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【WEB版】この宮廷付与術師、規格外につき〜人類唯一のスキル「言霊使い」で、俺は世界に命令する〜【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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69.己の起源を知る

「父上……会いたかったのじゃ」

「ああ、私も会いたかったよ。ルリアナ」


 本を開く前、涙を必死に堪えていたルリアナ。

 今ではそれが嘘のように、大粒の涙を流している。

 亡き父親と再会したことで、我慢なんてしていられなくなったのだろう。

 抱き着き泣き続ける彼女の頭をサタグレアが撫でる。


 そのまま視線を俺のほうにむける。

 俺と目が合うと、彼は小さく笑って言う。


「君とは本当に初めましてだね?」

「はい。その……あなたが先代魔王……なんですか?」

「そうだよ」

「……」

「そうは見えないだろう?」


 俺はこくりと頷いた。

 すると彼は呆れたように笑って言う。


「素直だね。まぁ昔からよく言われていたよ。悪魔らしくないとか、人間みたいだとか。もう慣れてしまったが……それにしても、若い頃の私に似ているな」

「え、誰がですか?」

「君以外いないよ」


 俺が……似ている?

 確かに、誰かと似ているような気はした。

 その誰かで最初に思い浮かんだのは、俺の父親だ。

 小さい頃に亡くなった俺の父親と、サタグレアは雰囲気が似ている。


「そうか。だから君に渡ったのかな? いや偶然か。まぁどちらでも良い」


 何の話をしているのだろう。

 わからない俺は首を傾げる。


 サタグレアは、ルリアナの名前を呼ぶ。


「ルリアナ」

「父上?」

「すまない、そろそろ泣き止んでほしい。あまり時間がないんだ」

「え……」

「この空間は、生前に私が残しておいた保険なんだ。そう長く保てない。あと十数分もすれば崩壊してしまう。その前に、伝えるべきことがあるんだ」


 そう言って、サタグレアは俺に目を向ける。


「君にもだ」

「俺に?」

「そうだ。リブラルカを止めるためには君の力も必要だ」

「父上? 何の話をしているのじゃ?」

「それを今から説明するよ。まずはリブラルカのことだ。もう知っての通り、私は彼を止められなかった。こうなることはわかっていたのに……不甲斐ない話だ」


 サタグレアは未来を予知する千里眼を有していた。

 全てを見通せるわけではないが、自身と深く関係する出来事、特に危機には敏感だった。

 彼は戦う前から、自分が死ぬことを予感してた。

 それでも彼は、説得を試みたのだ。

 戦いを好まない彼を、リブラルカは問答無用に襲った。

 

「私の言葉は彼には届かなかった。どうにかして未来を変えたかった……その結果がこれだ。部下を危険にさらし、娘を一人にしてしまった」

「父上は悪くないのじゃ! 悪いのは全部あいつじゃ! あいつが裏切ったから」

「違うよ。裏切らせてしまった私に問題があったんだ。君を一人にしてしまったのも、彼を説得できると、やり直せると欲をかいたからだ。結局、多くを失ってしまった」


 未来が見えていたのなら、他の方法を選ぶべきだったのかもしれない。

 説得なんてせずに戦っていれば、結果は変わっていたのかも。

 でも……


「彼女は生きている。失ってなんかいませんよ」

「お前……」

「ありがとう。だが、それも永遠ではないんだ」

「どういう意味ですか?」

「私が死の直前に見た最後の予知。それは……私の仇を討とうとリブラルカに挑み、無残に殺されるルリアナとセルスだった」


 俺とルリアナが驚愕する。


「そんな……」

「私は後悔したよ。自分の選択がいかに愚かだったのかと……だから最後に、私は自分の力の一部を切り離して、世界に放ったんだ」


 それは魔王の因子と呼ぶべきものだろう。

 サタグレアは死ぬ間際、悲惨な未来を変えるため、自分の力を誰かに託そうとした。

 未来視の力と魔法の力で時間すら超え、魔王の力を宿し、使いこなせる誰かの元へ送った。


「それが君だよ」


 サタグレアは俺を指さしてそう言った。


「俺に……?」

「そう。君の中には私の力が宿っている。最後に飛ばした私の力は時空を超えて、君の元にたどり着いた。だから本の仕掛けも解くことが出来たんだ。私の力に反応して、この本は開いた」


 彼の手にはいつの間にか、魔王にしか開けないという本が握られてた。


「元々は別の用途で作った物だったのだが、それを上手く活用させてもらった。力を切り離した後で、自分の意識も切り離し、この本に閉じ込めた。こうして、君たちと話をするために」


 俺はこの時、彼から感じた懐かしさの理由に気付いた。

 父親と似ているとかじゃない。

 俺の中に、彼の力が眠っているから。

 両親よりも、誰よりも、自分の中にもう一人の誰かを住まわせていたように。

 身近な存在だったからこそ、俺は懐かしいと感じた。


 魔王軍の幹部たちが驚いた理由もわかる。

 言霊使いの力は、本来人間には宿らないのだろう。

 それが俺の中にある。

 だとしたら、俺が勇者パーティに選ばれたことも全て、最初から決まっていたことのように思える。

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