世界各地
ここは床も壁も天井も石で出来たくらい部屋。丸い木のテーブルの上には明かりの点いた幾つかの燭台と用途の良く分からないオブジェが置いてある。テーブルを挟んで瓜二つの二人の人物が立っている。その人物は背が高く、目の細かい上質なローブを着ていた。
その人物達は人とは思えないほど美しい顔の男で、実際に彼らはやや耳が尖っており人間ではなかった。そのうちの一人、青白い顔をした男は黒い剣を持っており、もう一方の男は青白く仄かに光る剣を持っていた。黒い剣を持った男は言った。
「魔族も人間もだいぶ残ってしまったな。折角互いを殺せる武器を与えてやったというのに」
光る剣を持った男が言った。
「いや、この国はだいぶ生き残った方だ。他の大陸では片方が全滅したところもある」
黒い剣を持った男が言った。
「まあ、所詮物質に執着する下等な存在だ。半ばエーテル界に身を置く我らとは違う」
光る剣を持った男が言った。
「奴らは生きているだけでエーテルを無駄に食い潰す。忌むべき世界の害悪は滅ぼさなければならない」
ここは見上げるように高い石柱に支えられた神殿の中心。他よりも数段高くなった部屋の奥には厳めしい金属の椅子があり、そこには豪奢なローブの男が座っていた。鉄の仮面を被ったその男は、自分の前、段の下に片膝を付いて畏まる一人の女性に声を掛けた。
「『比類なき』ワヒーダよ。マニンガー地方の海の魔王の討伐、大儀であった。しばらくはゆっくりとその身を休めるといいだろう」
片膝を付いて畏まる女は男に言葉を返す。
「教皇様、お言葉ありがたく。しかし、人間の尽くが魔族に滅ぼされた国もあるとか。地上に蔓延る魔族どもを討伐する許可を頂けないでしょうか」
仮面の男が返す。
「ふむ、いずれは地上の全てを神の元に取り戻すが、今は放っておいてよい。何しろ、魔族に滅ぼされた国々は、神を偽る悪魔どもをあがめる異教徒だ。いずれ魔族諸共に地上の悪として滅ぼさなければならない」
ここで片膝を付く女の後ろ、二列になって立ち、今まで黙っていた十二人の一人が声を発する。
「ああ、何て可哀そうなのでしょう。偽りの悪魔を崇め、罪を重ねるなんて。教皇様、マニンガー教区の北に異教徒の国が残っているとか。死ぬのは痛くて辛くてとってもとっても可哀そうな事ですが、しくしく、神の法に従い消去するべきではないでしょうか」
仮面の男が言葉を発した女に答える。
「『巡る雫』のビンドヒヤよ、まだその時ではない。聖堂騎士 十三聖よ、時が来るまで修練を重ね神力を高めるのだ。ユニバース(世界は神に)」
「「「ユニバース」」」
ここは金属の柱に支えられた石壁の巨大な部屋だった。現代日本に生きる人間であれば大型ジャンボ旅客機のガレージか、あるいはアニメの巨大ロボットのものを想像しただろう。そしてその中央には全長十八メートルの金属の巨人が立っていた。
「魔導技師長、これが」
そう声を発したのは、初めてここに入った若い魔導技師だった。
「そう、これが我らが帝国が誇る、搭乗型巨大ゴーレム、魔導戦士タイタンだ」
若者に答えたのは、ビール腹の熟練の年配魔導技師長だった。
「す、凄い。でも我らが帝国には魔導自走砲台や魔導飛行船もあります。こんな兵器を開発する必要があるのでしょうか」
「そうだのう。儂にはお偉い方の考えなど分からん。ひょっとしたら神や悪魔、竜でも相手にするのかのう」
「うえ~っ、あ、でも、あっちのずんぐりしたのは何ですか」
技師長の言葉に驚いた若者は、そこで別のところに気を取られ質問する。
「ああ、あれはミスリル装甲の魔導浮遊砦ヘルメスだな。魔導戦士とは別系統の技術で念力魔術や感知魔術を組み込んだ、思考だけで浮遊し、空中を自在に飛行する砲台で敵を攻撃する兵器じゃ」
「うへ~ぇ、そんな事が出来るなら魔導戦士はいらないじゃないですか」
「いや、適応する素質を持たない人間には動かせず、適応者がなかなか見つからないらしい。適応者を見つけるのが最初の課題じゃな。適応者は人よりも認識力が極端に広いというが」
ここはとある巨大洞窟の奥。そこは長径約二百メートル、東京ドームくらいの広間になっていた。そこには激しい戦いを終え、息を切らした五人が座り込んでいる。四人は戦士や斥候、魔術師と冒険者風の姿をしていたが、残り一人は場違いな姿、いわゆるセーラー服を着ていた。
う~ん、ペルレの街の近くは東京二十三区みたいに地図になってるけど、その配置に合わせるならこの辺ってもう群馬県を越えて新潟県くらいまで来てるんじゃないかな。もう、半年は地下に潜りっぱなしだから、正確なところは良く分からないけど。セーラー服の少女がそんな事を考えていると仲間の声が聞こえる。
「Ha Ha Ha Ha ! 成果は十分、戻って酒杯を空けようじゃないか」
「呑気なもんだな。前に地上に戻った時は魔族の襲撃を受けたとか言って、街が半壊してたじゃねぇか」
「Ha Ha Ha Ha ! カウマンス王国はそんな事ではビクともしないさ。
俺達、財宝探しは自分の仕事に専念しようじゃないか」
「チッ、この財宝探し馬鹿が。何だ、アリス。心配か」
「ううん、別の事を考えてただけ」
女神エメルダンティア、あなたの言う世界の敵。私の力はまだまだ足りないのかな。そんな事を思う彼女の前には、体長三十メートルクラスの赤い竜の亡骸が横たわり、その下には金銀財宝が敷き詰められていた。




