丘の上の白いレストラン
「ああ、あれか。」
顎の四角い親父は、頭を掻きながら言う。どうも客が暴れて穴が空いたとか。だが相手は評判の良くない大手商会で、修理費が取り立てられなかった。しかも帝国商船特需の好景気で木材が高騰して、今すぐの修理はコストが嵩む。そこで少し木材価格下落を待ってから修理しようと考えているらしい。
3つの小屋は貴族の会食や商人の密談使われているらしいが、3つ全部が埋まる事はまずないので1つが使えなくなっても営業に支障は無い様だ。
修理費用は高騰前で金貨10枚(100万円)、現在では金貨15枚はするそうだ。俺は持っていたアントナイトの燭台を取り出して親父に見せた。
「俺は商人でレンという。
カウマンス王国からこんなアントナイトの調度なんかを売りに来たんだ。
なあ、俺が壁の修理代の増分を出すからすぐに修理しないか。
代わりにその小屋を俺の持って来た商品で飾って宣伝したいんだ。」
「へぇ、こんな青い金属は珍しいな。
う~ん、まあ、あまり店の雰囲気と掛け離れなければいいが。」
そこで俺はレストラン『輝く波』の店主である親父オイゲンと小屋のコンセプトを話し合った。
街から見える南の外壁は白く塗る事、デザインは他の小屋からかけ離れた物にしない、内装は俺に任せるがあまり調度をゴテゴテ置き過ぎて下品にしない、最低2ヶ月は内装を変えない、小屋の使用に関して俺に優先権をもらえる等の条件が決められた。
ユーバシャールの表通りでは小さい貸店舗でも賃貸料が月金貨数枚はする。金貨5枚は高いが、店舗代わりにここを使えれば高い買い物ではないと俺は考えたのだ。
レストランの一室なので常時店舗として使う事は出来ないが、重要な商談では優先権を使ってここを予約する。他の時間はレストランとして使って貰って、置いてあるアントナイトの調度を宣伝してもらうのだ。
調度を気に入った客がいれば、レストランに委託して販売してもらえばいい。それが大口に繋がれば、なお良いだろう。
その日はそれで宿に帰る事にし、翌日の早朝オイゲンと一緒に工務店を訪ねる事になった。翌日、俺はヴァルとニクラス、さらにカリーナとレオナ、『鉄の盾』のイアン、ダミアンを連れて行った。
ショールームを作るのだから、商会で働いた経験の長いカリーナの意見を聞い方がいいと思ってカリーナも連れて行く事にした。レオナは必要なかったが、本人が行きたがったので許可した。
工務店に行ってみると、店側はたまたま今日明日が空いていたので、すぐに直してくれるという事になった。
このレストランは山側に道があるので、母屋も小屋も山側に扉があった。そして海側には窓が幾つかあるのだが、防犯の観点からあまり大きくなかった。
俺は折角の景観が十分に眺められないのはもったいないと思っていたので、今回の修理では丁度小屋の壁の真ん中に空いていた穴の所に、扉を作ってもらう事にした。営業中はこの扉を開け放って、海が見える様にしてもいいだろう。
修繕費がさらに金貨2枚掛かるので経費に細かいカリーナには反対されたが、光が多い方がアントナイトの光沢が活かせると思って押し通した。
さらに翌日の昼、大方の作業が終わったので海側の扉を開け放して、アントナイトの調度を仮置きしてみた。うむ、地味だ。カリーナ達はこんな物だというが、日本のショールーム等を知っている俺にとっては地味に思えてしまう。
俺はふと、アントナイトの2つタイルを取り出して山側の壁に当ててみた。海からの光を受けてキラキラしている。ふむぅ、いいじゃないか。いっそう壁をアントナイトで覆ってしまってはどうだろうか。
青い金属光沢の壁というのは受け入れられない人もいるだろう。オイゲンも怒りそうな気もする。でも、やりたい。こういうのは口だけで言っても、イメージ出来ないまま否定されるだろうから、実物が出来てから話すのがいいだろう。
俺とオイゲンで壁の修復の確認を済ませると、工務店の人々は帰って行く。オイゲンもこれから調度を運び込むと言うと、調理場へと帰って行った。そこで俺はカリーナに声を掛ける。
カリーナには金細工師の所へ行って、大至急でアントナイトのインゴットを薄く引き伸ばして20㎝四方くらいのタイルを沢山作ってもらうよう指示した。タイルの四方には細釘を打つ穴も付けてもらう。
実はユーバシャールに着いた時、運んで来たアントナイトの調度の凹みや傷を金細工師に頼んで直した事があった。客の希望に沿って手直しがいる場合には、また仕事を受けてくれるよう頼んでおいたので今回もやってくれるだろう。
そういえば明日は、帝国商人を紹介してもらえる日か。ちょっとアントナイトの小部屋は間に合わないだろう。残念だ。




