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地下河川

「本当に川が流れてやがる。」


 今、俺達はペルレ大迷宮の2区に入り、地下河川の上を通ろうとしている。2区は『迷宮門(ダンジョンズ・ゲート)』から入って東側。コボルトと『(レッド)守護熊(ベア・ガーディアン)』が戦った『亜人の(あぎと)』の反対側になる。東京23区に当てはめれば、『亜人の顎』が千代田区と新宿区の境、四谷の辺り、ここは中央区、東京駅から東に進んで茅場町の辺りだろうか。

 俺達の先頭は細身に草臥(くたび)れた革鎧を纏った四十男ディルクと、長身の金髪美人お姉さんの神官フリーダさん。ディルクは道案内でフリーダさんはそこそこ戦えそうなので先頭に立ってもらった。この二人は今回の探索で初めて一緒に仕事をするから、ぶっちゃけ信用出来ないので俺の前を進んでもらっている。

 続いて俺と革鎧に剣を腰に()いたヴァルブルガ。その後ろを山羊5頭を引いた大男のクルト。山羊には山羊達のエサの干し草、水と食料、松明やランタンの油瓶、毛布など積んでいる。最後を『大農場主(ラージ・ファーマー)』の3人、インゴ、エラ、ヨーナスが続く。この3人は戦力としては微妙だが、まあ採掘の人手だ。




 ここまで『迷宮門』から歩いて約2時間、迷宮の中は平面ではなくアップダウンの大きい岩洞窟なので距離としては2㎞くらいだろうか。それでも直径10mくらいの冒険者ギルドの地図にも乗っている大横穴なので、暗闇(くらやみ)の中とは言え迷わず来れている。

 今のところ遭遇したのは、小さな虫とか岩の隙間の蛇とか鼠の様な小動物くらい。実際のところ大横穴から外れた横道に入れば、もっと大きな生き物や多数の小動物の群れがいるのが俺の探知スキルで分かるのだが、そういったところはやや大回りに避ける様にしている。

 1回、蛍の様に発光する家猫サイズの大きな虫が3匹の群れで飛んで来た時は驚いたが、これは2匹をフリーダさんが1匹は俺の近くまで飛んで来たところをヴァルが叩き落して殺した。避けようとも思ったが、だいぶ遠くからこちらの(あか)りを目指して飛んで来た様で避ける事は出来なかった。もっとも俺のスキルでもっと脅威度の高い相手と分かれば、灯りを捨てて逃げただろうが。




 そうして俺は今、地下河川の岸で下を(のぞ)いていた。ディルクを除いた他の者達も、ある者は恐る恐る、ある者は興味津々で覗き込んでいる。ランタンの灯りで照らすと、地下河川の水面は足元から5~6m下に見えた。水は真っ黒で中は全く見えないが、どうやら流れは速くないっぽい。川幅は200mくらいだろうか。川の両端は同じ幅の崖となっており、天井はランタンの灯りでは見る事が出来ないが、極々細い光線が幾つか上から降り注いでいる所を見ると、ひょっとして地上との隙間が空いているのかもしれない。そこに今来た横穴が交差した形だ。

 そこに丁度対岸まで岩の橋が掛かっている。橋はここまでの横穴と同じようなゴツゴツした自然の物に見え、岸近くは幅20mくらい、中央の一番細い所で6mくらいだろうか。それにしても、川は地割れか何かの跡に水が流れ込んだ様に見えるのに、何故対岸までの橋だけ残ったのか謎だ。後から誰かが魔法で作ったと言われた方が納得がいく。

 ポチャンという微かな音がして、遠くの水面が揺れた様な気がする。定番なら半魚人とかが襲って来る所だろうか。足場も悪いし、落ちたら大変な目に遭いそうなので、俺達はそこをそそくさと渡る。水の中から殺人ピラニアが飛び出してくるような事も無く、無事俺達は川を渡る事が出来た。




 第2区は先程の家猫サイズの蛍に見る様に、虫としては巨大ながら人より小さいサイズ、もしくは通常サイズの虫が生息するエリアである。ここは初心者には割と人気のエリアで、俺達が通って来た大横穴から地図に無い様な支道に入ればそれらの虫の生息域となり、単価は安いながらも換金できる虫の羽や甲殻、体液、あるいは丸々食用の虫等を採取できる。もっともあまり奥に入り込んでしまえば、虫に群がられて餌になってしまうらしいが。

 第2区は南北に広いが、東西に狭い為、地下河川を越えて1時間程で通り抜け、第8区へと侵入した。第8区に入った後も目的地へ向けて幅10~20m程の大横穴を進むが、そこでは2区よりも大型の虫が魔物を見るようになった。ここでも俺の探知スキルが活躍して、虫の潜む支道を()れ、大横穴を塞ぐ虫を支道を通って迂回したりした。


「なあ、旦那。何だって右に寄ったり、左に寄ったり、また右に戻ったり。突然、狭い穴に潜り込んだりするんですかい。」


「ああ、それは私も思っていたのじゃ。他の者達も良く文句を言わんのう。」


 ディルクが両手を等間隔に広げて右に左に右へ振りながら疑問を呈すると、フリーダさんが同調した。


「虫がいる気配がしたんだ。

 ああ、何というかな。音、匂い、それとも空気の流れかな。」


 何だそれ。説明下手かよ。視線が痛い・・・気がする。


「なるほど。」


 なるほどには、”のじゃ”は付けないんだね。ちょっと頭のオカシイ奴だと思われたかもしれないが、二人共この件にはそれ以上突っ込むのを止めてくれた。




 ()(かく)だ。順調なのもそれに遭遇するまでだった。それは10m近い天井を這って俺達に近づいて来た。天井も床同様岩の凹凸が大きいのだが、それはそんな天井を人が平地をジョギングする(くらい)の速さで近づいて来たのだ。それは俺達の真上までやってくると、体の半分を天井から離してぶら下がる様な姿勢を取り、長い触手を近づけて来た。

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