ティル・ナ・ノーグ
感情が暴走して明らかに錯乱している。ふと足元を見ると、大きなアリジゴクの死骸が落ちていた。大きいと言っても巨大蟻を食べれる程では無いので、あの男は俺に投げつけたこのアリジゴクを殺して蟻地獄に潜み、蟻の群れをやり過ごしたのだろう。
その男の曲刀とフリーダの杖が打ち合わされる。熱に浮かされた様に進むその男を、フリーダが止めようとするがその気迫に圧されてジリジリと後退してしまう。
「ローマンの奴はなぁ、お前らの命よりも何倍も価値があるんだぞ。
それをふざけた事しやがって!
『炎狐団』はなぁ、お前らの様な食われるだけの餌と違って、
◎△$♪×¥●&%#?!」
あの男の心はもう死んでいる。死んでいるが、自分の利益の為でもなく生き残る為でもなく、自分の怒りを晴らす為だけにより多くの死を振り撒こうとしている。
「あああ~~~っ。」
そんな男の横腹を後ろからエラが槍で突いた。槍は貫通したが、男は死ななかった。だが立てなくなったのか、その場に崩れ落ちる。口からは泡を吹き、白目を剥いているが、それでもエラの足首を持って引き倒す。
「きゃっ!」
その男はエラに伸し掛かり、膝を開かせてその間に体を入れて行った。エラの短い上着は捲れ上がり、短パンの様な下着とむっちりした太腿が露になる。男はその太腿に噛み付いた。
「がっ!」
その男の側頭部をフリーダの杖が捉え、陥没し、首が反対に向く。それでも男はしばらく体を痙攣させてピクピクしていた。
こういうのが嫌だったんだよな。
俺の雇った男が仕事中に目の前で死んだ。死んだ男の昔からの友人達も雇っていてその場にいた。つまらない死だったと思う。誰かを守る為でもなく、誰かの仇を取る為でもなく、自分の利益や名誉を守る為でもなく、ただ死に掛けて錯乱した男の近くに居合わせて殺された。
ヨーナスもエラも、インゴの死体の前で泣いている。俺もヴァルブルガもフリーダも別に涙は出て来ないし、クルトなんて気にしてもいない。それでも胃がキリキリする様で気分は暗く沈む。インゴの死体を捨てては行けないだろう。幸い2区は目の前だし、どうしても連れて帰れないという訳じゃ無い。
俺はインゴをヨーナスに背負わせ、インゴとヨーナスの分の鉱石はクルトに背負わせ出発した。俺も背負われて運ばれる前に、迷宮に入らずに儲ける方法を考えた方がいいな。
待ち伏せを受けたせいで帰路は半日遅れ、日中しか開いていない迷宮門は閉まってしまったので、その日は第1区の大空洞で野営する事になった。それから迷宮探索4日目の朝に迷宮門を出て解散。
インゴが死んだ後、ヨーナスは鉱石を運ばなかったわけだが面倒だったので一人銀貨60枚払い、インゴの分もヨーナスとエラに渡した。インゴの葬式とかはヨーナス達が何とかするだろう。ディルクの分はまあ当然誰にも渡す必要はない。それでも冒険者ギルドに連絡だけはした方がいいか。
俺はクルトを納屋で休ませると、宿の部屋で昼を跨いでヴァルとミスリル銀(推定)の分別をする。今回もミスリル銀(推定)は1㎏くらい取れた。
その日の午後は、ダーミッシュ商会に行ってユリウスさんに明日アントナイトを持って行くので買い取って欲しいと伝言を残し、その他いくつかの場所に寄って用を済まして宿に帰った。その日の『幸運のブーツ亭』の夕食は親子丼の具っぽい鍋で旨かった。
迷宮から帰って翌日、俺の感覚で午前7時頃にダーミッシュ商会の荷馬車が来たので、鉱石を詰め込んでヴァルと二人で商会に向かった。最初、ユリウスさんが挨拶に来てくれたので、大事な話があるから2日後の昼にレストラン『常若の島亭』に来てくれる様に頼んだ。俺がこの街に来た時に林檎を持ち込んだ店であり、先日男爵と食事をした店でもある。アントナイトの鉱石は今回金貨12枚になった。
2日後、ダーミッシュ商会のユリウスが『常若の島亭』の案内された部屋に入った時、その部屋の中にはレンの他にこのペルレの街の二人の大人物が席に着いていた。ペルレの食品最大手ヴァルヒ商会の番頭ヘンリック、ペルレ一番の有力クラン『赤い守護熊』のハルトヴィンだ。
俺はユリウスさんが席に着いたのを見計らって、声を発した。
「さて、お忙しい皆さんがお揃いになりましたので、
直ぐに本題に入らせて頂きます。
まずは皆さんにこちらを買い取って頂きたいのです。」
そう言って、俺は2㎏のミスリル銀を3つの袋に分けてそれぞれのテーブルの上に乗せた。それぞれが袋を開けて中身を確認し始めた。そして最初にヘンリックが低い声で買値を告げた。
「金貨13枚(約130万円)。」
続いてユリウスさんがにこやかに口を開く。
「3つの袋全部で金貨50枚でどうでしょう。」
最後のハルトヴィンの言葉にはオーラが載っていてプレッシャーを感じた。
「俺に目利きは出来ないが、これが聞いた通りの品ならこの一袋で金貨20枚出そう。」
これを聞いて俺は言う。
「ヘンリックさん、ハルトヴィンさん、ありがとうございます。
その値段でお譲り致します。そしてユリウスさん申し訳ないですが、1袋金貨15枚で如何でしょう。」
ユリウスさんはこれを了承した。そして俺はさらに言葉を続ける。
「さて次のお願いですが、皆さんには金貨3000枚を投資して頂きたいのです。
その金で私はこの鉱石を採掘する為のクランを作ります。
クランの名前は『銀蟻群』。
『銀蟻群』の採掘した鉱物は現物を配当として投資の割合によって分配します。」




