いやがらせ大作戦、いや小作戦か
海側の扉を開けているので、レストラン『輝く波』の小屋の中は陽の光が差し込んで青くキラキラ光っていた。こんな内壁はオイゲンも見た事が無いだろう。うん、俺も見た事ない。
敢えて言えば、SF作品の宇宙船の中が近いか。他のメンバも完成時には言葉を失っていたからな。さて、オイゲンはこの部屋を認めてくれるだろうか。
「おいおい、何してくれてんだ。
ここは母屋も小屋も白なんだよ。ここだけこんな青くてキラキラしてたらおかしいだろう。」
むぅ、やっぱりまず反発してきたか。ここはまず落ち着かせよう。
「まあまあ、オイゲンさん。
よく見てくれよ。この部屋の中、何だか海の中にいるみたいじゃないか。
あるいは空の上か。」
「いや、だけどよ。」
オイゲンは周りを見回しながら言う。ちょっと落ち着いたか。
「それにあの穴のあったところは大きな扉にしたんだ。
扉を開けば、このユーバシャールが誇る海と港が一望できるんだぜ。
絶対この青の部屋のファンが出来ると思わないか。」
「ふぅ~む。青の部屋ねぇ。」
よしよし、傾いて来た。あとは引き伸ばして、時間切れ引き分けを狙おう。
「まあ、2ヶ月様子を見てくれよ。
どうしても不評だったら止めるから。」
「う~ん。」
もともと2ヶ月は内装を任せ、使用の優先権をもらう約束だから、そこからは変わっていない。結局、オイゲンは引き下がった。ふう。セーフ。
ただ今日は帝国商人との話も失敗したし、この青い小部屋の内装はダーミッシュ商会で経験を積んでいるっぽいカリーナにも反対されたので、レストランのお客にも総スカンだったらどうしようと心の中でビビっている。オイゲンには自信のあるフリをしているが。
俺はその後、帝国商人の泊まっている高級宿『天馬の導き』に行った時と同じメンバで、あの太ったトカゲ顔、本当にトカゲの獣人ではなくトカゲっぽい顔つき、の金貸しユルゲンのハンゼン商会を訪ねた。
ハンゼン商会の後ろ盾である法務大臣ドレーゼ子爵の三男ヨアヒムは、ハンゼン商会の一部屋を借りて米の運搬を担うエーレ商会を立ち上げようとしてた。俺は一応発案者なので、時々アドバイザーとして訪問する事になっていた。
俺がこのエーレ商会の運営に食い込みたいなら、べったりくっ付いて発言権を獲得した方がいいのだろうが、俺にはそんなところまで手を伸ばせる程の余力はない。ヨアヒムにしても余計な口出しはされたくないだろうから、俺は時々来てちょろっと話して帰る事にしている。
今回俺が来たのは、ユルゲンに会えれば傘下の奴隷商でエトガルが無茶してましたよ、とチクろうと思ったのだ。
「それでエトガルが帝国商会とどんな取引をしているのか、穀物をどの程度確保しているのか調べておいてはどうかと。」
「手形を突き付ける時に、あの宝石小僧の金蔵に金が無い方が面白そうですな。
ほーっほっほっ。」
俺がヨアヒムに会って商会立ち上げの進捗を聞いていたところ、その横に広い体を揺すりながらユルゲンが入って来た。俺が奴隷商での一件を話したが、もうそれは聞いていた様だ。「彼女は人気がありましたからねぇ。ほーっほっほっ。」などと言っていたが、一応俺に含むところは無さそうだった。
そこで小麦を売った商人達に渡した手形を現金に換えさせない件で、手形を買い集めて一気に取り立てるにしてもエトガルが金欠の時がいいのではないかと話した。
ちなみに宝石小僧というのは、エトガルのガイガー商会が元々宝石商だったからだ。エトガルは帝国商人との取引で商売を拡大させ、穀物まで手を広げたのだ。
現在、マニンガー公国では小麦の収穫期に入っている。恐らくエトガルのガイガー商会にしろ、マルゴットのランマース商会にしろ契約農家みたいな物があって一定の売買契約は済んでいるのだろう。そしてエトガルが行商をけし掛けてフリーの農家の小麦を集めている。
エトガルはどうやら実際にフリーの農家が収穫する以上の小麦の収集を小規模行商と契約して、契約不履行時には多額の違約金を取ろうとしている。これは違約金目当てとも思えるが、実際エトガルが収集可能な小麦以上の小麦を必要としているのではないか。
その為に小規模行商で小麦をかき集めると同時に違約金を使って高騰している小麦を市場から集めようとしている可能性もある。小麦を集める理由は帝国商人に売る為だろう。そしてその取引が出来高なのか、一定量を既に契約しているかによってその姿勢も変わるだろう。
エトガルが無理な量を既に帝国商人と契約しているなら、なりふり構わず小麦を集める可能性がある。とはいえマルゴットのランマース商会は、商会の戦力の大部分を契約農家からの輸送の護衛に回している。その他もある程度大きい商会は、護衛を強化している様だ。
そうなると小規模な行商から奪ってチマチマ集めるより、違約金を使って別商会から金で頬を叩いて小麦を集める作戦かもしれない。
このへんの事情が分かれば、エトガルに嫌がらせをする絶好のタイミングが分かるというものだ。ユルゲンもその辺にはすぐ気づいて、情報収集に同意してくれた。




