競技場
ユーバシャールの競技場は、中央の円形のダートというか土が剥き出しの競技場を、傾斜の付いた2階建ての客席が囲む形になっている。施設の直径100m弱、競技場自体は直径60mくらいでローマのコロッセオと比べると大きさは半分程度、エレベーターやらプール等の仕掛けは無い。
座席は1階部分が貴族や豪商等のVIP席、2階が一般席だ。俺が7人分の入場料銀貨21枚(約2万1千円)を払って入ったが、一般席は最前列だろうと一番後ろだろうと区別は無い。まだ本命まで時間があるせいか客の入りは2割といったところだろうか。
そしてその2割だが、何と言うか昼前から飲んでいる野卑なオジサン、オジイサンのグループが多い様に思える。折角だから最前列の空きを見付けて座ってみると、近くの集団のひときわ声の大きいジジイが自分の母親が腹まで垂れる程、胸が大きかったと熱弁していた。
明らかに連れの女達が嫌そうな顔をしていたのでその集団を離れようとすると、こちらが女連れなのに気付いて指差して何かがなり立てていた。折角、気分転換に来たのに気分が悪い。
しかし席を変えて徒競走の選手の入場を見た時、そんな記憶は消し飛んだ。入場して来た徒競走の女子選手達は全員全裸だったのだ。おい、これ大丈夫なのか。
選手の入場に観客から歓声が上がる。主に先の野卑なグループからの卑猥な雄叫びだが、それでも少数の選手をリスペクトする様な声も聞こえる。
選手側もコソコソ体を隠すような事は無く、両手を広げて観客に手を振っている。え、これ夜の店じゃ無いよね。こんな堂々とストリップしていいの?
「レンさん、こういうショーだと言って下されば私は遠慮したのですが。
…それとも私にも見せたかったのですか?」
カリーナが目の上に縦線の入った様な表情で俺に問う。
「いや、カリーナ。俺だって知らなかったんだ。」
俺の持っている情報は君達と一緒だからね。
「ご主人様。こんな所に女連れで来なくても。
裸が見たいのなら私に言ってくれれば。」
ヴァルブルガは何の気なく言っているのだろうが、顔の傷や元々強い目力と相まって何だか責められる感がある。
「レンさんのえっちぃ~。」
外見12歳のレオナに上目遣いで言われると、まるで俺がロリを相手に悪い事をしている様に見えるのでやめて欲しい。そしてニクラスと『鉄の盾』の二人は我関せずで堂々と見てやがる。
だが、競技が始まってみると選手たちは皆表情を変えて真剣に走り出した。
「ボーさん、頑張れーっ、頑張れーっ!」
「ヤスミーンーっ、ぶっち切れーっ!お前が最強だーっ!」
「いてまえ、イーダーっ!お前に全額賭けたぞぉーっ!」
俺は混乱したが、少数の真面目に観戦しているらしき観客からは、声援が飛んでいる。というか、賭けもやっているのか。
ふむ、どうやらこれは真面目な競技の様だ。それなら俺も商人としてユーバシャールの慣習を知る為にも、ちゃんと観戦しよう。ブロンド、ブルネット、それに赤毛の選手か。もちろん髪の毛の話だ。ただ、髪の毛の色と身体の他の所の毛の色は遺伝子学的に一緒なわけだが。
走るたびにぶるんぶるん、もしくはぷりんぷりんと振られる。もちろん、振られるのは腕とか脚とか色々だよ。選手のどこに注目するかは観客次第だろう。
徒競走で勝利したのはヤスミーンという長身の女性だった。肌は浅黒いが別に人種が違うというわけではなく、単純に日焼けしているのだろう。女性にしては珍しく短く刈った髪の毛も、もともと金髪なのだろうが日に焼けて赤茶けている。
顔の造形は観客席からでは良く分からないが、目立つ歪さは無い様に見える。おっぱいは大きいが、それ以外は細く贅肉の無い引き締まった身体付きでいわゆるランナー体型だ。
彼女が勝った時、一部でブーイングが上がったのは賭けに負けた連中だろう。彼女は他の選手に明らかに差を付けて勝っていたので、いつもあんな調子だと賭けにならないか。
それから4時頃まで競技を見ていたが、選手は全員全裸だった。もちろん、2時からの男子の部もだ。目測だが2m近いマッチョ達が隠す物も隠さず、競技前にポージングし、そしてレスリングを始めたりしていた。
うへぇーっ、誰得だよと思っていたが、ヴァルとカリーナは顔を手で覆いながら指の隙間から、レオナとニクラスは口笛を吹きながらガン見していた。楽しそうで良かったね、君達。俺は2時過ぎには腹も減ったし出ようかと提案したが、女子連に却下された。
まあ男子の競技も真剣に行われていたし、全裸である事を一旦脇に置けばパワフルで迫力のある試合に思わず手に汗握ったりもしたのだが。
後で聞いたが、サイード教国では鍛え抜かれた肉体を見せるのは恥ずかしい事ではなく、むしろ神々に見てもらう為に競技では全裸なのだそうだ。
そういえば古代オリンピックも似た様な理由で、全裸だったと聞いた事があった様な。ただ選手も観客も女人禁制だった様な気もするが。
思い返せば、金髪美人神官のフリーダも裸を見られても堂々としていたな。サイード教国では裸を恥ずかしがる習慣はないのか、とも思ったが競技場にいた事情通?によると教国でも競技以外では裸になる事はないとか。それはそうか。
そんなこんなで競技場を出た俺達は、夕食を食べながら競技会の感想に花を咲かせる。そして宿『黄金戦艦』に着くと、マルゴットからの伝言が残されていた。




