91.洗礼
不逞領域に突入した俺たちを襲ったのはドラゴンの群れだった。
インディクスが用意した魔王城の迎撃装置で何とか切り抜けたが、その先にはスカルドラゴンが待ち構えていた。
スカルドラゴンには魔法が効きにくい。
ただし、俺の言霊なら別だった。
落ちろの一言で、スカルドラゴンが落下していく。
「本当に落とせた」
自分でも驚きだった。
スカルドラゴンが強力なモンスターだということは間違いない。
言霊は、相手が強いほど効きにくく、魔力の消耗も激しい。
にもかかわらず、今の一言で消費した魔力はごく少量だった。
「喉の調子も……うん、悪くない」
やっぱりルリアナの力が覚醒してくれたお陰かな。
俺の中にある先代魔王の力も、同時に強化されている。
これなら現魔王……リブラルカにも通じるか。
「っと、そろそろ戻らないと」
いつまでも暴風雨の中にいたら、そのうち風邪をひくかもしれない。
魔王の力が宿っていても、身体は人間なんだから。
「戻ったよ」
「おっかえりー!」
制御室に戻ると、アレクシアが一番に出迎えてくれた。
「すごかったね! 一瞬でドラゴンが落ちたよ!」
「俺も自分でビックリしたよ」
「エイト、喉の調子は?」
「全然大丈夫。心配してくれてたんだね、レナ」
俺はわかりきった質問を彼女に投げかけた。
するとレナは、ムスッとした顔で言う。
「当たり前でしょ」
知っていたことだけど、彼女の反応を見て安心する。
続けてルリアナが腰に手を当てて賛辞をくれる。
「よくやったぞエイト! さすが妾の弟じゃな!」
「ありがとう。ん、え? 弟?」
何の話?
「お前さんは先代から力を継いでるだろ? だから姉弟みたいなもんなんだと」
「ああ、でも何で俺が弟なんですかね?」
「それはオレも疑問だったんだが~」
「自分のほうが魔王だから! って言っていたわよ」
そう言う話を、アスランさんとフレミアさんは修行の時にしていたらしい。
なるほど、と彼女らしさを感じて。
とりあえず納得しておくことにした。
でも俺としては、兄妹ならルリアナが妹って感じだけど。
穏やかに話す俺たちを横目に、インディクスは大きなため息をこぼす。
「まったく、緊張感の欠片らもないな」
「良いじゃないか。緊張しすぎているよりマシさ」
それを隣で聞いていたユーレアスさんが答える。
彼の言葉を聞いてから、インディクスはもう一度大きくため息をこぼす。
「気を抜きすぎだと言っているんだよ。ここはもう、半分奴らの領域だ。さっきのスカルドラゴンも、魔王の差し金かもしれないのだぞ」
「それはまぁ……そうだね。だとしたらルートを変えるべきかな?」
「どうだろうね。どのルートでも結果は同じだと思うが?」
「じゃあこのまま直行で!」
「短絡的だな」
呆れるインディクスに、ユーレアスさんは胸を張って言う。
「大丈夫さ! また襲ってきてもエイト君に落としてもらおう!」
「他力本願がすぎるぞ」
「他人を頼る前に、マスターも働いてください」
「え? 何でまた説教されてるの?」
やれやれ。
あっちはあっちで緊張感がないな。
魔王城へ向かっている最中だというのに、普段通り過ぎる。
でもそうか。
これから決戦……強大な敵と戦うのに、怖くないんだ。
皆が一緒にいれば、何だって出来るがして。
「エイト君何で笑ってるの?」
「ん? いや、何でも」
「またエッチなことでも考えていたんでしょ」
「えぇ~」
「ち、ちがうから! というかまたって何だ」
こういう時、何気なく冗談が言えるのことも……強さの一つなのかもしれないな。
ただ、さすがにそろそろ気を引き締めるべきだ。
僅かにだけど確実に、近づいている実感がある。
俺たちの宿敵に。
「皆さま、じきに見えてきます」
セルスさんがそう言う。
真面目で低い声が、俺たちの気を引き締める。
不逞領域の嵐が治まってきていた。
近づいている。
どんどん……決戦の地へ。
そして遂に――
不逞領域を抜けた。
その先に見えたのは、漆黒の城。
薄暗い世界にそびえる巨大な城に、紫色の怪しい光が点々と灯っている。
「あれが……現魔王の城」
先代魔王の城から、何となくイメージしていた。
それを超える禍々しさを感じる。
見た目に大きな差はない。
王国にあるような城にも近い。
なのに……城の黒さが、怪しさが際立って、見るだけで不安を煽る。
「あそこに魔王が……」
ん?
何だ今、城の上部が光って――
「まずい」
インディクスが何かに気付いた。
焦った声で叫ぶ。
「衝撃に備えろ!」
次の瞬間、魔王城から高エネルギーの砲弾が放たれた。
わずかに見えた光は、魔道装置発動の合図だったらしい。
強力な攻撃に晒され、結界が破壊される。
「ぐっ……」
各々柱や壁に掴まり、衝撃に耐える。
インディクスは操作を続けているが、明らかに城の高度が落ちていた。
「ねぇインディクス、これって」
「ああ、察しの通り……今ので飛行装置が壊れたな」
「やっぱりか」
インディクスとユーレアスさん。
二人の淡々とした会話が聞こえたその後で、俺たちの城は墜落した。
予定よりちょっと早い?ですが、第四章(最終章)ぼちぼち更新していきます!
ちなみに書籍版は5/1発売予定!






