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[最終回] ヴァルブルガ

「え、レン様。私は奴隷からも解放して頂きましたし、十分なご恩を頂いています。これ以上は心苦しく」


「わぁ、ヴァルさん良かったですねぇ。」「会長、いえ伯爵様、これ高い奴ですよね、すごぉい」


 俺が急に言ったせいか、ヴァルが慌てて遠慮する。それにヘロイーゼとレオナがきゃあ、きゃあと騒いだ。確かに部下に急に一千万の贈り物とかしたら慌てるよな。下手したら、というか普通に考えて結納品くらいの勢いあるよな。

 でも、今の俺って伯爵だし。一般人が異性に一千万の贈り物したらプロポーズが疑われるだろうが、IT社長が側近の秘書とかに贈るならセーフか。まあ、ヴァルとは長く一緒にいたから、そうなってもおかしくないかもしれないが、そうはならなかったからな。


「お前を奴隷として買った時の値段は、クルトとセットで金貨四十枚(約四百万円)だったからな。あれから三年、何度も命を助けられた。その価値はこの薬を足してもまだ余りあるさ。クルトには礼が出来なかったんだ。こんな言い方も何だが二人で俺を助けてくれた礼をさせてくれ」


 俺の言葉にヴァルは少し悩んでから頷いた。ヴァルが騎士の叙任のような片膝を立てた姿勢で目を瞑って顔を上に向けるので、俺は顔の傷にゆっくりとエルフの薬を垂らしていく。傷の上で薬が白く泡立ち、やがて垢が落ちるように傷のある皮膚がボロボロと落ちていく。

 そして落ちるべき皮膚が落ち切ると、その下からは傷の消えたヴァルブルガの顔が現れた。顔の輪郭などからきっとそうだろうと思っていたが、傷の消えた彼女の顔はけっこうな美少女、いや美女といってもいいだろう。俺は思わず呟いた。


「綺麗だ」


「えっ」


 俺の声が聞こえたのだろう、ヴァルが驚いて目を開ける。その目力ある目は、俺がこの三年ずっと見ていた間違いなく彼女の目で、それは変わらない。ヤスミーンやヘロイーゼ、レオナもそれを見て感嘆の声を上げた。それからレオナは俺に断って、高価な帝国製のガラスの手鏡を持って来た。

 まだ一般的には銅などの金属を磨いた鏡が使われているが、これは俺がマニンガー公国で手に入れた物で良く映る。それを持って来たレオナはぼうっとしているヴァルブルガに手渡す。それで自分の顔を見たヴァルブルガはしばらく固まった後、ポロポロと泣き出した。彼女が泣くのは初めて見たかもしれない。


「ヴァルブルガさんもレン様の奥に加わるのでしょうか」


 ついポロっという感じでヘロイーゼが言葉を漏らす。その言葉にレオナとヤスミーンも面白そうに彼女の顔を窺うが、二人の表情が固まる。ヘロイーゼに気を取られていた俺もヴァルに振り返った。彼女は凄く気まずそうな顔をしていた。

 いや、美人だとは思ったけど、俺にはもう美人の奥さんや愛人が3人と、将来美人になる予定の少女が一人いるからね。げへへ、美人になったらお前は俺の女だ、なんて言わないよ。愛人というよりも、上司と部下の関係で落ち着いちゃってるから、今更だと思うし。




 俺が何て言おうか考え、その様子を心配そうにレオナとヤスミーンとヘロイーゼが見守っている中、ヴァルブルガはしばらく悩んだ後、悲痛な決意を決めたような顔をして口を開く。いや、ちょっと待って、大体何を言おうとしているか予測できるけど、俺が振られた雰囲気止めて。


「レン様。これまでのご恩を忘れたわけではありませんが、お許しいただけるなら」


「いいよ、いいよ。もうお前は自由民だし、薬もこれまでの礼だからね。むしろ誰か結婚したい相手がいるなら、祝福するし協力もしようじゃないか」


 何だか俺が無理をしている感になってないか。本当にヴァルには女としては(こだわ)ってないからね。俺がそう言うと、レオナ、ヤスミーン、ヘロイーゼは、ほっとしたような、俺を心配するような顔をしている。そしてヴァル本人もすごぉく申し訳なさそうな顔をしている。いや、違うから。


「レン様、いえご主人様。本当にありがとうございました。これまでのご恩、これからも身命をとしてお仕えする事でお返し致します」


「ああ、これからも頼むよ」


 ヴァルがすまなさそうな顔をして本日二度目の涙を流す。いや、ほんと違うから。ヘロイーゼもこそっと、ご立派ですレン様、とか言うの止めて。そしてヴァルが会って欲しい相手がいると言って一度出て行くと、しばらくして黒い肌の異国人オグウェノを連れてきた。

 え、コイツなの。確かに長身で筋肉質で強い。スフィンクスを単身で打倒し、みんなのピンチに颯爽と現れてケルベロスにも止めを刺したけど。いや、ヴァルの好みはパパンみたいな強マッチョだから、ドンピシャなのか。



 それから1ヶ月後、ヴァルブルガとオグウェノが戦神タラディンの神殿で結婚した。結婚後も二人して俺に仕えてくれるようなので全く問題ないが、未だに何人かは俺に生暖かい目を向けてくれる奴らがいる。俺、振られてないからね。結婚式の後、オグウェノが俺に言った。


「獅子を狩る者が勇者だ。最も価値ある獅子は雌獅子だった」


 くっそ、カッコいいな、おい。っていうか俺、やっぱり主役じゃなかった!? まあ、地位も財産も美女も手に入れて、悪くない冒険だったかな。探知スキルが無きゃ何度も死んでただろうけどな!




異世界転生したけど、探知スキルしかもらっていない~完~

最後までお読みいただきありがとうございます。


新連載『この瞬間が世界を名作にする。~異世界でコーヒーを飲もうよ~』のプレ公開を始めました。

https://book1.adouzi.eu.org/n6026jc/

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― 新着の感想 ―
面白かったです、良い物語をありがとうございました。
いいオチでした! この最後までしまらない感がこの作品の良さ
[良い点] 完結お疲れ様です! なにか秘密とか使命がありそうなアリスが気になりますねぇ
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