意外な出物
金貸し業ハンゼン商会の会長、トカゲ顔のでぶユルゲンから紹介された奴隷商に行った俺達だが、最初に見せられた奴隷に虚を突かれた。
「こちらユーバシャール競技会の女子徒競走でトップの成績を出し続ける王者ヤスミーンです。」
目の前にいるは昨日、競技場の大衆の面前に全裸で登場し、堂々徒競走一位を勝ち取った浅黒い肌の女性だった。え、何このドッキリ。
確かに運動能力は抜群なのだろう。武術の素養は分からないが、1つの競技で王者を張るというのは生半なポテンシャルではないはずだ。
だが、この明らかな人気選手が何故売りに出ている。決してご新規様へのサービスです、なんて事はないだろう。
「裏がありますよね。」
「勿論です。」
商会の説明によるとどうもこの女性、徒競走で勝ち過ぎて賭けにならなくなり、しかも賭けの胴元にある試合で負ける様にとイカサマを持ち掛けられ同意したが、うっかり勝ってしまい怒った裏社会の人間に嵌められて奴隷に落とされたようだ。
「相手が彼女を奴隷に落としてそれで溜飲を下げてくれればいいですが、
さらなる報復を恐れたとある筋の方が、
信頼できる外国人に売って国外に連れ出してもらえばと。
彼女は裏社会の人間の恨みを買う一方、
これまでの競技実績からファンも多いのです。」
「ファンが彼女を買い取ればいいじゃないですか。
っていうか、それ俺が裏社会の人間に狙われますよね。」
そう言ってみたのだが。まず国内の人間はいずれバレるからダメだそうで、貴族のファンもいるが貴族こそ裏社会の人間がどこの貴族と繋がっているか分からず手が出せないという。
これに対して外国人であれば身元を偽って購入し、国外に出るまでバレなければいいし、購入さえしてもらえればこっそりユーバシャールから連れ出して、白壁の街テンツラーで引き渡す事も出来ると言う。
いやいや、これ俺が一方的にリスクを負ってない。別に俺、そんな凄い彼女のファンという訳じゃ無いんだよ。俺はチラリと彼女を見た。競技場で見た時は裸んぼう万歳な格好だったが、今は奴隷らしいというべきか麻の貫頭衣を着ている。
競技場で見た通り手足はぐっと細く引き締まって、それでいて大きなおっぱいが貫頭衣を押し上げていた。身長は170㎝くらいだろうか。顔はすっと脂肪の抜けて引き締まったスポーツ美人という感じだ。
俺が見ている事に気付いた彼女は徐に足を肩幅に開いて仁王立ちすると、貫頭衣に両手を掛けてズバッとめくり上げて脱ぎ去った。彼女の頭上ではためく貫頭衣。
「ご主人様、私の体を全部見て!」
な、なに言ってんのぉ!?
「私はこれまで徒競走に人生を賭けて来たわ。
ひたすら速く走る為に鍛錬してきたこの私の身体に、女らしい魅力は無いかもしれない。」
いえ、魅力ありますけど。特に2つの大きなその、それが。
「でもユーバシャールでは、いえ世界一速く走れるこの身体は、
神々にさえ恥じる事の無い最高の肉体なの。」
ヤスミーンが俺へと一歩二歩と歩み寄ると、俺はその迫力に気圧されて思わず一歩二歩と後退ってしまった。だが彼女は歩みを止める事無く近付いて来て、俺は壁際まで追い詰めらてしまう。そして彼女は俺の両手を掴むと自分の両胸に押し付けた。
みゅにゅん。あっ、うぅ。変な声が出てしまったのは俺の方だ。
「ご主人様、こんな身体で悪いけど、どうか私を使って。
必ずこの身体でご主人様の役に立ってみせるわ。」
「わ、分かった。分かったから離れてくれ。」
くそ、勢いに押されて買うって言っちゃったよ。この人、身体で役に立つとか言ってるけど、エッチな意味じゃなくて肉の盾的な意味なんだろうな。いや、エッチな意味も含んでいるのかもしれぬ。むぅ。
それにしても、街中で見知らぬ美女にお茶に誘われて喫茶店に入ったら、もの凄く押しの強い営業のオッサン2人が同席して来て、50万円する英語の教材を売り付けられた気分だぜ。この国にクーリングオフは無いだろうが。
「やったわ!」
俺が買うと言った瞬間、両手を振り上げてジャンプしながら全身で喜びを表すヤスミーン。ばよ~ん、ばよ~ん。
「いやいや、レンさんありがとうございます。
彼女のファンを代表してお礼を申し上げます。」
満面の笑みの商会の人。そして彼女の値段を金貨70枚(700万円)と告げる。髙いっス。そりゃスポーツ王者の値段としてはその10倍、100倍でもおかしくないけど。今回、俺に彼女を連れ出して保護して欲しいって事ですよね。寧ろ報酬をもらってもいいと思うのですが。
すぐに契約しようとする商会の人に、彼女は買うから他にも見せて欲しいと頼むと次の人物が出て来た。うん、悪役令嬢だね。その貴族のお嬢様然とした美少女は魔術を使えると言う。こんなところで売られていると言う事は、断罪後ですね。値段は金貨1500枚(一億5千万円)。無理っス。
ラインナップがおかしいよね。ユルゲンさんの紹介だからだろうか。俺は見せてもらう奴隷のグレードを下げて行ってもらい、やっと金貨100枚を切る戦士系の人が出て来た頃だった。
「おい、ヤスミーンを出せ。」
そんな声が外から聞こえた。おや、嫌な気分になる聞いた事がある声だぞ。




