後ろをバック
野営と言ってもわざわざテントを張る様な事はしない。洞窟の中なので雨や風の心配は無いから、地面から体の熱を奪われない様、厚手の毛布を敷くだけで十分なのだ。みんな思い思いの場所で荷物を下ろし、水でふやかしながらパンと干し肉を齧る。
俺はヴァルブルガと広間の奥の岩に山羊達のロープを止め、そこから少し離れた所にクルトを座らせ、山羊の背から降ろした蕪と芋を食べる様に指示した。
インゴ達冒険者パーティー『大農場主』には通路の一方に陣取らせ、そちらの横穴を交代で警戒する様に言っておいた。ディルクは広間内の別の所に腰を落としたが、そこで眠り早朝にインゴ達と見張りを交代する事にした。エラを除く男3人で3交代で警戒してもらう。エラは怪我の件もあるから今日は夜警から外す。
俺とヴァルは『大農場主』と反対側の通路へと陣取り、そちら側を交代で見張る。フリーダさんはディルクやクルトとはまた別の広間の奥の窪みを見つけ、そこで寝る事にした様だ。早朝には俺達と見張りを代わってもらう。こちら側の見張りの順はヴァル、俺、フリーダさんとなる。明日、起きたら全員で採掘を行う予定だ。
夜半、俺はヴァルから引き継ぎ警戒していた。俺はランタンの灯りを足元に置いていたが、反対側に灯っていた明かりは『大農場主』の物だろう。ランタンや松明の明かりが照らす範囲はそれ程広くないので、15mも離れればもうこちらの明かりは届かない。そろそろ交代の時間だろうか。
実はこの見張りの間、俺は非常に落ち着かなかった。というのも、『大農場主』側から声が漏れて来ていたからだ。洞窟の中は視界が遮られる反面、音は反響して遠くまで届いたりする。その声は押し殺していたものの、結構ハッキリと聞こえていたのだ。
エラは芋虫の毒を受けていたハズだが、ここに辿り着く頃にはだいぶ落ち着いていた様だった。だからってそんなに元気になっているのだろうか。俺の前に見張りをしていたヴァルは、心穏やかでいられただろうか。う~ん、俺ももう見張りを代わろう。そうでなくても真ん中の見張りは睡眠が2回に分けられキツイのだから。
俺はフリーダさんを探して、広間の中を見て回る。フリーダさんは広間の窪みの奥に身を隠した様で、ちょっと見つかり辛かった。俺が岩壁を回り込んでフリーダさんを見つけると、彼女は岩の中でちょうど体を真っ直ぐ伸ばせる所を見付け、毛布に包まって眠っていた。
何と言うか、洞窟の中で眠るのにベッドで眠る様に姿勢良く眠っている。長い金髪が頭の左右に流れ、引き締まった体ながら大きな胸が、体に掛けられた毛布を押し上げていた。まだ目を覚ましていないが、ちょっとくらい触っても大丈夫なんじゃなかろうか。いやいや、それは倫理的にダメだろう。
俺は煩悩を頭を振って追い払うと、両手を伸ばしてフリーダさんの肩を揺すろうとした。だが、その直前にフリーダさんの目がパチリと開く。あれ、これまるで俺がフリーダさんのおっぱいを揉もうとしている様に勘違いされないだろうか。ああ、もちろんそれは勘違いなんだが。フリーダさんは俺と周囲を見回すと口を開いた。
「ふむ、なるほど。
すけべえだとは思っていたが、やはり来たか。
それとも宿の仕返しか。」
フリーダさんが起き上がる。うお、これはまた宿の裏庭の再現じゃないか。待て待て、またぶっ叩かれるなんて御免だぞ。そうじゃなくても、まだ体中に痣が残ってるんだから。俺は恐怖したが、探知スキルには危険反応が出ない。俺の予想は外れる事になる。
「仕方ない。
ここでお主を叩きのめしても、
こんな迷宮の奥でお主の手下に囲まれては、
流石に私も抵抗できないじゃろう。」
そう言うと、フリーダさんは俺に背を向けて岩壁に手を突き、尻を突き出す。何だ、このおかしな流れは。何をしようとしているのか、全然理解できないぞ。
「さっさと済ませるのじゃ。
だが、あの大男と回すのだけは止めてくれ。
あんなの・・・、死んでしまうのじゃ。」
早くしろとばかりに軽く自分のお尻を叩くフリーダ。あれ、これってもしかして、人気のない所に連れ込まれて、大勢を従えたボスに体を要求されて、抵抗できないと諦めて、せめて傷を小さくしようと覚悟完了な感じか。前にもこんなシチュ無かったか?
いやいやダメだろう。こんな流れに乗ってヤッちまおうなんて言うのは、日本人的な倫理観を持っている俺的には完全にOUTだ。いくら金髪美人が立ちバック待ちだとしても、金髪美人が立ちバック待ち、金髪美人が立ちバック、・・・金髪美人が立ちバックだとぉ!本人も早くしろって言ってるし。
待て待て俺。相手は勘違いしてるだけなんだ。ちゃんと話して、誤解しているだけなんだと安心させてやろう。いくらこの世界的にはこんな事、良くある話だとしても、俺はこの世界の常識に流されたりしないぞ。燃え上がれ俺の良心、天使の心よ、エッチな事をしてはいけません。でも金髪立ちバック。
みんな、すまん。
本能には勝てなかったよ。




