勝利の知らせ
本日2回目の更新です。
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──勝利の知らせ
「勝ったぞ、レヴィア」
「やったのね!」
20階層から上がってきた久隆が告げるとレヴィアが歓声を上げた。
「アガレスたちにも伝えよう。拠点を安全な場所に移す機会だ」
「もちろんなの。みんな、きっと喜ぶのね!」
レヴィアはわいわいと無邪気に喜んでいる。
「魔法、なくても本当に大丈夫だったんですね」
マルコシアは少し寂しそうだった。
「もちろん、魔法が通用する環境なら使えた方がいい。だが、今回の敵に魔法は通じなかった。そうだろう? 時と場合によって臨機応変に戦っていかないと、無駄な犠牲を出すし、その犠牲によってダンジョン攻略に失敗するかもしれない」
「でも……」
「マルコシア。ここまでこれたのはお前たちのおかげだ。自信を持て。今回はたまたまそうだっただけだ。ここまでの道を切り開くのにも、ここからの道を切り開くのにも、魔法は必ず必要になってくる」
「はい!」
マルコシアは宮廷魔術師というだけあって魔法には自信があったのだが、今回は戦えなかったために落ち込んでいたようだ。
「さあ、15階層を目指そう。アガレスたちに勝利の知らせを、だ」
「おー!」
久隆たちは凱旋する。15階層で待つアガレスたちを目指して。
「レヴィア陛下たちが戻られたぞ!」
「おお。まさか本当に20階層の……?」
15階層にいる魔族たちの注目がレヴィアたちに集まる。
「20階層のバイコーンは久隆たちが討伐したの! 20階層はもう安全なの!」
「おおーっ!」
一斉に歓声が沸きたつ。
「これで、これでやっと……」
「あいつのこと、迎えに行ってやらないとな……」
魔族たちは感動のあまり涙を流しながらレヴィアに跪く。
「レヴィア陛下、久隆殿! 20階層のバイコーンの討伐とは事実ですか!?」
アガレスはパイモン砦から出てきて、久隆たちに尋ねた。
「久隆がやっつけたの! それからフォルネウスとフルフルとサクラ! 勲章ものの活躍だったの! これで20階層に拠点が持てるのね!」
「それは……! このダンジョンの攻略にも期待が持てるようになりましたな!」
アガレスは本当に嬉しそうだった。
「アガレス。ちょっといいか?」
「なんだろうか、久隆殿」
そんなアガレスを久隆がレヴィアから離れた場所に呼ぶ。
「20階層には相当な魔族の死体があった。恐らくはバイコーンにやられたものだ。レヴィアたちが発見するとメンタルに影響がでかねない。密かに弔ってくれるか? 正式な供養はこのクソッタレなダンジョンをどうにかしてからだ」
「うむ。我々は仲間の死体もおいてはいかない。ダンジョンに仲間の死体が取り残されるようなことがあってはならない。情報に感謝する、久隆殿。確かに陛下が今、殺されてしまったものたちを見るのは辛いだろう。我々が拠点を移す際に弔っておく」
「ああ。頼んだ」
兵士が精神を病むのは戦場のショッキングな光景を自分の目で見るからでもある。死んだ仲間の死体。死んだ民間人の死体。死んだ敵の子供兵の死体。そういうものを目撃して、平気でいられる人間というのは少ない。ことさら、死者の尊厳などなく、死後に暴行されていたり、死体をアートだと思っている民兵たちのやった光景を見れば。
バイコーンは魔族の死体に露ほどの関心も示さない化け物だったが、それでも多くの魔族を殺している。そして、殺された魔族の死体はそのときのまま放置されている。弔われることもなく、死に化粧を施されることもなく、死体は死体として存在している。
これまでそういうものを目撃することなく、事実としては多くの魔族が犠牲になっていることを知っているレヴィアたちだとしても、ありのままの現実を突き付けられれば、衝撃を受けるに違いない。
レヴィアは子供だ。そして、兵士でもある。子供兵の心的外傷後ストレス障害は問題になっている。トラウマのせいで社会復帰できず、また民兵やギャングなどの犯罪組織に加わって居場所を見出す子供兵は問題になっている。
NGOはそうした子供たちを社会復帰させるプログラムを国連とともに行ってきたが、彼らが社会復帰させる子供兵よりも多くの子供兵が生まれていることが現実だ。
東南アジアで、中央アジアで子供兵は安価な戦力として利用される。
久隆もこうして子供を戦力として当てにしている以上、そういう軍閥に文句は言えない。ただし、子供兵が、レヴィアたちが社会復帰できなくなるようなことは避けたかった。だから、彼女たちの心がなるべく傷つかないように手配したかった。
それは子供兵に限ったことではない。
日本海軍の部下たちにもなるべくトラウマを負うようなことがないように久隆は尽力したつもりだった。この引き金を引くのは指揮官である久隆の命令だから。敵は国際社会の敵であり、それは倒さなければならないから。そう思わせる。
いくらナノマシンが進歩しても、戦場のトラウマを完全に消し去ることは不可能だと分かっている。それができていれば、誰も苦労はしない。軍にカウンセラーを常駐させる必要もないし、民間軍事医療企業との契約も必要ない。
トラウマが消えないからこそ、心の傷が小さな働き者たちの手だけではどうにもならないからこそ、上官が、軍医が、カウンセラーが、民間軍事医療企業の分析医が、必要になってくるのである。
久隆もその上官としての務めを果たす。これまでも、これからも。
「久隆、久隆! 今日はお祝いなの!」
「お祝いはこの間やっただろう?」
「今回も勝利したからお祝いするの! するの!」
「分かった、分かった。しゃぶしゃぶの店に行こう」
「お肉は? お肉は食べられるの?」
「もちろんだ。野菜も食えよ」
「いえいなの!」
レヴィアは拳を振り上げると、勝利を祝う魔族たちに加わっていった。
「よう、久隆。馬の化け物、ぶっ殺せたみたいだな。怪我は?」
すると向こうから朱門がやってきた。
「幸い、大丈夫だ。ここにいる連中の診察はどうだった?」
「こういう安直な診断は下したくないが、まあ心的外傷後ストレス障害を患っているのが何人かいるな。それから太陽光に触れないことで体内バランスの崩れている人間。栄養の偏りで体調不良の人間。そして、軽い風邪の症状が見られる人間。いや、人間じゃなくて魔族か。まあ、そういう連中がいて、処置しなければならん」
「どうすればいい?」
「海軍でもメンタルヘルスの維持については学ぶだろう? 心的外傷後ストレス障害の連中は抗うつ剤を出すか、集団セラピーだ。俺としてはどう副作用が出るか分からない抗うつ剤よりも集団セラピーの方をおすすめするがね」
「やはり脳の構造は異なると思うか?」
「まあな。臓器の類は人間とほぼ同じであることを確認している。ちとばかり許可を得て、戦死者の遺体をナノマシンでスキャンした。昔読んでたSF雑誌の結論と同じで、地球型環境で育った知的生命体は人間と同じ形態になる。だが、脳は別だ」
朱門が煙草を探すように胸ポケットを探る。
「ここでは吸うな。換気できん」
「ちっ。まあ、ナノマシンでスキャンした結果でもそうなんだが、脳の構造が一部異なっている。そして、人間にとって脳とは未だに深海よりも深い謎に包まれている」
朱門はそう告げて話を続けた。
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