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南の商人街道

 俺達はペルレを出て、マニンガー公国の公都であり最大の港町であるユーバシャールを目指す。ペルレからユーバシャールまでは古くからある『南の商人街道』と呼ばれる街道が伸びていて、俺達はこの街道に沿って行く事になる。

 この街道は、その全域を2台の4輪馬車が十分すれ違える幅6m前後の石畳で舗装されており、ほとんどの部分で道から20mは森の木々が伐採され奇襲を受け辛くなっている。さらに紛争中のカウマンス王国とマニンガー公国だが、『南の商人街道』上の隊商の通行を妨げないと言う協定が結ばれているので比較的安全に通行できるハズである。まあ何処まで当てになるか分からないが。




「レンさんは商人なのに、

 どうして自分で大迷宮に潜ったんですの。」


 ガタガタと揺れる4輪馬車の御者台の上でカリーナに話し掛けられた。ペルレを出てから隣に座り、(なに)かにと話しかけてくる。


「元手が少なかったので、一攫千金を狙ったんですよ。

 運が良かったんですね。」


「運は商人にとって、とても大事だわ。

 ね、レオナ妹ちゃん。」


本当(ほんと)にそうよ、カリーナお姉ちゃん。


 レンお兄ちゃんは迷宮が怖くなかったの?

 私は考えるだけで体が震えてるわ。ほら。」


 膝の上のレオナが、俺の手を自分の胸に押し付ける。いや、そんな微妙パイを押し付けられても。ん? ギュッと詰まって…、服で胸を抑えて小さく見せている? 身長も低くて12~3歳くらいに見えるが、顔をよく見るともっと歳いってる様にも見えるぞ。偽装ロリ、いや合法ロリか?


「ん、ふっ。」


 顔を凝視しているのに気付かれたのか、レオナが12、3歳とは思えない色っぽい顔をして俺を見上げる。くっ、ロリに騙される俺ではない。俺は何食わぬ顔で手を引っ込める。馬車の横を歩くヴァルブルガが面白くなさそうに、こっちを見ている。歩かされているのが不満なのか。

 そもそも1台目は俺とヴァル、御者の3人で乗るつもりだったのに、カリーナ姉妹が乗り込んで来たのだ。そこで護衛のヴァルを2台目に乗せて離れるのも不安で、横を歩かせている。しかもレオナに至っては、しばらくして「レンお兄ちゃん、お膝に乗せて。」と無邪気な顔で膝に上がられてしまった。不覚。




 カリーナと反対側の俺の隣には、小太りな中年の御者マルコが座っている。口は重そうだが、折角の機会なので俺は手綱と鞭を握って、彼から馬車の操縦法を習っている。何とこの男、そんな素振(そぶ)りは全然見せなかったが、カリーナ姉妹の父親らしい。どっちにも似てないけど、本当か。

 馬車の操縦自体はそこまで難しくなかった。回頭には曲がりたい方の、減速には両側の手綱を引き、加速は鞭で馬の尻を叩くだけだ。

 もっとも『南の商人街道』は道から外れなければ穴や障害物は少なく、それなりに馬に任せても問題ない。どちらかと言えば頻繁にサボって減速しようする馬への鞭打ちが、慣れないせいか罪悪感の様なものを感じて(つら)かった。


 前を見ると、傭兵団『(アイロン)(シールド)』の4人が見える。後ろを向けば荷馬車の幌と荷物の隙間から、自分の食料をリアカーに入れて()くクルトと、さらに後ろにはゲルトとか言う痩せぎすの御者が乗る2台目の馬車が見える。

 流石にその後ろは見えないが、傭兵団『貨幣(マネー)収穫(ハーベスト)』の2人とペルレで新たに買った奴隷戦士のニクラスが歩いているのだろう。今回の隊商はこの14人で全部だ。




 ペルレを出た俺達が最初に向かうのは街道をほぼ真南に5日程行った所にあるコースフェルト伯爵領の領都ライマンである。ツェッテル川は東のノルデン山脈から西へと流れ出すが、ペルレの北西でその流れを北から南へと変える。そのツェッテル川とやはりノルデン山脈から流れ出したファイト川の合流地点にライマンはある。

 俺達は初日の日暮れ前、大したトラブルも無く最初の宿場に到着した。そこは江戸時代の日本の宿場町の様に街道沿いに商店が並ぶのではなく、街道脇で木の塀に守られた小さな砦の様だった。その大きな門の扉は左右に大きく開け放たれ、槍で武装した2人の兵士が守っていた。


「ライマンに向かう商人か。ここは宿場4号だ。

 宿に案内しよう。」


「4号ですか?」


 俺は門の兵士に気になった事を聞いてみた。


「ここと同じ様な宿場が、ライマンからペルレまで1日おきに1号から4号まである。」


 ライマン、ペルレ間の街道上にはコースフェルト伯爵が整備した宿場があるとは聞いていたが、こういう事か。名付けはともかく、街道にセーフポイントはありがたい。兵士が横柄でないものの事務的なのは、コースフェルト伯爵領立(はくしゃくりょうりつ)の公務員相当だからお役所仕事なのか。


 塀の中には3階建木造の大きな建物が1軒と、兵士の詰め所と思われる2階建の小さい建物が1軒あるだけだった。大きな建物は宿となっており、1階は荷馬車を8台は停められる納屋と厩、2階は受付と食堂と客室、3階は全てが客室になっており、ここだけで50人は泊れそうだ。


 兵士に案内されて1階に荷馬車と馬を預けると、2階の受付で部屋を取る。部屋は俺とヴァル、カリーナ姉妹で2人部屋を2つ、クルトとニクラスを除いた残り8人で8人部屋を1つ取る。クルトとニクラスの二人には念の為、荷物番として納屋に泊まってもらう事にした。




 食堂で淡白だがほどほどに量のある夕食を取って部屋に下がると、しばらくしてドアがノックされた。


「レンお兄ちゃん、一緒に寝ていい?」

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