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ダンジョン突入

 俺は男の指示に従って、名前とパーティ名、1区を探索する事、帰還は本日夕方を予定している事等を書き込んだ。ギルド証を出したのは『大農場主(ラージ・ファーマー)』の3人と俺。ヴァルブルガは奴隷だし必要を感じなかったのでギルド員にはしていない。


 ちなみに俺のパーティ名は『冒険商人(アドベンチャー・トレーダー)』にした。安易かもしれないが、俺としては冒険者として名を売りたい訳ではないので、記憶に残りにくい地味な名前にしたかったのだ。ヴァルにも案を聞いたが、『(シャイニグ)ける太陽(ソーラー)(ウィング)』とか派手派手しいのが出て来たので却下した。ちなみにヴァルの生まれた北のラウエンシュタイン王国には、まんまその名の騎士団が出る英雄物語があるらしい。うん、お前そういうの好きそうだよな。


「『冒険商人』のレンとその護衛の『大農場主』か。

 日帰りで1区しか行かないのか。それじゃあ、儲けにならないと思うが。」


 『迷宮門(ダンジョン・ゲート)』の入口にある机の男がリストの記載事項を見て不審に思ったのか、問いかけて来た。


「迷宮の下見ですよ。

 儲かるかどうかはそれから考えます。私は商人ですから。


 そういえば、お名前を伺っても?」


 俺は問いに答えるついでに聞いてみた。意外と互いに名前を知っているかどうかで対応が違ったりするものだ。


「迷宮書記官のカスパルだ。

 冒険者にそんな事を聞かれたのは初めてだな。」


「商人ですので。では私達はこれで。」


「ああ、知っているとは思うが、

 4区との境界辺りで『(レッドベア)守護熊(ガーディアン)』とコボルトの戦闘があるかもしれないから、気を付けろよ。」


「ありがとうございます。」


 意外と笑って返してくれたので、いい感じだ。何かあったら頼むよカスパルさん。俺はしっかり挨拶してその場を離れた。おい、インゴ。なに鼻ほじってるんだ。そういうとこだぞ。




 門の中に入ると、凡そ扉と同じ大きさの通路が奥へと真っ直ぐに続く。内部に灯りは無いので、エラが松明を、俺がランタンに(あかり)りを付け進む。天井も壁も人口の平らな石畳なのに、すぐに床だけが天然の岩に変わった。凸凹した横穴が下へと続いている。


「うわ、マジかよ。」


「おっと。」


 進むごとにちょいちょい、声が上がる。場所によっては1mも段差が出来ている所もあるので、手を付いて降りなければいけない事もある。天然の洞窟や鍾乳洞ならこんなものか。ゲームによくある様な水平な石畳が続くわけではないので、進むだけでも結構大変だ。

 入口の光も届かなくなって来ると、もう松明とランタンの明かりに照らされた所しか見えない。さながら夜間の山登り、いや山下(やまくだ)りだ。ランタンを持つ手は熱いし、燃焼の異臭もする。当然視界も狭い。これは入ってみて実感するが、魔物と戦う前から地下洞窟を進むだけでも大変だ。




 入口から50mも進んだだろうか。突然、天井と壁の石畳が消え、天然洞窟の岩肌に変わった。さらにそれまでは幅5m程だった通路が、幅10m程度まで広がっている。天井もいつの間にか高さ8~10mくらいまで高くなっている。

 ああ、なるほど。直径10m程度の地下に続く穴が元々あって、その上に石の砦を建てて出入口のサイズを幅5m、高さ3m程度に制限したのか。これなら人間は不自由なく通れるが、もし人間よりもデカイ怪物が迷宮から出ようとしても簡単には通さないという訳だ。

 地下の温度は外より低めだが空気は若干湿っており、岩の所々には小さなキノコや僅かばかりのコケの様な物も生えている。日は差さないが湿度は高い為、冒険者や虫等に付いた胞子等が岩に付着して成長したのかもしれない。そして岩陰などに地球でも見た様な小さなトカゲや虫等が動いているのが時々見える。迷宮内はゲームの様に魔物以外の生き物がいないという事も無く、それなりの生態系が出来ている様だ。




「ご主人様、あれを。」


 前方の岩壁が松明の()に照らされず、暗黒が広がる。いや、岩壁が無いのか。天井も奥に向かって高くなっている。『迷宮門』から(おおよ)そ500m。どうやら第1区の中心にある大空洞まで降りられた様だ。

 俺は『赤い守護熊』らしき集団の気配を(うかが)う。(あか)りや音等は届かないが、500m程先にいるのが感じ取れた。(あか)りや音等が届かないのは、これまでの横穴と同様、大空洞内の床面も凹凸が激しいからだろう。

 ここからは大空洞の壁を左手に時計回りに移動する。地図によればここから2つ目の横穴が第4区に続く物となる。『赤い守護熊』の気配もそちらの方から感じている。もっとも岩の割れ目や地図に無い様な小さな横穴は無数にあるので、間違えない様に気を付けねばならない。




 そう思って進み始めた時、突然インゴが剣を振り上げ岩壁の辺りを斬り付けた。


「クソッ。

 おいエラ、ちゃんと照らせ。ヨーナス、付いて来い。」


 インゴはそう言うと岩の割れ目に入って行こうとする。何を勝手な事を。

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