントされる日本の土木建築企業に依頼して、基地に日本の光景を作り、その周囲を対戦車ロケット弾の直撃でも吹き飛ばせない壁で覆ったのだ。
基地の中にいる限り、そこは安全な日本で、兵士たちの精神を休めさせた。
久隆の家はその基地のようなものだ。ここにいればダンジョンの危険とは無関係。心の底から安らぐことができる。それが重要だった。
切り替えができないと、それこそ心的外傷後ストレス障害を負うことになる。
「おや。球磨さん。買い物ですか?」
「ええ。ちょっとばかり」
久隆がそんなことを考えながら弁当を選んでいると老人が話しかけてきた。
「球磨さん。何かいつも荷物が届いているみたいだし、都会から来たような人がいるって話だけど、なにかあったのかね?」
全く噂好きの年寄りというのはと久隆は呆れながらも答えを考えた。
「高校時代の同級生たちが遊びに来ているんですよ。それにみんな軍人で」
「はあ。同窓会というわけだね。球磨さんも早くいい人が見つかるといいね」
「そうですね」
そうやって余計な一言が多いから俺は田舎の年寄りに馴染めないのだと久隆は思う。
久隆は儀礼的な挨拶を済ませると買い物を終えて、帰宅し、弁当を冷蔵庫に入れると朱門が手当てしている患者の様子を見に行った。
「どうだ?」
「矢を受けた患者を治療するのは初めてだが、そう難しくはない。少なくとも7.62ミリ弾でできた銃創を治療するよりはマシだ。麻酔も問題ないし、抗生物質にも問題ない。傷口が塞がるのに2、3日ってところだな」
「そうか。そいつはよかった」
久隆は一先ず安堵した。
「それから朱門。俺たちがダンジョンに潜っている間に、療養している連中の面倒を頼む。食事さえ準備してくれればいい。弁当はスーパーのここに売ってある。今日の昼の分はもう買ってあるから、夜を頼む。スーパーは8時まで開いている」
「分かった、分かった。面倒見ておこう」
朱門は面倒くさそうにしながらも頷いた。
「他に医者としての助言は?」
「ない」
朱門はそう告げて、タブレット端末でカルテを書き始めた。
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