22階層制圧に向けて
本日1回目の更新です。
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──22階層制圧に向けて
「レヴィア。お前はどうなんだ?」
「ふふん。聞いて驚くのね。満タンまでは10分。次の魔法までは1分なのよ」
「凄いな。物凄い回復スピードじゃないか」
「そうなの。レヴィアは特別なのよ」
流石は魔王を名乗るだけはあって、魔法についてはフルフルよりも上手だった。
「レヴィア陛下は幼いころから厳しい鍛錬を積まれておられますし、魔法使いとしては世界最高峰とも言われる前王妃殿下の血を引いておられます。我々とは文字通り格が違うのです。ですが、レヴィア陛下は幼いので全体の魔力量はそう多くないはずです。あまり無理はされないようにお願いします」
「分かった。レヴィアについては慎重に扱おう」
レヴィアが急性魔力欠乏症を起こすような状況は、フルフルやマルコシアも満身創痍である可能性が高い。無理はさせられない。
「よし。改めて全員の回復量については把握した。魔力回復ポーションはなるべく温存しながら前進したい。乱戦になって魔法がどうしても連発しなければならないような状況になったら、魔力回復ポーションだけが頼りだからな」
「了解なの!」
「では、地図を作ったら次の階層に向かうぞ」
久隆たちは21階層の偵察部隊が確認した地図に自分たちが把握した情報を追加する。
地図の作成が終わると22階層へと降りる。
「ジャイアントオーガ4体、オーガ4体、オーク6体、ゴブリン12体。こいつはまた大歓迎だな。ゴブリンから潰すが今回も最初は隠密でやる。可能な限り」
ゴブリンはやはり2グループに分かれている。1グループずつ隠密で潰さないと、最初に騒ぎを起こしてはやってきたジャイアントオーガ、オーガ、オークとの乱戦の中、ゴブリン長弓兵やゴブリンシャーマンを相手にすることになってしまう。
そうなれば乱戦では済まない。カオスだ。
ダンジョンを逃げ回りながらの戦闘になるだろう。久隆とサクラは訓練を受けているからいいものの、レヴィアたちは走りながらの戦闘は難しいはずだ。
だから、なるべくならば静かに片付けたい。隠密で行動し、先手を打てるのは有利な条件になるものである。
もっとも隠密作戦の場合、神経を使うし、武器の使用は制限されるし、全力では戦えない。その分頭を働かせねばならない。
「ゴブリン視認。ゴブリン長弓兵5体、ゴブリンシャーマン1体だ」
「どうするの?」
「釣り上げる」
久隆は手に握った小石を21階層と同じ要領でゴブリン長弓兵に投げつける。
ゴブリン長弓兵は周囲をきょろきょろと見渡し、周囲に散らばる。
ゴブリン長弓兵のうち3体が久隆たちの方向に向かってきた。
「フォルネウス、サクラ。音を立てるな」
「了解」
久隆たちは武器を構え、ゴブリン長弓兵たちが向かってくるのを待つ。
そして、仕留める。音もなく、相手に気づかれることなく、ゴブリン長弓兵が死んだ。残りゴブリン長弓兵2体とゴブリンシャーマン1体。
ゴブリン長弓兵は味方が見えなくなったことで周囲を見渡している。あちこちを歩き回りながら、最終的に久隆たちの方向に向かってきた。
ゴブリン長弓兵は引き込まれるようにして曲がり角に消え、そのままもう姿を現すことはなかった。
残りゴブリンシャーマン1体。
「サクラ。音を立てずに仕留められるか?」
「ええ。できますよ」
「なら、頼む」
サクラはコンパウンドボウを絞ると矢を放った。
矢はゴブリンシャーマンの眼球を貫き、ゴブリンシャーマンは音もなく崩れ落ちた。
「クリア。もう1グループを叩けば、ゴブリンの脅威はなくなる」
久隆たちは足音を立てることなく、もう一方のゴブリンのグループに向かう。
「いた。ゴブリン長弓兵5体、ゴブリンシャーマン1体。さっきと同じ編成だな。ゴブリンシャーマンがもっと出てくるかと思ったが、数は限定されているようだな」
「ゴブリンたちはゴブリンロードかゴブリンシャーマンを中心に部族を作ると言われているの。けど、魔物に知性はないと最近では分かっているの。知性がないのにどうして部族のようなものを作るのかは謎なの」
「ふうむ。学者にとっては興味深いテーマかもしれないが、現状連中が複数のゴブリンシャーマンを連れていないだけで十分だ」
久隆はよくよくゴブリンたちを観察する。
「レヴィア。開戦第一撃でゴブリンシャーマンを仕留められるか?」
「できるの」
「よし。マルコシアはゴブリン長弓兵を叩いてくれ。サクラもゴブリン長弓兵を。それで隙が生じたら俺が突入する」
ゴブリンシャーマンは速攻で叩くべし。21階層で得た戦訓だ。
「3カウントだ。フルフルは付呪を」
「はい。『このものに戦神の加護を。力を与えたまえ。戦士に力を』」
「よし。準備万端」
3──2──1──。
「今だ、レヴィア」
「『斬り裂け、氷の刃!』」
レヴィアが繰り出した氷の刃はゴブリンシャーマンの首を刎ね飛ばすのに十分な威力を有していた。
「『焼き尽くせ、炎の旋風!』」
続いてマルコシアとサクラが魔法とコンパウンドボウでゴブリン長弓兵たちを攻撃する。一瞬のことに驚いているゴブリンたちがあっという間に2体まる焼け、1体が頭部を貫かれて倒れた。
そして、久隆が突撃する。
彼は混乱状態のゴブリン長弓兵に一撃を食らわし、息の根を止める。
ゴブリン長弓兵は辛うじて矢を放ったが、防弾チョッキによって防がれた。
「あぶねえだろうが」
久隆はゴブリン長弓兵が次の矢を番えようとする中、首を刎ね飛ばした。
「さて、お客さんの歓迎タイムだ。油断はするな。だが、緊張もしすぎるな。適度な緊張状態を維持しろ。もっとも適切なリズムを自分に刻め。心拍数、呼吸、歩調。そういうものを整えて、緊張を制御下に置くんだ」
「む、難しいの」
「すぐには無理だ。だが、始めなければ永遠に獲得できない。努力しろ」
海軍も、陸軍も、空軍も、情報軍も脳にナノマシンを叩き込み、兵士たちに人工的な緊張状態を持たせる。戦闘において緊張はある程度必要だ。どんな仕事でもたるんでいては仕事にならないように、ある程度の緊張感を持って戦闘に望まなければならない。
だが、緊張しすぎることは悪影響を及ぼす。緊張のあまり動けない。緊張のあまり適切な指示が出せない。そうなってはダメだ。
ナノマシンが適切に管理してきた緊張感を久隆とサクラは覚えている。適切な緊張を維持するために必要な呼吸の頻度。心拍数。歩調。体に叩き込まれた適切な緊張感は、ナノマシンを除去した後も覚えている。
それに東南アジアの戦争を戦ったのは脳にナノマシンを注入した日本のような西側の軍隊だけではない。東南アジア諸国のナノマシンを導入する予算のない軍隊もともに戦った。彼らは自分たちの手で適切な緊張を維持できるように訓練を受けた。
だから、ナノマシンがなくとも緊張感は維持できるのだ。
「では、行くぞ。叩きのめして、昼飯だ」
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