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激高の狂牛団

「おい、こっちは待ってるんだから早く始めろよ。

 ちっ、愚図が。」


 追剥の一人がそう怒鳴る。お前ら来たばっかりだろう。こっちはお前らのせいで1時間以上待たされてるんだぞ。神経質男が無神経に怒り出すかと思ったが、青い顔で黙り込んでいる。ああ、ちゃんと相手を見て絡んでいた訳か。で、あの少年達は舐めていたと。


「俺達は6日も待ったんだからな。

 俺らの役に立つ話じゃないと承知しないぞ。」


 ああ、週1回だからタイミングが悪いとそんなに待つのか。確かにそれなら待たされた感は大きいかも。


「そうだぞ、あの(ねえ)ちゃん、毎日来てやったのに(しゃく)もしねぇ~~~で、

 お前が今日、いい話をするの一点張りだったんだからな。

 こりゃ~~~期待していいんだよなぁ。」


 神経質男が追剥の指差す方を見ると、こちらも見ずに美人受付嬢が肩をビクリとさせていた。ああ、彼女のあのピリピリ感も毎日追剥に()(まと)われていたせいもあるのかな。神経質男はダッシュで美人受付嬢の所に行くと、一言二言口論して戻って来る。戻って来てから神経質男は、声を裏返らせながら話し始めた。


「大迷宮の注意事項を説明の後、

 ペルレ一番の有力クラン『赤い守護熊(レッドベア・ガーディアン)』からのメンバー募集の告知があります。なので、最後までしっかり聞いて下さい。」


「へぇ~~~っ、ペルレ一番のクランね。

 それは俺達『命知(デアデビル)らずの狂牛団(クレージーブル)』よりも強いんだろうな。

 よし、まずそれを聞こうか。」


 『命知らずの狂牛団』。ダ、ダセぇ。っていうかパーティー名付けなきゃいけないのか。どうしよう。


「げゃひゃひゃひゃひゃ。

 赤い熊だか何だか知らねぇが、俺達が入ってやると知れば、泣いて喜ぶぜ。」


「いや、それは最後だと。」


「んんっ、だとぉ~~~。てめぇ、舐めてんのか。」


「ひぃっ。」


 あくまで事前の予定通り進め様とする神経質男に、『狂牛団』が激高する。う~~~ん、コイツ等きっと『赤い守護熊』の告知だけ聞けば帰るよな。コイツ等いない方が、他の説明も聞きやすいだろうし。何より臭いし。よし言おう。


「あ~~~、先にその告知でいいんじゃないんですか。

 皆さん、聞きたがっている様ですし。」


「何を勝手な事を言ってる。

 全く、これだから冒険者は考えが甘いんだ。

 ちゃんと私の考えた段取り通り…」


「おい、そこのヒョロ()も言ってんだろ。

 さっさと説明しろよ。それともケツの穴に指突っ込んで、歯をガタガタ言わせてやろうか。」


「ひぃっ。」


 ヒョロ男って俺か。っていうか神経質男は悲鳴を上げて『狂牛団』にビビりながら、俺を(にら)んでやがる。俺、助け船出してやったんだがな。そこで、中年男がカウンターから声を掛けて来た。


「なあ、フロレンツ君。話の順番を少し変えるくらいいいんじゃないかい。」


「ゲルルフさん、私の仕事に口を挟ま…」


「「「あ~~~っ。」」」


 収拾つかないなぁ。でもあの中年、実はギルドマスターかとも思ったけど、フロレンツ君とタメか。と思っていると、これまでホールの端にいた赤い鎧の男が立ち上がって近づいて来る。実は冒険者ギルドに入った時からこの場で一番強いと感じていた奴だ。


「フロレンツ君、私もそろそろ自分の仕事を片付けて帰りたいんだが。」


「ハルトヴィンさん、勿論ですよ。」


 赤い鎧の男がそういうと、フロレンツ君は秒で前言を撤回した。


「そうか。では。


 君達、私は『赤い守護熊』のハルトヴィンだ。」


 そう切り出したハルトヴィンの言葉に、『狂牛団』も大人しくなった。強者オーラがビリビリ出ているからな。ジークリンデお嬢様の護衛騎士隊長のバルナバスさんと同じくらいか。王都で見た聖堂騎士(テンプルナイツ)とか転移者主人公(推定)アリスの様な化物(バケモノ)は別として、俺が見た人間では最強レベルだろう。


 ハルトヴィンの話は『赤い守護熊』が主導する、1区に入り込もうとする4区のコボルトの群れの殲滅作戦へ参加しないか、と言う物だった。区と言うのはペルレ大迷宮の植生やモンスターの分布で分けられた呼称で、後で説明すると言う。ちなみに1区がペルレの街の直下で、頻繁に街の冒険者で討伐が行われ比較的安全が確保されている地区だと言う。そして1区に隣接するように2~4区が存在するが、今回4区に生息するコボルトの群れに1区に進攻しようとする動きがあるので、殲滅しようと言う事だ。

 『赤い守護熊』は素材の採取よりも、ペルレの安全確保の為の魔物討伐を主とするクランらしく、ペルレの公的機関に近い立場で活動しているらしい。今回の要請に応じれば、迷宮初心者にとってはベテランと共に行動する事で、迷宮探索のノウハウを得ながら報酬も貰えるいい機会にも思える。

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