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薪不足

 俺はバグベアと目が合いそうになって、寸前で目を()らす事に成功した。探知スキルがバグベア自体の接近よりも大きな警鐘を鳴らしたからだ。アレと目を合わせてはヤバイ。俺はその場にいたヴァルブルガ達にも、決してバグベアと目を合わせない様に言う。

 だが問題は傭兵達か。彼らとバグベアの戦いは、自分が怪我しない様に戦っているせいか、魔物を倒しきれず長期戦の様相(ようそう)(てい)している。長期に隊商を護衛する傭兵なら当たり前かもしれないが、戦いが長引けばいずれ目を合わせる者も出るだろう。

 だからと言って戦いを急がせて彼らが怪我してもマズイ。回復魔法なんて無いので、怪我人を抱えると(あと)でこの旅の負担になるだろう。何より俺が言ったからって怪我を承知で特攻を掛けてくれるとも思えない。


 俺が命じれば特攻を掛けてくれそうなのは、ヴァル、クルト、ニクラスか。だがヴァルとニクラスはきっと傭兵達と似た戦い方になるだろうし、手数が増えても戦況が一気に変わるかといえば微妙だろう。ならばパワーとガタイでバグベアと対抗できそうなクルトか。俺は傭兵達に叫んだ。


「『(アイロン)(シールド)』、『貨幣(マネー)収穫(ハーベスト)』!

 今からクルトがそいつを取り押さえに行くから、真ん中を開けてくれ。

 クルトが組み付いたら、(とど)めを頼む。」


 クルトにバグベアの目を見るなと言っても難しそうなので、足元を見て腰に抱き付いて押し倒せ、押し倒したらそのまま抑えておけば子豚をまる1匹やると言った。そして傭兵達が真ん中を開けるのを待って、クルトの背を叩いて行くよう合図する。

 クルトがバグベアに突っ込んだ。傭兵達が左右からバグベアの両手を引き付けていたので、意外な程そのラグビーの様なタックルが決まってバグベアが倒れ込む。クルトの身長は2mを超えるが、バグベアは3m近いので子供と大人くらい差がある。それでもクルトが腰にしがみ付いて蹴られても離れないので起き上がれない。

 『鉄の盾』は3本の槍の柄を使ってバグベアの左手を抑えつけ、3人掛かりで体重を掛けて動かないようにする。そうして『鉄の盾』のリーダー、イアンさんが叫んだ。


「今だ、『貨幣の収穫』!

 止めを刺せ!」


「おう、いくどぉ!」


 何か指示役を取られた様でモヤっとしたが、現場は現場に任せるか。シグチーがバグベアの右手側から鉄球を打ち付けようとすると、バグベアは左手を抑えられながらも右手でそれを振り払う。鉄球のうち2つの鎖が外れて『鉄の盾』の方に飛び、1つがダミアンの肩に当たるが彼は痛みを(こら)えてバグベアの左手を抑え続けようとする。

 最後にオグナスが両手で持った斧をバグベアの首に振り下ろす。これで劇的に首が飛ぶかと思ったが、さすがにバグベアも体を(よじ)って(かわ)そうとし、それでも首が1/3ほどザックリと斬れた。バグベアの首から大量の血が噴き出す。

 バグベアはそこで死に物狂いで『鉄の盾』とクルトを跳ね飛ばした。そうしてピョンピョンと跳びながら野営地から出て行く。終わったのか。傭兵達が俺の方を見るが、追うかどうか聞きたいのだろう。俺は首を左右に振って否定した。




 その後、バグベアが戻って来る事は無かった。朝になってみるとオグナスが目の下に(くま)を作って疲れ果てた顔をしていた。シグチーはオグナスは気が立って眠れなかった様だと言っていた。バグベアと戦っていた場所を見ると血溜まりが出来ていたが、そこから外に向けて点々と血の跡が続いていた。

 『貨幣の収穫』も不調の様なので、『鉄の盾』に見に行ってもらったら、500mも行く前に死んでいたそうだ。『鉄の盾』はその場で念の為、バグベアの首を切り落として埋めて来たそうだ。まあ、俺も別にバグベアの死体なんか見たくなかったので、確認しに行ったりはしない。何より怖いしね。




 野営地を出て街道を進んだ俺達は、日暮れには次の野営地に着いた。俺はそこでマルコに子豚をこんがり焼かせて、クルトに食べさせてやった。シグチーが、俺達にも食べさせろなんて言っていたが、じゃあ次はお前が組み付いてくれと言ったら、ブツブツ言いながら立ち去っていた。

 クルトは昨日、痣や裂傷を体中に作って一番危険な役を(こな)してくれた。これは他の者も見ていたので、クルトが一人で豚の丸焼きを食べた事にもあまり文句も出なかったのだろう。





 そして、その日からオグナスは夜に眠れなくなった。オグナスは、夜の闇の中でバグベアの赤い目が自分を見ていて、それが恐ろしくて眠れないと言う。ストレス障害の様な物か。あるいはあの赤い目に呪いでも掛けられたのだろうか。

 どうせ夜、寝られないならと、昼間は馬車で寝て、代わりに夜に番をしてもらう様にしたが、夜の間もずっとビクビクしてる様だった。う~ん、護衛を続けるは厳しいか。

 さらに夜の闇をなるべく明るくしようと、オグナスが(まき)をこれまで以上に使う様になった。薪はなるべく現地調達しているのだが、不足を補う為に買ってあった分がどんどん減って行ってしまった。




 シェードレを出て3日目の昼に騎士達が来た中央高地側から数十人単位の衝突の気配を感じたがスルー。その日の夜はマニンガー公国側から来た隊商と野営地で出会い、情報交換と薪を融通してもらう。向こうはテンツラーからここまで遭遇は無かったと言う。くそっ、羨ましい。

 そして5日目、マニンガー公国の最初の街、白壁の街テンツラーに到着した。

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