23区
狂暴、それは暴発する様に騒ぎ立て、そして水を掛けられた火の様に消える。
『赤い守護熊』によるコボルト殲滅作戦の実行は明日であった。『命知らずの狂牛団』は参加を申し出、その場で了承される。少年達も参加を希望するも、ハルトヴィンさんは見ただけで技量不足を理由に断っていた。そして俺達はそもそも応募しなかった。
追剥集団、もとい『命知らずの狂牛団』は、続いて神経質そうな若いギルド職員フロレンツ君が大迷宮に入る時のルールを説明しようとすると、フロレンツ君に罵声を浴びせながら帰って行った。彼らが去った後の冒険者ギルド内は、殊更に静かになった様に感じた。
狂牛団が去ると、プツリと緊張が切れたのかフロレンツ君が倒れて、バックヤードへと運ばれて行った。そしてそれに代わる様に美人受付嬢、名をイルメラさんと言うらしい、が現れ嫌そうに説明を引き継いだ。
それによると、大迷宮の入口にはゲートがあり、入場の際にはパーティ名と入場者全員の名前、人数、目的の地区、予定帰還日を告げ、最低一人のギルド登録証を見せる必要があるらしい。これにより救助が来る事は無いが、未帰還者がいれば冒険者ギルド等に報告され、そこから冒険者にも危険性が周知されるらしい。入場が無料で、開場時間が概ね日の出1時間後から日の入りまでと言うのは、事前に聞いた通りだ。
また、大迷宮の入口からは岩場をくり抜いた様な下り坂が500mほど続き、そこから東西600m、南北1500mほどの大空洞に出るらしい。各区へはその大空洞から伸びる大小様々な横穴を通って行く事になる。ちなみに地図には幹線道路の様な大きな横穴しか載っておらず、小さな横穴は地図に無い物も無数にあるらしい。
なお、ラノベによくあるダンジョンの様に壁が薄っすら光っている様なことは無く、普通に真っ暗なので明かりは必須。ただ、所々で天井の岩の隙間が地上まで繋がっている所があり、そういった所では地下にも拘らず僅かに差し込む光によってシダや灌木が生えたり、場合によっては森の様になっている所もあるらしい。
さて、俺はペルレ大迷宮23区の区分けされた境界線を見ている内に、それが東京23区の境界線とよく似ている様な気がして来た。例えば1区が千代田区、コボルトのいる4区が新宿区、その先のゴブリンが住む16区が豊島区、さらに奥のオークが潜むという19区が板橋区と言った具合である。パレイドリア効果というヤツか、東京23区の地図なんてボンヤリしか覚えていないのに一度そう思ってしまうと、そうとしか見えなくなってしまう。
ちなみに1区から6区までが1層、7区から18区までが2層、19区から23区まで3層と等級が付けられ、1区から離れる程危険度が増すという。そして大迷宮は23区で終わりではなく、未探索のその先があり4層と言われている。未探索と言う事は、その先にどんな化物がいるか分からないし、突然未探索領域からヤベー化物が23区内に侵入してくるかもしれないと言う事でもある。もっとも3層は生息する魔物がまだ判然としていない部分もあるし、2層への未確認の魔物の侵入は確認されていないそうだ。
その他、説明会では地図に示された各区の魔物の様なマークについて、つまり主要あるいは特徴的な魔物の概要を聞く事が出来た。ただし、1区を除く各区の詳細な魔物の分布や採取可能な素材の情報は有料らしい。ちなみに1区は出現する魔物、というかほとんど動物は無料で教えてもらえ、採取可能な素材は無い事が分かった。
説明会は『命知らずの狂牛団』が出て行ってから、およそ1時間足らずで終わった。ついでとばかりにアリスが加入した『財宝犬』というパーティについて聞いてみたが、探索深度最深のトップパーティの様で、さすが主人公(推定)、(強運を)持ってるとしか言いようが無かった。
俺は今後の活動指針を考えながらギルドを後にした。
ギルドを出た俺に、ヴァルブルガが話しかけて来る。
「なあ、ご主人様。
『赤い守護熊』のコボルト殲滅作戦に参加しなくても良かったのか。
ご主人様の性格的に儲けが少なくても、
最初は安全策を取って手堅いベテランと一緒に迷宮に入ると思ったが。」
おや、ヴァルのくせに俺の性格を掴んで来たのか。だが、フロレンツ君じゃあないが考えが甘い。
「その手堅いベテランが、いきなり入った部外者を仲間と認めて、
守ってくれるならな。」
「うん?
ギルドが初心者に勧めているし、『赤い守護熊』はペルレの街の依頼を受けているんだぞ。
信用できると思うが。」
ヴァルの言いたい事も分かる。自治体からの仕事なら信用できると言いたいのだろう。だが、自治体から仕事を受けたのは『赤い守護熊』という大手であって、今回の募集は大手からの下請けという事になる。俺は自分の推測を言う事にした。




