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魚影

「恐れながらこれはペルレ大迷宮前の都市で作られたものでして、

 こちらは迷宮に潜む、体長20mはある恐怖蟷螂(テラーマンティス)という怪物をモチーフにしております。」


「ほう、君がこれを運んで来た商人かね。」


 俺が補足すると、ここでようやく一同は俺の方に目を向けた。男爵が俺を誰何(すいか)する。


「はい。トルクヴァル商会のレンと申します。

 こちらの青い金属はアントナイトと申しまして、ずっと流通が滞っていたところ、

 最近大迷宮で採掘される様になった珍しい品となります。」


 こんな感じで直接話せるようになって、結局持って来た調度品の1/5程度とインゴットはユーバシャールに持って来た全量を買ってもらえる事になった。調度品については帝国の方が加工技術やデザイン性が優れているので、普通の小箱や燭台等ではなく大迷宮の魔物を模した置物等が購入された。

 ちなみに総額金貨約200枚(2千万円)、調度品についてはこの場にある物はここで納品、インゴット等は明日の納品となった。ちなみに支払いは明日の納品と同時に全額サンターナ商会から行われる。取り巻きの一人と思っていた男が、実はサンターナ商会の人間だった様だ。

 俺はロドリゲス男爵、アイスナー子爵の親族と思われる男が部屋から出て行った後、サンターナ商会のドミンゴ・オロスコ、50代くらいの穏やかそうで愛想のいい男と残りの納品や支払いついて話し合ってから、帝国人達の泊まる高級宿『天馬(ペガサス)の導き』を出た。




 ふははははっ、やったぞ。あのサンターナ商会の狐顔の男に、けんもほろろに追い払われた時には絶望しかかったが、諦めなくて良かった。青の部屋がこんな風に効いて来たのは幸運だった。(むし)ろ、ほぼこれで完売できたのでこの仕事は、(おおむ)ね完了したと思っていい。

 俺は既に夕方になっていたので今のメンバーを連れて、レストラン『(ブライト)(ウェーブ)』の青の部屋を貸りて打ち上げをする事にした。ミッション完了の前祝いだ。


「おめでとうございます、レンさん。

 これでほぼ完売ですね。」


「ふぁああっ、やっとペルレに帰る目途がたったんだな。


 ユーバシャールは飯は美味いが、潮の香っていうのか、

 生臭い様な匂いは正直キツくなっていたところだぜ。」


 ワインを飲みながらオイゲンのシーフードを楽しんでいると、カリーナが祝ってくれ、『(アイロン)(シールド)』のチャラ男ダミアンが本音をぶちまけた。


「カリーナ、ありがとう。

 君にも大変世話になったね。」


「うぅ~ん、でもレンさんとの旅がもう終わりだと思うと、

 レオナ、寂しいな。」


 みんな浮かれているが、仕方ないだろう。そんな弛緩した空気の中、俺は俺達へと向かっている敵の気配を感じた。

 まるで魚群探知機に映る魚影の様に、ゆっくりとここへ近付いて来るその反応は3つ。だが、それはこちらが釣る為の獲物ではなく、(むし)ろこちらを獲物として狙っている。


「全員、武器を持て。

 敵が近付いているぞぉ。」


「ご主人様。」「レンさん。」「旦那。」


 みんな驚いているが、立ち上がって武器に手を伸ばしている。だが、ここで暴れられ、この部屋が壊されるのはマズイ。店の前まで出て、人の多い通りで待ち構えるべきか。それなら最悪、衛兵が来て止めるかもしれない。

 既に日は暮れている。通りは店からの灯りに照らされているとはいえ、現代日本の夜の街とは比べようもなく暗く、現実的な危険性から人通りも少ない。俺達が通りまで出たところで、3つの人影が近付いて来た。よく見覚えのある奴だ。あのイラつかせる豪華な服を着た金髪の男は。


「『鉄の盾』はカリーナとレオナを守ってくれ。マルコ達は下がっていろ。

 ヴァル、ニクラス、頼むぞ。」


 それぞれが守りを固めた時、3人が俺達の目の前5mの位置まで近付いていた。


「ええっと、エトガルさんでしたか。

 私に何か御用で…。」


 そこまで言った時だった。ザンといったか、3人の内の一人、身長が2m近い長身の男は既に『鉄の盾』の間に立って、長剣をカリーナの首元に突き付けていた。


「何ぃ。」「きゃあっ。」「ぐはっ。」


 俺の前に立ったヴァルとニクラスが、マッシュと呼ばれていた筋肉巨人に(つか)まれ、左右に力任せに投げ飛ばされていた。何度かバウンドして5mは離れた所で転がる二人。


「ぎゃぴっ。」


 気付いた時には既に俺はマッシュに頭を掴まれて、地面に引き倒されていた。そしてエトガルが俺の(そば)まで歩いて来て腹を蹴った。


「えあっ。」


「お前、奴隷商にいた外国人だな。

 一体、自分が何をしたか分かってるのか。」


 くそ、あの二人が強い事は分かっていたが、ここまでとは。だが、コイツを怒らせた理由に心当たりが1つも思いつかないぞ。腹が痛いが、何か答えなければ。


「すいません、すいません。

 ほんとーに何が、あなたをそこまで怒らせたか分かりません。

 馬鹿な外国人で申し訳ありませんが、教えて下さい。」


 ここはみっともなくても、プライドをかなぐり捨てるくらい卑屈でも、ずっと下手に出て相手を刺激しないようにしないと殺される。


「この馬鹿が。

 何を勝手にサンターナ商会に物を売ってやがるんだ。」


「ぶほっ。」


 (いて)えっ。また蹴りやがった。


「あそこの金はガイガー商会の為にあるんだ。」


 ん?何を言って、って分かったぞ。

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