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【WEB版】この宮廷付与術師、規格外につき〜人類唯一のスキル「言霊使い」で、俺は世界に命令する〜【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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77.失いたくないもの

 アレクシアを中心に、俺たちはモードレスに挑む。

 俺の言霊で危ないときは動きを止め、隙は他のみんなが作る。

 フレミアさんの回復もあるから、致命傷さえ受けなければ死ぬことはない。

 問題があるとすれば、俺たちの体力がどこまでもつのか。


「まず間違いなく、あれに体力なんて概念はないだろうね」

「でしょうね。もう一つ言えば、魔力の総量も底が知れませんよ」

「ああ」


 後衛で援護する俺とユーレアスさん。

 距離が遠い分、前衛で戦うアレクシアたちより冷静に分析できる。

 そして分析するほどに勝ち筋が消えていくのが一番困る。


「時間をかけるほど不利になる。とはいっても、無策で挑めば死ぬだけだ。エイト君、喉はまだ平気かい?」

「ええ。まだ大丈夫です」

「無駄撃ちしちゃだめだよ。君の力は、僕らが死なないためにも不可欠だ」

「わかってます」


 止める以上の強力な言霊は使わないほうが良さそうだ。

 無駄になる可能性が高いし、先に俺の喉が潰れたらみんなを守れない。

 ただ現状、押されているのは俺たちのほうだ。

 せめてもう一手ほしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 アレクシアたちの戦闘を傍観するインディクス。

 その傍らには彼を見張るエリザと、先代魔王の娘ルリアナと彼女に仕えるセルスの姿もあった。

 セルスは眉をひそめて戦いを見つめる。


「ルリアナ様、私も彼らの援護に入ります。おそらくこのままでは勝てない」

「待つのじゃ爺! それなら妾も」

「なりません」


 セルスは力強く否定した。

 ルリアナはびくっと身を震わせる。


「お言葉ですが、ルリアナ様があの戦いに入れば間違いなく殺されます」

「じゃ、じゃが……」

「まるで自分は殺されないような言い方だな」


 二人の会話に口を挟んだのはインディクスだった。

 セルスは彼を睨む。


「どういう意味でしょう?」

「そう睨まないでくれ。私は可能性を口にしたまでだ」

「……私は殺されると?」

「その可能性は高いだろうな。いや、君に限った話ではない」


 話ながらインディクスはモードレスとの戦いに視線を向ける。


「見ての通り苦戦している。手が足りないのは事実だ。その理由は彼らが庇い合っているからだ。犠牲を前提にして戦えば勝てるものを、わざわざ不利な方法を選択している。まったく理解できない」

「……何人ですか?」

「ん?」

「貴方の予測では、何人の犠牲が必要ですか?」

「爺?」


 不安そうにセルスを見つめるルリアナ。

 インディクスは悩むことなく答える。


「最低でも一人は犠牲になるだろう。無論、要である勇者以外の誰かだ」

「なるほど」

「その犠牲に自分がなるつもりか?」

「必要とあらばそうしましょう。元より枯れかけの命です」

「だ、駄目じゃ! 絶対に駄目じゃぞ爺!」


 慌ててセルスの服の裾を掴むルリアナ。

 セルスはそんなルリアナを諭すように言う。


「ご安心ください。最初から死ぬつもりはありません。ただ私にとってはルリアナ様の命が最優先。そして彼らも、魔王を倒せる彼らを見殺しにはできない」

「爺……約束じゃぞ! 絶対に死ぬな! 誰も死なせるな!」

「かしこまりました」


 セルスは剣を抜き、モードレスとの戦いに参戦する。


「セルスさん!」

「遅くなりました。私もこれよりご助力いたします」

「ありがとうございます!」


 彼の実力を身をもって体感している彼女たちにとって、彼の参戦は待ちに待ったものだった。

 セルスが加わったことで戦闘が安定する。

 ただし一時的に。

 底なしの力を前に、徐々に戦況は不利へと傾く。

 インディクスの発言は正しかった。

 彼らは犠牲を前提にしていない。

 庇い合い、倒すことよりも、互いが死なないことを優先している。

 それでは一歩どころか十歩以上足りない。 


「……」


 セルスの最優先はルリアナの生存。

 と同時に、彼女の心身も気にかけている。

 自分が死ねば、彼女は心に深い傷を残すだろうとわかっていた。

 だから踏み切れずにいた。

 それでも、失ってしまうよりは良いと、諦めたようにため息をつく。


「セルスさん?」

「爺!」


 セルスが真正面からモードレスに向っていった。

 無謀とも思える突撃に驚く一同と、心配そうな顔で名前を呼ぶルリアナ。


「私が隙を作ります! 皆さんはその隙を――」


 命がけの特攻。

 それをあざ笑うかのように、モードレスの茨が周囲を覆う。


「なっ、ごほっ……」

「爺!」

「セルスさん!」


 茨がセルスの腹を貫く。

 一本一本は細いが、鋭い棘が肉を抉る。

 危険なのは彼だけではない。

 茨は四方に広がっている。

 アレクシアたちも吹き飛ばされ、散り散りになって地面に倒れ込む。


「くっ……」

「勇者ぁ、お前は、君は、ここ、ここで死んだほうが幸せだよ」

「【止、まれ】」


 言霊によって僅かに動きを止めたが、アレクシアも傷が深い。

 一瞬では逃げられなかった。


「くそっ……アレクシア」

「まだ……です」


 セルスがアレクシアの前で立ち上がる。


「駄目じゃ……駄目じゃ爺」


 ルリアナの瞳が潤む。

 決死の覚悟を決めるセルスを見て、彼の死が脳裏に過る。

 仲間たちも倒れ、フレミアの治療も届かない距離だ。


「嫌じゃ……せっかく会えたのに、妾は、妾は」


 その繋がりを失いたくない。

 彼女の思いに、奥底で眠っていた力が応える。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすく、進行速度も良い。 キャラクターの書き分けも出来ている。 (同キャラの発言が連続する場合、 「」2回に分けると混乱する事あり) エピソードごと、内容が解りやすい。 他人称視点でグ…
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