ギルド受付嬢がゴロツキに絡まれている日常風景
『財宝犬』との飲み会の翌朝、俺は前日までの収支を纏めてみた。売り上げが金貨10枚と銀貨75枚、それに対してインゴ達やディルクらの人件費が金貨3枚と銀貨10枚、山羊や機材が金貨2枚と銀貨30枚、食料や消耗品が金貨1枚ぐらいで、儲けは金貨4枚と銀貨35枚(約43万円)くらいか。
数日ゆっくりするとは言ったが、迷宮を出てこの2日の宿代だけでも銀貨52枚が飛んで行くし、食費や山羊のエサ代も掛かっているので、あまりゆっくりもしてられない。インゴ達に連絡を取って明日か明後日くらいにもう一度潜るか。
昼頃に冒険者ギルドに顔を出すと、あの話し掛けんなオーラを出している美人受付嬢イルメラさんが、『命知らずの狂牛団』ではないならず者達に絡まれていた。まあ、狂牛団は全滅したから絡めないか。
普段通りの冒険者ギルドでホールに並んだテーブルを見回すと、インゴ達がいた。インゴ達3人だけでなくディルクとフリーダもいる。ちょうどいいので明日か明後日にまた採掘に行かないかと誘うと、明日行こうとなった。
彼らは金が無いので昨日、一昨日も昼に来て俺を待っていた様だ。もし今日、俺が来なければ、彼らだけで2区に入って食用の虫の採取をしようとしていたらしい。まあ、馴染みの彼らがいつの間にか欠ける事が無くて良かった。
彼らの日当を買い叩いている手前、その日の昼食代を奢ってから、俺とヴァルブルガは飯を食わずに冒険者ギルドを出た。冒険者ギルドの飯はあまり旨くないし、明日また迷宮に潜るなら彼らと話して時間を使うより、一人でのんびりしたかった(ヴァルブルガは護衛なので別)からだ。
旨い飯と言って思いついたのは、この街に着いた時に林檎を卸したレストランだったのでそっちに何気なく足を向けた。俺とヴァルは街で活動する時は、商談用の服として割と小ざっぱりした服を着ている。ただそのレストランが貴族や豪商の様な衣装でないと入れないと言うなら、諦めて別の店に入るつもりだった。
だが、俺はその店でバックハウス男爵とその娘さんと昼食を取る事になった。店に向かう途中で通り過ぎて行く馬車の中にバックハウス男爵を見つけ、相手もこちらを見たので近付く事無くその場で腰を追ってお辞儀をしたところ、馬車が停まってレストランまで拉致されたのだ。
男爵にはまた迷宮の話を強請られたので、ミスリル銀(推定)の話を抜いて大雑把に話してみた。迷宮の地下河川や巨大な蟷螂の話は盛り上がり、アントナイトについては男爵もそれを使った装飾品や調度品も持っていると嬉しそうに話していた。
何でこんなに気に掛けてくれるのか聞いてみると、農園の立地上迷宮に興味があるものの普通の冒険者は柄が悪くて、ぶっちゃけ怖そうで話を聞けなかったらしい。確かに冒険者の戦士なんて、身長2m近い巨人ばっかりだし怖いだろうな。まあ、俺は冒険者じゃなくて商人だし、中肉中背で怖い見た目ではないだろう。
男爵は農園を経営しているとはいえ、コースフェルト伯爵から借りているだけで、純粋な兵力は0。今日も農夫の中で腕っぷしの強そうな男を5人ばかり護衛兼荷馬車の御者として連れて来ただけと言う。専業の戦士には縁が無いのだが、もし王やコースフェルト伯から兵役が課せられると、貴族として兵力を出さなければいけないので困ってしまうらしい。
「もし、兵役があったら君に兵集めを任せて、ついでに管理もしてもらおうかな。」
そのふくよかなで平和的な笑顔と共にそんな事を言われてしまったが、目の奥は結構真剣に言っている様にも見える。あれ、ゴルトベルガー伯爵家に続いてバックハウス男爵にも緩く囲われそうになっている?俺、商人ですよ。傭兵隊長とかじゃないんですよ。
「レンさんは他の冒険者と違って物腰も柔らかいですし、何より臭くありません。
その上、それだけの武勇をお持ちですもの、その際はお願いしますね。」
だから冒険者ではなく商人です。男爵のふわっとした依頼に援護をするのは男爵の娘、つまり男爵令嬢ゲアリンデである。ちょっと顔にソバカスの浮いたデブでは無いが、ふっくらした穏やかそうな少女だ。ふっくらといえばエラだが、彼女は生々しいエロい感じで脂が載っているのに対して、ゲアリンデはどちらかというとぬいぐるみの様なファンシーな感じでふっくらしている。デブでは無いが。
「いえいえ、私は商人ですし、頼りない限りでお恥ずかしいです。
それでも、男爵様にお声掛け頂ければ非才ながらも、出来うる限りの事をさせて頂きますとも。」
とにかく俺の返事としては、限りなくノーに近いイエスしかないのだった。微妙に緊張する昼食を終えた俺は、男爵一行をお見送りすると『幸運のブーツ亭』に戻って、久しぶりに部屋に大桶を運んでもらって風呂に入った。温水が気持ちよく、俺の心の疲れを癒してくれる様だった。
翌日、俺達は再び迷宮に入った。




