19階層の戦い
本日1回目の更新です。
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──19階層の戦い
久隆たちはモンスターハウスのあった18階層まで潜った。
18階層には偵察部隊を派遣しているから注意してくれとアガレスからは言われている。既に18階層は掃討したのだが、一応確認しておきたいようだ。
「ここでの戦いは凄いものだったのね」
「そうなの?」
「そうなの! レヴィアとみんなで迫りくる大量の魔物をバッタバッタと倒してやったのね。その数は50体を超えているの!」
「まあ、それは凄いね」
「ふふん。あれだけの戦いができたのも久隆のおかげなのね」
レヴィアは自慢げに久隆を見る。
「久隆は本当に凄いの。レベルは低いのにステータスはとても高いし、いつも適切な指示を出してくれるの。久隆は軍隊にいたときからそうだったの?」
「久隆さんは海軍にいたときから優秀な指揮官でしたよ。隊員たちを一致団結させ、適切な判断を下し、部隊に必要なものは必ず手に入れ、部隊を支えてくれました」
「おお。やっぱりそうなのね。レヴィアは久隆が優秀な指揮官だって思ってたの!」
サクラとレヴィアの話が盛り上がっているのを久隆は聞いていた。
サクラだって優秀な指揮官じゃないかと久隆は思う。
叩き上げの准士官の言葉なら、一介の海軍少佐の意見よりも隊員たちが信じる。だから、久隆はサクラに敢えて説明を頼んだりしていた。だが、責任を取るのは上位の指揮官である久隆だ。その点は履き違えていない。
そして、物資の調達はどちらかと言えばサクラの方が上手だった。彼女は作戦がどのような状況になるのかを適切に予想し、それに相応しい装備を求めていた。久隆は指揮官の立場から可能な限り、それらの物資を集めた。海軍士官の仕事は戦うことだけではなく、書類仕事も含まれているのだ。ひたすら書類と格闘しなければ物資は手に入らない。
命に係わるのに? と思うかもしれないが、軍隊も人間の作った組織で、その範疇を出ない以上は、お役所と同じなのだ。書類は上官の承認を受けて、しっかりと保管され、誰がどのような物資をどれだけ消費したかが記録される。そして兵站参謀たちが、今後の物資の調達を予想する。
その書類仕事もサクラが手伝ってくれた。本来はこればかりは久隆がやらなければならない仕事なのだが、物資調達の可否はサクラ自身と彼女のチームの人命がかかっている。杜撰な書類で物資の調達が許可されなかったということは避けたい。
それから久隆にできなくて、サクラだけにできる仕事もあった。
員数外装備の取り扱いだ。
書類上は存在しないことになっている装備。
前のチームが使用したことになっていたが、実際には使われずに残っていたものや、鹵獲した装備品。サクラはそういうものを管理していた。
あると便利である。書類にはないので壊そうが、どうしようが構いはしない。鹵獲装備に至っては戦場に放置して撤退しようと問題ない。ただ、鹵獲装備を使っていると友軍識別で間違いが起こりかねないのが問題である。
まあ、ともあれサクラは久隆より従軍歴が長いだけあって、軍隊の裏も知っていた。兵士たちの本当の息抜きにも貢献してくれていた。車座になり、それぞれの戦場での経験を話し、共有する。それだけで兵士たちが戦場で背負った重荷が降りる。
サクラが指揮をしている限り、兵士たちのメンタルについて心配はいらなかった。
そういう意味では久隆は非常にサクラを重宝していた。
だが、自分がサクラにとって優秀な士官だったのかどうかは分からない。無能だったら、そもそも指揮参謀課程を通過できなかっただろうが、結局あの時学んだ知識は現実では役に立たなかった。久隆は参謀になる前に吹き飛ばされてしまった。
「さて、ここから先が19階層だ」
久隆は19階層を見下ろす。
「サクラ。説明したが、魔物は音に敏感な節がある。その点、注意してくれ。それから連中の急所は人間と同じだ」
「了解」
サクラが真剣な表情で頷く。
「では、進むぞ」
久隆が19階層に降りる。
「ジャイアントオーガ2体、オーガ2体、オーク3体、ゴブリン2体。前と同じように捜索班の油断を誘う配置だな」
「油断を誘う配置?」
「エリアボスの手前の階層は敢えて魔物を少なくして、敵の油断を誘っている」
「ふうむ。説明ではダンジョンはダンジョンコアが管理しているように思えましたが、ダンジョンコアに知性は?」
「不明だ。だが、油断していると裏をかかれる恐れがある。東南アジアのときと同じように頼む。期待しているぞ」
「了解」
サクラはコンパウンドボウを取り出し、矢筒を背中に背負った。太もものホルスターには久隆と同じように海軍時代から使っている軍用ナイフを身に着けている。
サクラの服装は迷彩柄のカーゴパンツ、ノースリーブのタンクトップ、その上から長袖の黒と青のジャケットを纏っている。長袖、長ズボン。怪我をせずに済む服装だ。
「では、ゴブリンの方から片付けるぞ。ゴブリンも弓を使う」
久隆たちは定石通りにゴブリン弓兵を潰しに行く。
今回はゴブリンの数はたったの2体だ。フルフルの付呪すら必要ではない。
久隆とサクラは斧と軍用ナイフを握るとゴブリンの背後にゆっくりと迫り、久隆はゴブリンの頭を潰し、サクラはゴブリンの口を押さえて喉を掻き切った。
そして、音もなくゴブリンたちが倒れる。
「クリア。次だ。オークから仕留めていこう」
ゴブリンの死体が金貨と宝石に変わるのを見ながら、サクラが久隆に続く。
今回の隊形は前方に久隆とサクラ。中央にレヴィアとフルフル。後方にマルコシアとフォルネウスという配置だ。
久隆は自分とレヴィアを1グループ、フルフルとマルコシアを1グループ。フォルネウスとサクラを1グループにするのが柔軟な部隊運用を可能にすると思っていた。
サクラを後方に置くことで、前方で久隆に何かあっても指揮系統に影響がでないようにしたかったのだ。それにマルコシアの火力を前方にも、後方にも運用できるのは望ましい。サクラはコンパウンドボウを使えるので遠距離火力としては十分。
それにサクラは格闘に関しては久隆よりも上だったはずだ。体力そのものは久隆の方が上なのだが、サクラはテクニックでそれを覆す。そういう意味ではサクラにフォルネウスを任せるのはいいことかもしれない。久隆よりも教育にいいはずだ。
「オーク。3体。ここからは派手にいこう。フルフル、付呪を。レヴィアは魔法準備」
「了解なの」
付呪についても既にサクラには説明済みだ。
だが、実際に付呪を受けることと、魔法攻撃と連携した攻撃はこれが初めてだ。
彼女がこの環境に適応できるか。久隆はサクラにも気を配った。
「3カウントでいくぞ」
久隆は3カウントを始める。
3──2──1──……。
「今だ。レヴィア!」
「『降り注げ、氷の槍!』」
オークの頭上に氷の槍が降り注ぐ。鎧を貫いて突き刺さった氷の槍を前にオークたちが大混乱に陥る。
そして、さらに追い打ちをかけるようにサクラが矢を放つ。矢はオークの眼球を貫き、即死させた。そのままサクラは次の矢を番えて、狙いを定める。
だが、次を放つ必要はなかった。久隆が残りのオークを片づけてしまったからだ。
「どうだ、サクラ。これがダンジョンの戦闘ってものだ。次が来るぞ」
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