22.出発前の準備は大変です
魔王軍の侵攻は今も続いている。
休んでいる暇はない。
とは言え、急に決まった話であったこともあり、出発は明日の朝になった。
それまでに俺は、旅で必要になる物の準備をすることに。
「最低限武器は必要だよな。弓と矢、うーん武器庫にある付与付きの剣は……さすがに無理か。千本もどうやって保管するんだって」
「千本がどうしたの?」
「いやほら、アービスとの戦いで使った……ってうわっ! 勇者様?」
自然と俺の独り言に入ってきたのは勇者様の声だった。
作業部屋の扉が開いている。
いつの間にか後ろにいて驚かされた。
「その呼び方は余所余所しいよ~ 一緒に戦う仲間なんだし、ボクのことはアレクシアでいいよ! ボクもエイト君って呼ぶから!」
「はぁ……わかりました」
「敬語も禁止! ボク敬語きらいだから!」
そんな理由で?
まぁ別に良いけど。
「えっと、アレクシアはどうしてここに? 何か用事でも?」
「特にないけど?」
「え?」
「え?」
数秒間、部屋がシーンとなる。
「用事もないなら、どうして俺の作業部屋に来たの?」
「何となく? 明かりが漏れてたから、何してるのかなーって覗いたらエイトがいたんだ」
「本当に偶然なんだね」
「うん! お城に戻ってきたのは久しぶりだからさ! ちょっと探検してたんだ!」
アレクシアはニコニコ楽しそうにそう語った。
探検という言葉も久しぶりに聞いた気がする。
子供の頃によく村の近くにあった洞窟を探検して、冒険者ごっことかしていたな。
「それでそれで? 何してるの?」
「え、ああ、明日の準備だよ。必要な物が何なのか考えてるんだけど、予想以上に多くなりそうで困ってるんだ」
「ふぅ~ん。さっき言ってた剣が千本もそう?」
「ああ。剣術は苦手だけど、剣を浮かせて戦うのも一つの武器になるかと思ったんだけどね。さすがに千本は運べないよ」
「それなら良い物があるよ!」
アレクシアがピコーンと何かを閃いた様子。
唐突に立ち上がり出す。
「ちょっと待ってて! とってくるからー!」
「え、ちょっ――行っちゃった」
そのまま仕事部屋から出て行ってしまった。
良い物が何なのか聞こうと思ったんだけど、話をする前に行ってしまったな。
姫様の言っていた通り、思いついたらすぐ行動、が彼女のようだ。
しばらく待っていると、外から誰かが走って来る音が聞こえた。
直後に扉がドンと勢いよく開き、アレクシアが顔を出す。
「持ってきたよ!」
「おかえり」
「これ!」
そう言って差し出したのは、手のひらに乗る程度の黒い箱だった。
正方形で、網目のような模様をしている。
両開きの蓋もあるようだが……
「なにこれ?」
「見てて! ――開門!」
すると、箱のふたが開いた。
中から出てきた黒い霧が出現する。
「な、何?」
「これはね~ いっぱい収納できる魔道具だよ!」
「魔道具? これが……」
「そうだよ! この間の戦いで敵が落としたんだ! 原理はよくわからないけど、この霧の中に物が収納できて、さっきみたいに言うと開くんだ」
「へぇ~ そんな便利な物……ん? 原理分からないの?」
しかも敵から手に入れた物なのか。
それって危険じゃないか?
「ユーレアスが説明してくれたんだけど、ボクにはさっぱりだった! でも便利だからって貰ったんだ!」
「な、なるほど?」
一応、どういうものかはわかっているようだな。
後でユーレアスさんに聞いてみるか。
「エイトにあげるよ!」
「いいのか?」
「うん! よく考えたらボク、そんなに運ぶ物なんてないもん」
「ありがとう。助かるよ」
これで武器の保管が出来る。
あとは騎士団のみんなが使う武器に、付与した効果ごとに分けて……明日までに終わるか?
「やるしかないか」
「どこか行くの?」
「騎士団の武器庫に行こうかと。明日までに終わらせることがたくさんあるんだ」
「そうなんだ~ じゃあボクも手伝うよ!」
「え、休まなくて良いの?」
「だいじょーぶ! これでもボクは勇者だから!」
えっへんと胸を張るアレクシア。
俺は思わず笑ってしまった。
彼女と話していると、何だか妙に落ち着く。
これから戦いに行くということを忘れられる。
俺たちは騎士団の武器庫へやってきた。
「うわ~ 剣がいっぱい!」
「もしかして中に入ったことない?」
「うん! ねぇねぇ何すればいいの?」
「そうだな。まず俺が使う剣の回収からかな」
『飛翔』と『思念駆動』が付与された千本の剣を、アレクシアに貰った魔道具へ収納していく。
その後は、倉庫にある剣や鎧を確認し直して、付与の書き換えをしていく。
勇者パーティーに同行するなら、しばらく城へは戻れない。
俺がいなくても色々な相手に対応できるように、付与の種類を分けて、出来るだけ増やそうと思った。
凄い数だから、朝までに終わるか心配だけど、アレクシアも手伝ってくれたら何とか。
と、思っていた一時間後――
「スゥー、スゥー」
「……」
まさか早々に寝るとは。
しかも剣の鞘を枕にして寝ているし……
「はぁ、やっぱり疲れてるじゃないか」
気持ちよさそうな寝顔を見ていると、仕方がないなと思ってしまった。






