ハイエナ
2台目の馬車の前にいたシグチーとオグナスが、双剣持ちと曲刀持ちの獣人の前に来てその足を止めさせたが、双剣の1匹が馬車ではなくレオナを追う。
そこでフランクが立ち止まって矢を射ると、続いてニクラスも一射した。フランクの矢を急ターンで躱す手斧持ちだが、避けた先に飛んで来たニクラスの矢が足に刺さって転倒する。
「予測射撃か。」
「なに、当てずっぽうさ。」
驚くフランクに、ニクラスが謙虚に答える。矢の刺さった敵が僅かに上げた呻き声を上げた。それに気を取られた曲刀持ちの頭に、オグナスの大斧が振り下ろされる。曲刀持ちは致命傷を避けたが、左目の上の額から左の顎下までをカチ割られる。
曲刀持ちは叫び声を上げ、地面を転がりながらもオグナスから離れ、曲刀を手放し手で傷を抑えながら森へと逃げ出す。
「◎$×△¥○&#$!」
残った無傷の双剣持ちも悪態を吐く様に叫んで森へと逃走する。矢が刺さった手斧持ちも逃げようとしたが、シグチーとオグナスに追いつかれ袋叩きにされた。結局、2匹にはそのまま逃げられた。
「ぐすん、魔物はイヤ。イヤなの。」
二クラスにレオナを探しに行かせたが、森に入ってすぐの所で泣きながら蹲っていたらしく、すぐに回収できた。まあ、俺の探知スキルで分かってはいたんだが。探し出されたレオナにはカリーナが、説教を始めたので任せている。彼女にはしっかり反省してもらいたい。
さて次に考えるべき事は、この獣人の死体だろう。誰も見た事のない生き物なので、街まで運べば売れるだろう。しかし、宿場の兵士の駐屯所で接収される可能性が高い。その場合、運び損だ。しかも、死体から流れ出した血で馬車が汚れそうでもある。
いろいろ考えたが、クルトのリアカーになるべく血が外に垂れるよう調整して持って行くことにした。武器も特別な物ではなさそうだが、多少の金にはなりそうなので回収した。
その日、俺達が宿場3号に到着すると、やっぱり運び込んだハイエナ頭は駐屯所の兵士を驚かせ、接収される。さらに俺達は兵士長と思われる人物に遭遇から戦闘の様子までを夜遅くまで説明することになった。
取り調べが終わったところで、俺はハイエナ頭の死体の対価を要求した。何と言ってもUMA(未確認動物)の死体である。最初、兵士長は報酬の支払いを渋ったが、ヴァルヒ商会とダーミッシュ商会の名前を出して頑張ると仮の討伐証明書を発行してくれた。
報酬が確定した後にライマンの本部に証明書を持って行けば貰えるらしい。往路に寄るとまだ報酬は確定していないだろうし、帰路に寄る事にしよう。
また、現場検証の様な事の立ち合いを求められたが、ヴァルヒ商会とダーミッシュ商会の名前と、南の商人街道の協定の話を持ち出して、それは逃げ切った。それにしても獣人か、イヤな予感しかしない。
その後、ライマンに着くまでの3日間は襲撃なども無く、森を抜け平野を抜けまた森を抜けと石畳の街道を進み、午後から夕方近くには宿場に到着するという日々を送る。まあ、森の中に動物や魔物、少数の盗賊等の気配を感じた事はあったが、襲ってこないならどうでもいい。
「伯爵が街道に宿を整備してくれるのは有り難いが、
全部同じというのはな。」
イアンが愚痴を言っているのは、朝夕の宿の食事が連日ずっと一緒だからだ。硬いパンに茹でた芋、干し肉、野菜スープの繰り返し。
どうも伯爵家の気質は何でもピッシリ仕様化しないと気が済まない様で、街道整備が行き届いているのはいいが、宿場の塀の高さも宿の形も兵士や宿の応対も食事のメニューさえ全部同じで、俺も同じところをループしているのではという気さえして来ていた。
まあ、贅沢な悩みだとも思うのだが。
また、街道で反対方向から来る者とすれ違う事があった。治安維持の巡回中だという20人規模のコースフェルト伯爵の徒歩の兵士だ。伯爵家らしく、全員が全く同じ槍と金属鎧、板金では無く革に金属リングを縫い付けた胴着、で武装していた。すれ違い時にはどちらも足を止め、互いにこれまでの街道について情報を交換した。
俺は、3人組の盗賊に襲われた事を言い添えたが、それがハイエナ頭だった事までは話さなかった。話すと面倒になりそうだし、嘘は言ってないのだから詳細は宿場3号で聞いてくれればいいだろう。
それから、蕪を運ぶ商人の荷馬車ともすれ違った。蕪など単価が安いのでライマンからペルレまで運んで儲けになるのかとも思ったが、案の定というべきか運ぶ商人は疲れて不景気そうな様な顔をしていた。俺が高値で売れる事を祈っておくよと言ったのに、その商人は鼻を鳴らすだけでむっつりと行ってしまった。やれやれ。
ペルレを出て5日目の夕方、俺達はライマンに到着した。ここでは積み荷をダーミッシュ商会の倉庫に預け、皆には宿を取って後は好きにさせた。久しぶりの街で傭兵や御者達は酒場へと繰り出したが、カリーナ姉妹は早々に部屋に引っ込んだ。
そういえば、獣人の襲撃後からレオナが静かだった。まだショックが抜けないのだろうか。カリーナはレオナを元気づけようとしていて、俺にはあまり絡んで来なかった。
俺は、クルトの食事を屋台で買い込んでクルトと共に宿の馬屋に置いて来てから、ヴァルブルガ、ニクラスと共に酒場で食事をした。久しぶりのコースフェルト伯爵チェーン宿場以外の食事でメニューが変わったので、それだけで旨く感じた。
翌朝、ダーミッシュ商会とヴァルヒ商会の店舗に挨拶すると、ヴァルヒ商会で豚のハムを運ぶ荷馬車1台を次のシェードレの街まで同行させてくれと頼まれた。




