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帝国船

 出発日を合わせた訳じゃ無いが俺達がユーバシャールの門を出ると同時に、4艘の帝国商船がユーバシャールの港を出て行った。

 5本のマストを持ち全長60mにも及ぶ巨大な船体で、3本マストが多いマニンガー公国の船の倍近くありデカくて威圧感がある。カウマンス王国では銃など見た事は無かったし、マニンガー公国内でも噂くらいしか聞かなかったが、帝国の船には大砲くらい載っていそうだった。

 この世界には魔法があるとはいえ、それは帝国でも同じだろうし、この辺の国との技術格差がこれだけ広いと、もし戦争にでもなったら一方的な戦いになってしまうかもしれない。カウマンス王国に住む一商人(いちしょうにん)としては、そんな事にならない事を祈るばかりである。


 そう言えば、もう一つの大国のザイード教国の船は帆を持ってはいるが手漕ぎが主体で、帝国の船より少し小さいものの50mくらいはあった。大量の奴隷を抱えて漕がせているらしいので、ちょっと俺は倫理観的に距離を置いていた。今回の旅ではザイード教国の船が運んで来た香辛料も、結構買っているのであまり()(ざま)には言えないが。

 いずれにしろ海と潮の匂いとか、海鮮料理とかとは当分の間お別れだ。そう思うとちょっと名残惜しい気もしてくる。オイゲンさんのアクアパッツァ、美味かったな。




 ヴュスト砦の前まで戻って来た俺達は、予想通りというべきかアロイジア公女の前に引っ立てられ、夕食の間、旅の話を強請(ねだ)られた。俺がガイガー商会の用心棒に(なぶ)られる話をそんなに嬉々として聞くなよ。そして、白壁の街テンツラーより東で行われている魔族との戦いの話も聞いた。

 魔族の襲撃はおよそ1ヶ月前、俺達がユーバシャールに着いた辺りから始まったらしい。襲われたのはノルデン山脈の麓の村々で、数十人規模の魔族による襲撃が複数回発生しているが、現地の領主の兵が対応しているという。大規模な盗賊やゴブリンの群れと同じ対応だ。

 ヴュスト砦の公国軍は魔族退治に行かないのか聞いてみると、自領を守れない領主はいずれ減封、改易となるのでギリギリまでは公国軍や周辺領主に助けを求める事は無いという。まあ、貴族は大変だね。




 ヴュスト砦の前の村を出て翌日、白壁の街テンツラーに着いた俺達は奴隷商会を訪れた。そして、ユルゲンさんに現物で貰い、ここで受け取る奴隷はやはり彼女だった。


「ご主人様、待っていたわ。

 私の為にガイガー商会とまで戦ってくれて。今度こそ私の感謝を受け取って!」


 バサリと貫頭衣を脱いで全裸で仁王立ちするヤスミーン。満面の笑みには感謝の念が燦然と浮かんでいる。気まずい、超気まずい。俺はエトガルの前でさっさと見捨ててから、彼女の為には一切動いていない。何でそんな話になっているのか。

 ヤスミーンはどういう話を聞かされたのか真面目に感謝している様で()(たま)れない。いっそ真実を話してしまいたい衝動に駆られたが、そんな事をしても今後のお互いに何のメリットも無いばかりか、関係がギクシャクして嫌な思いをし続ける事になるだろう。

 だから俺は救ったとか救わないとかには触れずこう言った。


「分かった。

 これから俺の為に働いてくれ。頼んだぞ。」


 俺が内心で自分を責めていると、奴隷商が声を掛けて来た。


「レンさん、せっかくですから他の奴隷も見ていかれませんか。」


 まあ、魔族なんて物騒な話もあるし、ユーバシャールでは小金も作れたから戦力になる奴隷がいたら買ってもいいかもしれない。


「分かりました。見せてもらえませんか。」


「ああ、そう言えばカウマンス王国の奴隷もいるんですよ。

 何でも国境線の戦闘で捕虜になったとか。」


 あれ、何だか不穏な気配が。いやいや、確率的に言ってそんな偶然は無いよね。(むし)ろ姫騎士とか、もっと俺にもラノベ主人公的な展開があってもいいじゃないか。無いんだろうな。

 奴隷商館の奥から気配が近付いて来る。3つはキビキビ動いているし、健康そうだ。恐らく商館の使用人だろう。そして、その3つの気配に連れて来られている6つの気配。その反応は疲労、絶望、怒り、恐怖、無気力、こっちはどうやら奴隷か。

 奴隷商人に連れて来られた6人は粗末な貫頭衣を着せられた男達で、元はそれなりに立派な体躯をしていただろうに、肩を落とし、あるいは背を曲げた姿は弱々しい。そのうちの何人かはその目に殺意を込めてこちらを睨んできている。と、一人の男が前に出て来た。


「お、お前はあの時の商人。

 やはりマニンガーの鬼畜どもに(くみ)する者であったか。

 (なん)たる卑怯、何たる非道、何たる邪悪か。」


マニンガー公国の白壁の街テンツラーに入る前、黒壁の街シェードレの間に出会った面倒くさい騎士だ。最後は公国の騎士に捕まっていたが、奴隷になっていたのか。後ろの二人もこの男に同調して非難の声を上げる。

 残り3人のうち、2人は無気力になっているのか足元を見てぼぅとしている。そして1人が奴隷商の使用人が動く前に男を止めようとする。


「若様、落ち着いて下さい。また、奴隷商に殴られますよ。」


「くっ、やんぬるかな。」

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