31.恥ずかしいからやめて
第二章スタート!
小さな窓から差し込む月明り。
暗い夜の部屋に明かりはなく、近くにある物以外はハッキリ見えない。
すぐ見える距離に彼女がいる。
人間の体温が高いことを、俺は実感していた。
「寒くないか?」
「ううん、あったかいよ」
アレクシアは嬉しそうにほほ笑んでいる。
そんな彼女の笑顔を見ていると、こっちまで嬉しくなる。
と同時に、罪悪感を感じないわけではなかった。
本当に良かったのかと、今さら考えてしまう。
男らしくないのだろうとわかっているけど、一度考えてしまったらもうそれまで。
「アレクシア」
「なに?」
「その……後悔したりとか――」
「えいっ」
話の途中で、アレクシアが俺のおでこをピンと叩いた。
「いてっ」
「するわけないよ」
そしてハッキリと答えた。
真剣な表情で、言い終わった後にニコリと微笑む。
「大好き」
「アレクシア……」
「嘘じゃないよ? 嘘みたいって自分でも思ったけど、やっぱり嘘じゃなかった。エイト君が傍にいるだけで……もう、胸がいっぱいになるから」
そう言いながら、アレクシアは俺の手をギュッと握る。
温かく、優しく握って、自分の胸に当てる。
「ドキドキしてるよ。ずっと……エイト君は?」
「……ああ」
自分の胸に手を当てる。
なんて確認をしなくてもわかるくらい、心臓の鼓動が激しい。
「俺もだよ」
「そっか……嬉しい」
死線を共に潜り、助け合い生き残った。
互いの命を預け合えばおのずと信頼は培われる。
ただ、それだけでは終わらないこともあったらしい。
少なくとも俺たちの場合は、それ以上のものを受け取っていた。
幸せだと、心から思った。
誰かと繋がるということが、幸福なことだと理解した。
激しい戦いに赴く前に、これを知れてよかったと思う。
そう思った翌日……
「……」
「知ってるかい? エイト君の部屋の左右には僕たちがいたんだよ」
「……そうでしたね」
「あの壁結構薄いんだ。耳なんて当てなくても、静かにしてれば聞こえるくらいにはね」
「……そうだったんですね」
ニヤニヤしながら俺のことを見ているユーレアスさん。
こんなことを言いたくないが、腹が立つからその顔を止めてほしいと思った。
「えっと……どこから聞こえてましたか?」
「最初からだよ?」
「うっ……」
「アレクシアの甘い言葉も魅力的だったね~ あんなこと言えるとは思わなかったよ」
アレクシアは顔を真っ赤にする。
昨晩のことを思い出したのだろう。
口にしている時はともかく、あとから他人に言われると、誰だって堪えるものはある。
「おいユーレアス、もうやめてやれよ」
「そうね。二人とも蒸発しそうよ」
特にアレクシアは今にも走って逃げだしそうな雰囲気だ。
それでもユーレアスさんは面白がって続ける。
「良いじゃないか目出たいことなんだよ! 冒険に恋はつきもの! これからは僕が温かく見守ってあげるからね!」
「お前の場合は生温かくだろ」
「良いこと言うね。さすがアスラン」
「褒めてねぇから。ったく……エイト、アレクシア」
「「はい!」」
「まぁあれだ。別に止めやしねぇから、周りは確認しとけよ? こういう変態に聞かれると面倒だからな」
「肝に銘じておきます」
アスランさんはちょっと怖い見た目だけど、この中で一番優しいのではないか?
と思った瞬間だった。
「変態とは失礼だな~ 僕はただそういうことには目がないだけだよ」
それと同時に、ユーレアスさんに対するイメージもだいぶ変わった。
宴会の時は女性陣に囲まれデレデレしていたし、今も正直ちょっとうざいし。
だから反撃の意味も込めて俺は尋ねる。
「ユーレアスさんはそういうのなかったんですか?」
「ん? 何がだい?」
「いやほら、ユーレアスさん女の人が大好きじゃないですか」
「うん」
そこは否定しないんだな。
清々しく答えた。
「だったら、このパーティーの女性陣は綺麗な人ばかりじゃないですか。ユーレアスさんなら毎日大喜びしてそうなのに」
「あらエイト、貴方なかなか見る目があるわね」
「ふふっ、ありがとうございます」
レナさんとフレミアさんが反応した。
自分で言っておいて申し訳ないけど、めちゃくちゃ恥ずかしい。
ユーレアスさんの反応を窺う。
「はっはは! 僕だって見る眼はあるよ」
「じゃあ」
ユーレアスさんが俺の肩にトンと手をおく。
悟ったような表情で……
「いくら僕でも、彼女たちに手を出す度胸はないさ。まだ死にたくないからね」
「……ああ、なるほど」
女性陣がユーレアスさんを見ながらニコニコ笑っている。
笑顔を心から怖いと思ったのは、これが初めてだったかもしれない。
「まぁとにかく良いことだ。これで僕たちが戦う理由も増えたことだし」
「戦う理由ですか?」
「ああ。幸せを掴み取るために、僕たちは旅を続けるんだよ」
どうしてこのタイミングで良いセリフを口にするのか。
でも確かに、その通りだと思った。
俺にとっても戦う理由は増えたと思う。
守りたいものが近くにある。
それはとても、強い力を与えてくれるだろうと。






