久しぶりのペルレ
ユーバシャールを出て約20日、俺達はペルレまで戻って来ていた。道中は大したトラブルは無かったが、あちこちでノルデン山脈から降りて来た魔族が村を襲っているという話を聞いた。世情を考えてもトルクヴァル商会の、というか俺個人としてもうちょっと戦力を持っておきたいとも思った。
ヴァルブルガとニクラスは護衛として俺の傍を離したくない。俺が一人で動くだけならそれでいいが、今回の旅ではカリーナやレオナの護衛や積み荷の警護等も必要になった。今回は傭兵団『鉄の盾』や傭兵団『貨幣の収穫』が熟していたが、それもペルレに戻れば終わりだ。
クルトは力仕事や突っ込ませたりはいいが、安定した戦力としては計算に入れづらい。ヤスミーンはやる気はあるが、まだ訓練中だ。ザンには敵にならない様に飯を出しているが、どれだけ言う事を聞いてくれるかは未知数だ。やっぱり他に戦力を集めるべきか。
「レンお兄ちゃん、やっとペルレに戻って来たよ。
今日はゆっくり寝れそうね。あ、寝かせてくれなくてもいいのよ。」
「いや、自分の家に帰ってゆっくり寝てくれ。」
レオナの軽口を流す俺だが、他の者達もほっとした顔をしている。ここに来るのが初めてのヤスミーンは興味深そうにキョロキョロしているが、ザンはどうでも良さげだ。
ペルレに到着した俺は、久しぶりに『銀蟻群』の事務所に帰ってた。カリーナ達、ダーミッシュ商会組も傭兵達もペルレに入った所で別れ、それぞれの場所に帰って行った。
『銀蟻群』の事務所の建物は木造5階建てで、俺の居住階は3階。この階は俺の部屋以外は納屋となっていたが、ニクラスとヤスミーン、ハイモも納屋を片付けてこの階に住む事になる。ザンには別に宿を取ったし、ヴァルは護衛なので俺と同室、クルトは床が抜けない様に1階の倉庫だ。
ちなみに1階はアントナイトの倉庫兼作業場、2階は事務所、4~5階は奴隷の寝室だ。奴隷が一番高いフロアにいる事に違和感があるかもしれないが、エレベータが無いので上の階ほど不便で格の低い部屋となっている。特に5階はほぼ屋根裏部屋で、シーツが干されていたりする。
「さあ、ご主人様。来て。」
もう寝ようとしていたところで、ノックもなくヤスミーンが俺の部屋に入って来た。ズボンを下ろして壁に手を付き、俺に生尻を向ける。何だろう。この世界はバックが基本なのだろうか。そんな姿勢にも関わらず、何だか凛々しい立ち姿だ。
マニンガー公国からの帰路では、戦闘訓練を受けていないヤスミーンを戦力としては扱っていなかった。ヤスミーンは小器用に色々な武器を使う二クラスから指導を受けていたが、走れる体型を変えたくない様で、上半身の筋肉を増やさないよう重量武器を避けて小剣や短槍を選んだ様だった。
ヤスミーンは訓練だけで仕事が無いのは申し訳ないと、体を差し出して来た。うん、引き締まった体の上に乗った大きなメロンはとても良かった。そして今夜もお願いした。ヴァルは今夜も見学、いや護衛である。もう顔の傷にも慣れたんで出来なくはないが、何だか関係が落ち着いてしまってそんな気にならない。
翌日、俺はヴァル、ニクラスを連れて金属卸大手で『銀蟻群』の大出資者のダーミッシュ商会へ出向いた。マニンガー公国行きの報告と、利益の分配の為だ。今回の売り上げはおよそ金貨300枚(3000万円)、経費は金貨70枚くらい掛かった。この中で俺の取り分は金貨75枚で、これはヤスミーンの金額でほぼ消える。
経費は俺が出していたので、俺は差額の金貨155枚をユリウスさんに渡した。ちなみにここで言う経費とは、傭兵の契約金とか荷馬車の準備費用、カリーナ達の給料を除いて、純粋に旅の間に掛かった宿泊費とか食費とか入市税とかだ。
これで一旦精算は終了。帰りの積み荷は全て俺が立替た事になるので、そこからユリウスさんが買い取る分の交渉を始める。自分で売り歩けばもっと儲かるかもしれないが、金属大手と喧嘩はしたく無いので金属製品のほぼ全量をユリウスさんに売った。
「レンさん、長旅ご苦労様でした。
色々トラブルもあった様ですが、さすがレンさんですね。
それに帝国製品はカウマンス王国でも人気があるので、
買って来てもらって感謝しますよ。」
「いえいえ、お役に立てた様で何よりですよ。
それで私がペルレを離れている間、大迷宮の方はどうでしたか。」
ミスリル銀の採掘に関しては、人員を増加して取り組んだが採掘量はあまり変わっていないらしい。それにやっぱり採掘奴隷には魔物に襲われる被害も出ている様で、3ヶ月で4人死んでいるという。
アントナイトを隠れ蓑にしているとはいえ、ミスリル銀の情報は機密なので奴隷を中心に作業をさせている。減った奴隷の補充については丁度、小麦の収穫が終わった時期で作業の減った農村から出物があった様で問題なく行えた様だ。
奴隷も財産だから安全には気を付けた作業指示をしているが、それでも魔物のいる迷宮に入らせているのだから危険と無縁ではいられないか。危険を強要している事に罪悪感はあるが、自分の為に止める気はなかったので申し訳なく思うに留めた。




