米
この国にもあったんだ。いかん、カウマンス王国では見なかったから、知った様な事を言うと変に思われるかもしれない。それに似た様に見えて、別物の可能性もあるし。
「小麦じゃないですね。」
「サイード教国の方から入って来た穀物でね。
かなり昔からあるんだが、薬草の一種の扱いで細々と栽培されていたんだ。
それを10年前くらいに飢饉で食糧不足になった時に、
小麦よりも収穫量が多いって言うんで主食として栽培される様になったんだよ。
もっとも小麦よりは人気が無いから、栽培量はせいぜい1/10~1/20くらいだけどね。」
「これを貴女から離れた行商人に代わって取ってくればいいんですか。」
「集めて来る、だね。
私の知り合いの貴族家の領地で細々と育ててるんだけど、
領内を回って集めて来なきゃならないね。」
「土地勘が無いのですが、公都から何日くらいの所ですか。」
「公都からはフィッシャー男爵領が3日、
キルステン男爵領が4日、
シュレーゲル子爵領が6日といったところだね。」
う~ん、3箇所か。これだと近場同士だとしても短くて20日、領同士が離れていたら2ヶ月はかかりそうだ。ユーバシャールに長居してもせいぜい1ヶ月のつもりだから、うちだけで全部は無理だな。
まあ、米があるなら俺も見てみたいし、買えるなら俺も買いたいからこの話に絡むのはやぶさかでない。
ランマース商会でやればいい気もするので、その辺を確認しておくか。
「ランマース商会の荷馬車は足りないので。」
「生憎ね。
うちもこればっかりやってるわけにはいかないから。」
「元行商人なら、ユルゲンさんにお願いすれば融通してもらえるのでは。」
「奴隷かい。
生憎うちも落ち目だからね。
新たにそう何人も抱えられないよ。」
人件費を抑える為に一定の割合の輸送は、個人の行商を使っていたと言う事か。米にしろ麦にしろ収穫期以外は輸送の需要も減るから、閑散期に遊ばせておく人員は減らしたいだろうし。そこに売り上げが減少傾向なのだから、固定費は増やしたくないよな。
しかし、帝国への小麦の流出は減りそうも無いから、穀物の需要はこれからも増加傾向だ。買い集める人員は必要だろうし、公都や公国内の食料を確保する為にも収穫量の多い米の栽培はこれからも増えるのではないだろうか。
これはランマース商会が一商会で考えるよりも、もっと大勢を巻き込める問題のハズ。そうすればランマース商会のリスクも減るし、ついでにそれに噛めれば俺もマニンガーで商売がしやすくなる。
「米の流通が増えると予想されてるなら、
投資を集めて荷馬車も御者も揃える事もできるのでは。」
「うちに方々(ほうぼう)から借金をさせようっていうのかい。」
「違いますよ。
米の集荷と運搬を主とするランマース商会とは別の商会を立ち上げて、
投資額に応じて利益を配当として分配するんです。
商会長はマルゴットさんに兼任してもらう事を考えていますが、
幹部は投資者に就任してもらい共同運営します。」
「投資者は誰を考えているんだい。」
「マルゴットさんに、ユルゲンさん、私、
フィッシャー男爵閣下、キルステン男爵閣下、シュレーゲル子爵閣下、
アロイジア公女殿下もいいかもしれません。
他にもマルゴットさんが相応しいと思う方がいれば、お願してもいいと思います。
投資額は1口金貨十枚(100万円)からとし、
最初の資本金は金貨200枚(2000万円)くらいで考えています。
商会と言っても専任は御者を3人と荷馬車3台、
事務方はランマース商会やハンゼン商会の方の兼任から始めればいいのではないですか。」
「それはアンタを絡ませる意味があるのかい。
うちらだけでやっても変わらないと思うんだけどね。」
「もちろん、私はアイディアを出しただけでここで手を引いても構いません。
ですが、立ち上げの色々な手間をマルゴットさんが主導してやるのは大変では。
それにユーバシャール内の米の集荷は、収穫期だけです。
閑散期には私とマルゴットさんで連絡を取り合って、
カウマンス王国とマニンガー公国の間で貿易をすれば空きを埋められると思います。」
カウマンス王国とマニンガー公国の間には『南の商人街道』が整備され、商人の通行を妨げてはならないという協定がありながら、流通量は多くない。
これは紛争地域の国境を越えるリスクのせいだが、国境付近で出会った騎士クリストハルトさんの様な力があって協定を順守してくれる人を巻き込めば、やり様はありそうだ。
「ふむ。
ユルゲンも言ってたが、いろいろ考えるね。
貿易についてはもうちょっと考えなきゃならないけど、
立ち上げはアンタに任せてもいいかもしれないね。
まあ、その話は私の方でもユルゲンに話しておこう。
他に心当たりもあるしね。
話が進む様ならアンタに使いを出そう。帝国の商船の紹介もその時だね。
宿はどこに泊まっているんだい。」
ブフォ、ちょっと名前を言うのは恥ずかしいぞ。まあ、俺だけの感覚かもしれないが。
「『黄金戦艦』です。」
「ああ、あそこか。分かった、そこに使いを出すよ。」
ふ、普通の反応だ。俺が気にし過ぎか。
「あの、私は…。」
そういえば、ノーラはまだいたのか。




