コースフェルト伯爵の血族
コースフェルト伯爵領は王国の北東部、魔族の降りて来たノルデン山脈からペルレ周辺を含む王都東のツェッテル川まで、つまり現在魔族に占領された地域だった。実際のところ、武力を持つ大きな街は攻略されたものの、その他の農村などは家畜や食料を奪われたものの、魔族達はほぼ通り過ぎていた。
つまりコースフェルト伯爵や傘下の貴族家とその元に兵士達は壊滅していたが、ただの農夫であれば大部分が生き残っていた。とはいえ、現在コースフェルト伯爵とその一族は行方不明となっており、組織的な抵抗は出来なくなっていた。
そのコースフェルト伯爵の息子の一人をジルヴェスターは一人で保護してここまで連れてきたというのだ。俺達は王都に迫る獅子王パンセラウィレオを止める為、一刻も早くペルレ大迷宮に入り、そこにあるなら獅子王の心臓を破壊しなければならない。
折角見つかったコースフェルト伯爵の血縁者だが、この魔族に囲まれた地域で彼を保護して王都へ連れ帰るということはできない。俺はジルヴェスターにそのまま少年を保護して隠れている様に告げると二人をその場に残し、俺達は再び大迷宮へと向かった。
ペルレに着くと、市内に魔族の反応はあったが、探知スキルを使って迂回すれば大迷宮内に侵入できそうであった。俺達は建物の陰に隠れながら魔族を避けて大迷宮へと向かい、そして大迷宮内に侵入する事が出来た。俺は大迷宮に入ると、記憶にある獅子王のエネルギーと同質のエネルギーを探知スキルで探った。
「ある、あったぞ」
俺はその反応を見つけた。地上では全く感じられなかったそれが、迷宮の中ではハッキリと感じられた。希望は繋がった。場所は北北西、亜人の顎を越えたコボルト達のいる4区、その先のゴブリンがいると言われる第二層の十六区、さらに先のオークがいると言われている第三層の十九区と思われる。
一層、二層、三層とその危険度は大きく増し、また三層に到達するまでには一週間を超える可能性もある。王都を出て十日も掛ければ獅子王は確実に王都を壊滅させるだろう。何とかもっと時間を短縮させなければいけない。その場合、全ての危険を回避する事は出来ないだろう。
とにかく俺は、以前ミーナと迷宮で使ったように、大迷宮内の横穴の様子を探知スキルによって3Dマップ化し、心臓までの最短ルートを探す。このルートをいけば最短三日にで心臓まで達する事ができるかもしれない。
しかしそのルートには今のメンバーでも突破できない障害、巨大な魔物や亜人の集団など、がある。俺はそれらの障害を迂回するルートを探す。王国全土から心臓を探す程ではないが、情報量を増加させたマップは俺の神経を削る。しかし、このまま倒れる事は出来ない。
俺は上手くすれば五日で通れるルートを見つけ、皆を連れて大迷宮へを進んで行った。初日は予定通りであったが、コボルドの小集団を待ち伏せと奇襲を使い暗殺しながら第四区を通り抜けた。二日目、三日目はコボルドよりも遭遇を避けて迂回しながら、ゴブリン達を最小の戦闘で通過した。
四日目、オークの集落は大きく避け、死霊がいるといわれる隣接する十七区との境界を通って、深部へと進んだ。そして五日目、俺達は心臓があると思われる地点の近くまで来ていた。ただし、その地点の近くには強力な何者かの反応が四つある。そしてオーク達はそれを避けてか十六区近くへと寄っていた。
そして俺達はその四つの何者かの一つへと真正面から近付いて行った。俺の探知スキルをもってしても、そこだけは迂回できなかったからだ。そこは前方が高くなった傾斜の付いた大空洞で、左右にはおよそ百メートル、天井の一番高いところで三十メートルはある場所だった。
ミーナや俺以外には松明の光が届くところまでしか見えていないだろうが、その中央には獅子の体と女の胸と頭、背には大きな翼を持つ怪物が座っていた。その全長は五メートル、体高は二メートルはある巨体だ。ミーナがそれを見て言った。
「アレは獅子王の近縁のスフィンクス族。知能が高いと言われているけど、狂暴で攻撃的な奴らよ」
「強いんだよな」
「見たままよ」
俺の問いにミーナはアッサリと答える。俺はまだその姿を見えていないであろう他の者達に何者がいるかを話し、それから近付いて行く。それは俺達が近付くのに任せて座り続け、あと五メートルの距離で声を上げた。
「私はスフィンクス族のアセシグリネータア。お前達が何故ここに来たかは聞かないし、私が何故ここにいるかも話すつもりはない。ただ私の前に来た不運を呪って私に食い殺されるがよい」
そう言ってスフィンクスは起き上がろうとし、オグウェノ達も武器を構えようとする。あれ、スフィンクスってなぞなぞで何とかなるんじゃないの。みんな、普通にさっさと戦おうとするなよ。俺は周囲の流れに逆らって問いかけた。
「ま、待ってくれ。何とか、何とかここを通してもらう事は出来ないか。そう、宝石や宝飾品ではどうだ。これで俺達を通してはくれないか」
俺がそう言うと、仲間達は警戒しながらも動きを止め、スフィンクスも立ち上がったものの考えるように動きを止めた。ちなみにスフィンクスの胸の形は人間のものなら巨乳を思わせたが、その巨体からまさに爆乳。ただし上についている顔は美人というよりも、キツそうな白人系の顔をしていた。
「ふーん、この状況でそんな提案をするとは思わなかったが面白い。どうせ私に食われる運命に変わりは無いが、少しくらい希望を見せてやろう」




