異世界労働者はこんなもんか
「ペルレの街の防衛という意味では、『赤い守護熊』は信用できるだろう。
だが、掃いて捨てても集まって来る冒険者を、
丁寧に育てるかといえば、それは無いと思っている。
むしろ、真面目そうな少年達を弾いて、『狂牛団』を入れたのも、
ペルレにいないで欲しい冒険者を街の為に消耗するのが狙いかもしれない。」
「何だと。では、『狂牛団』は。
いや、ではご主人様はどうするつもりだ。」
「そうだな。『コボルト殲滅作戦』に行ってみるか。」
「いや、ご主人様。
たった今、この仕事は危ないと言ったばかりではないか。
それに明日、急に参加したいと言っても難しいと思うぞ。」
「あっ、ちょっと待ってろ。」
俺はヴァルブルガの話を遮り、ギルドから出て来たさっきの少年達に声を掛ける事にした。
「なあ、君達。
さっきは『赤い守護熊』に断られた様で残念だったな。」
俺が笑いながら声を掛けると、リーダー各の少年が激高した。
「んんだとぉ~~~、ニヤニヤしやがって。
馬鹿にしてんのかぁ~~~。」
いかん、敵意の無い笑顔で安心させようとしたのに。
「離れろ。」
掴みかかろうとした少年の手を払い、ヴァルブルガが俺と少年の間に体を割り込ませた。
「ヒッ、な、何だよ。」
少年が一瞬、声を上げ、後退る。あ、やっぱりヴァルって見た目怖いし、圧があるよね。顔の傷とか目力とか。俺は気を取り直し、なるべく穏やかな声色を意識して少年に話しかける。
「違う違う。
明日暇なら俺の護衛をしないかって話だ。
大迷宮1区。まあ、観光みたいなもんさ。
俺に付き合ってくれたら、明日1日だけで一人銀貨5枚(5千円)払おうじゃないか。」
俺は右手の親指と中指で自分の頬骨を挟み、人差し指を眉間の上に乗せ、少し上半身を仰け反るとそう言った。
「ご主人様。何だその変なポーズは。」
うるさいよ。
日本でなら、警備員にしろ危険のある仕事に日当5千円じゃ安いが、この国でただ力が強いだけの少年達ならこれくらいでも十分だろう。今回、俺の予想じゃ危険も少ないだろうし。
「アンタ、さっきギルドにいただろう。
冒険者かよ。」
背の低い方の少年、それでも170cmは超えている、が聞いて来た。
「商人だが、この大迷宮で儲けられないかと思ってね。
ちょっと様子を見に行こうと思っているんだ。
君らもここに来たのは初めてだろう。
1区の様子を見るだけで稼げるなら君らにもいい話じゃないか。」
こう言うと少年達は少し考える様な顔をする。
「ねえぇ、インゴ、ヨーナス。
悪い話じゃないんじゃない。」
しばらくすると少女が二人の少年に囁き掛ける。
「エラ、黙っていろ。
おい、商人。
護衛をしてやってもいいが、護衛中は俺の指示に従ってもらうぜ。」
「ちょ、ちょっとインゴ。あの人が雇ってくれるって言ってんのよ。」
大柄の少年、180cmは超える様に見える、は少女を小声で制すると、マウントを取りに来やがった。それを少女が諫める。おいおい、金を出すのは俺だし、お前ら迷宮初心者だろう、俺が指揮権を渡す理由が1つも無いんだが。
「いや、俺が雇い主だからな。雇っている間は当然俺の指示に従ってもらうぞ。
まあ、勝てそうもない魔物に突っ込めとかは言わないから安心しろ。
もっとも1区じゃ、危険な魔物はいない様だがな。」
大柄の少年、インゴは睨みつけて来るが、口は開かない。少女、エラはオロオロとインゴと俺の顔を見比べる。
ヨーナスと思われるもう一人の少年が、口を開いた。
「なあ、本当に1区だけなんだな。」
「勿論だ。お前らを雇うのも念の為の用心さ。」
「なあ、インゴよぉ。
俺らも大迷宮は初めてだしよぉ、ちょっと入って金も貰えるならいいじゃないか。」
俺がヨーナスの言葉を肯定すると、ヨーナスはインゴの説得に回った。だが、インゴはまだ抵抗する。
「あ?
俺らでもっと奥まで行けばもっと稼げるだろ。
大体お前、そこが1区か2区かなんてどうして分かるんだよ。
ギルドで見た地図を全部覚えられる訳ないだろ。」
「ん。
当然、ギルドで地図を買ったさ。銀貨80枚だったかな。」
「な、銀貨80枚もする地図を買っただとぉ。
よし、なら1日1人銀貨10枚と、護衛が終わったらその地図は俺が貰ってやるよ。」
何だかな、この小僧は。田舎のガキ大将は偉そうにしないと生きて行けないのか。だが、雇われる流れになっているのに、雇い主に喧嘩売るとか、バカじゃないのか。粋がってるだけなんだろうが、面倒になって来たな。俺は盛大にため息を吐いた。
「もういい。じゃあな。」




