マニンガーの西を回って
逃げる様にユーバシャールを出てから2週間、俺達はヨアヒムさんに付いてマニンガーの西の貴族領を回っており、その間にユルゲンさんからはマメな伝言を受け取っていた。それによるとエトガルは最初の1週間、契約した行商が消えて思った様に資金が集まらずイライラしていたとか。
そのせいで俺の事もすっかり忘れていたらしい。そしてオークションの日、サンターナ商会が入札に参加することが分かると大激怒。ユルゲンさんの煽りもあってサンターナ商会に金貨100枚(1千万円)で売る予定だった商品を、金貨400枚で落札してくれたらしい。
出来れば現場で激昂するエトガルの前で、ねえっ、今どんな気持ち?って言ってやりたいが、本当にやると取っ捕まってボコられるので、人伝に聞いてざまぁと思うに留める。ちなみに落札価格の半分、金貨200枚はユルゲンさんの協力に対する手数料となった。
それからのガイガー商会は散々だった様だ。行商達は帰って来ず、あるいは砂利混じりの質の悪い小麦を高値で売り付けられ、それでもサンターナ商会との契約量に及ばずに多額の違約金を取られ、生きも絶え絶えのところにハンゼン商会からの手形換金攻勢。
間の悪い事にガイガー商会の後ろ盾となっていたヘンゲン男爵の領地では、ノルデン山脈付近の村が魔族に襲われ、一族郎党を公都から引き揚げて当たらせていた。その中にはガイガー商会に便宜を図っていた衛兵達もおり、ユーバシャールで無茶が通せなくなる。
また俺がユーバシャールに来る前から、水面下ではマルゴットさんのランマース商会とサンターナ商会の交渉が進められており、サンターナ商会はガイガー商会を見限った様だ。ちなみにサンターナ商会側の担当は、アントナイト取引の窓口をやってくれたドミンゴさんだったらしい。
「レンお兄ちゃん、やっとユーバシャールに戻って来れたね。」
「そうだな。結構長引いたな。」
さらに1週間後、馬車二台分の米を積んで俺達はユーバシャールへと戻って来たのだった。この米は日本のとは違うが、ペルレまで持って帰って栽培しようと思っている。あまり現地人には流行りそうも無いので、自分の道楽としてだが。
実は米を作っている村から一人、経験者を雇って連れて来ている。美少女の農業研究家、だったら良かったが残念ながら背が低く顔が横に大きい醜男で、家族と折り合いの悪いハイモという次男坊だ。ちょっと人格に心配はあるが、米栽培さえちゃんとやってくれれば文句は言うまい。
エーレ商会を立ち上げたヨアヒムさんとはマニンガーの西で別れたが、概ね米作りをしている領地の貴族とは米を運送する商会への投資と米の柵付け面積の拡大が同意されたので、今後マニンガーでは米がもっと食べられる様になって行くだろう。
俺達がユーバシャールへ戻った時、ガイガー商会はすっかり資産を差し押さえられ、ほぼ倒産状態になっていた。エトガルには恨みもあったが倒産の事実だけで満足したので、ユーバシャールでは下手に近寄ったりはせず自分の仕事に専念した。
ちなみにユルゲンさんからオークション代金の一部を、エトガルから毟り取ったお得な現物で支払うと言われたので同意した。そのほとんどは、ペルレに買って帰ろうと思っていた帝国製の高品質な品物だったので丁度良かった。
中でも俺にとって一番嬉しかったのは、カウマンス王国には無くマニンガー公国でも入手の難しい帝国製の銃が2丁入っていた事だ。フリントロック(火打石)式のマスケットピストルで、カリブ海賊の映画等で海賊が持っていた様なヤツだ。先込め式なので1発しか撃てないが、体格=攻撃力の世界でいざという時に俺の奥の手となってくれるだろう。
アントナイトの販売代理店をしてもらっているツェベライ商会に寄ってみると、ジワジワと引き合いは増えている様で在庫は半分が売れていた。どうやら青の部屋の展示に加え、オークションでのガイガー商会による高値買い、さらに西から来た商人がヴュスト砦でアロイジア公女に自慢されたらしく興味を持った様だ。
ペルレに戻った後、第2陣を送り出すつもりだが在庫は間に合いそうも無いか。エーレ商会とは収穫を終えた閑散期に、カウマンス王国側と連携してアントナイトの運搬の話をしているが、残りは書面のやり取りだけでも何とかなるだろう。
レストラン『輝く波』にも寄って、オーナー兼料理長のオイゲンにもペルレに戻る旨を伝えておいた。青の部屋は評判がいいのでそのままにしてもらえる様だった。また、マルゴットさんの菓子店にも行って、クルトも引き取った。久しぶりだったが、ちゃんと五体満足で食わせてもらっている様だった。
ユーバシャールには実はもうそれほど用事が無かったので、3日の滞在で出発する事にした。ユルゲンさんの現物支払いには奴隷も含まれていて、例の競技会の徒競走女王ヤスミーンを国境近くの白壁の街テンツラーの奴隷商で引き取る事になっている。
西へと行っている間を除いても20日は過ごしたユーバシャールに色々と思い入れもあるが、魔族の襲撃などと物騒な話もあるので余計なトラブルに巻き込まれない内に俺はさっさと街を出る事にした。




