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【WEB版】この宮廷付与術師、規格外につき〜人類唯一のスキル「言霊使い」で、俺は世界に命令する〜【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三章

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65.もう一人の魔王は女の子?

 幼さを感じる声だった。

 俺たちは見上げる。

 老魔が立っていた場所と同じ天辺に、十歳くらいの小さな女の子が立っていた。

 赤黒いくるっとした髪に、ルビーのように赤い瞳。

 頭からは小さな角が二本、背中には悪魔の羽、腰の後ろから尻尾が見える。


「爺から離れるのじゃ!」

「何だ? 子供か?」

「いけません魔王様! この者らはただの人間ではありません!」

「「魔王!?」」


 老魔の口から魔王と聞こえた。

 一番近くで聞いていたアレクシアとアスランさんは、目を丸くして驚く。


 あの女の子が魔王?

 まったくそうは見えないけど。


「ここは妾の城じゃ! 勝手は許さん!」


 彼女は天辺から飛び降りようとしている。

 見た目からは強さが感じられない。

 しかし、恐ろしく強い老魔が魔王と口にした。

 事実であれば、油断できる相手ではない。

 そんな細かい理由までは考えられなかったけど、俺は反射的に口が動いていた。


「『動くな』」


 強敵だとすれば、絶対に主導権を渡してはならない。

 これまでの戦いで学んだこと。

 相手の土俵で戦えば、どうしたって苦戦を強いられる。

 だから先手を取る。

 老魔が無理やり言霊を打ち破った光景が記憶に新しい。

 おそらくすぐに解かれると思い、次の手へ移ろうとしていた。


 のだが……


「な、何じゃ? 動けんぞ!」

「あれ?」


 普通に言霊が効いていた。


「魔王様!」

 

 深い傷を負った老魔が助けに入ろうとした。

 しかし傷に痛みが走ったのか、膝が抜けて地面に手を突いてしまう。

 演技っぽくなく、本気で焦っているように見える。


「ユーレアスさん!」

「んっ? 全く君はお人よしだな」


 俺の意図を察したユーレアスさんが指を鳴らす。

 彼女が落下する下には、老魔が弾き飛ばした剣が散らかっていた。

 そのうちの一本と入れ替わり、彼女を両腕で受け止める。


「ふぅ、間に合った」

「……」

「あ、えっと、大丈夫?」

「う、うん。ありがとうなのじゃ……って違うのじゃ! きやすく妾に触れるな人間! 何で動けないぃ~」


 彼女は悔しそうな顔を見せる。

 頑張って身体を動かそうとしているのだろう。

 ふんっと息を止めて力を入れている。


「あーごめん。言霊を解除してなかった。『動いて良いよ』」


 だからたぶん、タイミングが悪かったのだろう。

 動かそうとしていた手が急に動いて、俺の顔面に当たった。


「ぶっ!」

「エイト君!」


 い、痛い……


 殴られた顔を抑える俺と、心配して駆け寄るアレクシア。

 抱きかかえていた女の子は殴られた拍子に離してしまった。

 自由になった彼女は偉そうに腕を組む。


「ふ、ふん! 妾に無断で触れたのじゃ! それくらいで済んで幸運だったと思うがよい! た、助けてくれたことには感謝するが……」

「ど、どういたしまして?」

「調子に乗るな! 妾は魔王じゃ!」


 元気いっぱいに叫ぶ彼女を見ていると、何だかほっこりする。

 戦う相手ではないように感じて、気が抜ける。

 

 そしてもう一人、彼女が無事だったことで気が抜けたのか。


「っ……」

「爺!」


 老魔がへたり込んだ。

 傷が深いにも関わらず、無茶をして動こうとした所為だろう。

 倒れた老魔を見た彼女は、俺とアレクシアを無視して老魔のほうへ駆けていく。


「爺! 爺しっかりするのじゃ!」

「魔王様……お逃げ……ください。私はもう……」

「何を言っておるのじゃ! 爺は妾が助ける! だから、だから妾を……一人にしないで」


 彼女の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

 その涙は嘘偽りなく、本物の悲しみが宿っていた。

 俺たちは互いに顔を見合い、そして頷く。


 ユーレアスさんが言う。


「フレミアさん、頼めるかい?」

「ええ」

「すまないね」

「構いません。私も見ていられませんから」


 フレミアさんは優しく微笑み、倒れた老魔の元へ歩く。

 そのまま両手を握り、回復魔法を唱えた。

 彼女の回復魔法は、生きてさえいればどんな傷でも治すことが出来る。

 老魔の傷は一瞬で消えてなくなった。


「こ、これは……」

「爺……爺!」


 老魔に抱き着く女の子を見て、微笑ましさを感じる。

 フレミアさんの表情も、助けて良かったと思っているように見えた。


「な、なぜ私の傷を?」

「さて、どうしてでしょうね」

「その辺りも含めて、僕らと一度話をしませんか?」


 ユーレアスさんの提案に、老魔はしばらく考えていた。

 そして答える。


「わかりました。どうやらあなた方は、私が考えているような人間ではないようですね」

「爺?」

「一度話を聞いてみましょう。もしかすると、我々の目的に繋がるかもしれません」

「……爺がそう言うなら」


 二人とも了承して、俺たちは一時休戦することになった。

 

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