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幻術男の夢

 左右の丘の上に見えていた魔族達が消えた事で正面の魔族も勢いを失い、そこから僅かな時間をもってそこにいる魔族全体が降伏した。どうもここにいる魔族達は他の魔族の召使や下僕としてこの国に連れて来られ、率いていた魔族と一緒に人間に倒されそうになっているところを、あの黒髪の男が助けて率いていたらしい。

 その戦法も戦略も全てあの男頼りで、あのバイケーンと名乗った男はカウマンス王国から一部の土地を切り取って、自分とケモミミが暮らす楽園を作ろうとしていたらしい。まあ、容姿や言動から転生者か転移者だと思うが、思った様な主人公ムーブが出来なくて、逆転を狙ったんじゃないかなと思う。どうでもいいけど。

 それで今回投降した魔族達だが、あまり主体性が無く、どうしたらいいですか、とこっちに聞いて来る感じだったので、幹部と思われる黒髪の男と一緒にいた4人を連行、残りは以前に投降した魔族達に見張らせて、本陣に戻る。


 幹部協議の結果、奴隷兵のような形で伯爵軍に組み入れる事になった。なお、あの伯爵領で投降した美人狐耳魔族は、自分達を一等魔族兵、今回組み入れられた魔族達を二等魔族兵と区別する事を強く主張し、概ね伯爵軍の中でもその言い方が定着した。




 そうしてゴルドベルガー伯爵軍の王都東部の作戦は完了したのだが、もうひとつの王都東部作戦、ノイシュテッター伯爵側はそうはいかなった。二等魔族兵も含めてゴルドベルガー伯爵軍本陣に戻り、その運用の詳細を詰めようとしている時に、その知らせは来た。

 魔族軍の最大勢力、獅子王パンセラウィレオの勢力の前進とノイシュテッター伯爵軍の敗退だった。この知らせを受け、幹部会は偵察隊の派遣を決定。偵察隊は以前王都に行ったアルノー君パパ達と、俺達となった。まあ、俺の探知スキルで敵の不意の遭遇を極力さけれるのだから妥当か。

 ちなみに俺達というのは、俺とヴァルブルガ、ヤスミーン、アンスガー、エーデリッヒ、オグウェノ、それとどうしても一緒に行くと主張し、獅子王パンセラウィレオを見た事があると言う猫耳の魔族、ミーナの七人だ。脚の悪いニクラスと移動速度の遅いクルトはお留守番である。


 ミーナに関しては不安視する声もあるが、ぶっちゃけ俺の探知スキルで敵対反応が出ていないので、俺は大丈夫だと思っている。俺達は翌日の早朝、獅子王がいると思われる地点を目指して馬を進めた。走らせた、じゃないのは、すまん。まだ、走らせるのはキツイっす。




「まさかアレが獅子王か。ここまでどれだけ離れてると思ってる」


「迂回してあの林まで回るぞ。見つからないようにしろよ」


 俺達が1キロ先から見える獅子王の大きさに驚愕していると、アルノー君パパがそれから三百メートルくらい離れた林を指示する。林まで行って隠れて様子を窺うと、その足元に兵士達が見える。それらと比べて五倍以上の差があるので、獅子王の体長は十メートル前後あるという事だろう。

 その姿は立ち上がったライオンのようだが後足は太く、前足は人間の手の様に物を掴める形になっている。全身は毛の長い毛皮で覆われ、ライオンのような形の頭は体に対して大きく、口も相応の大きさで人でもまる飲みに出来そうだ。


「レン、私が見た時の獅子王はせいぜい三メートルだったわ。あの姿は尋常じゃない」


 俺と一緒に来た猫耳魔族のミーナが、今の獅子王の姿を見てそう言った。少なくとも一年前まではあんなに巨大ではなかったという。つまり、あの怪獣のような大きさになったのは、その後に何かがあったせいという事になる。

 そして足元にいる兵士達はノイシュテッター伯爵軍だろう。およそ三百、長い槍を持つ兵士が遠巻きに囲み、騎兵がその足元を通り抜け、離れた位置から弓兵が(まば)らに矢を射かける。腰が引けているようにしか見えないが、実際本隊が逃げる時間を稼いでいる決死隊なのだろう。

 そんな攻撃はまるで獅子王には効いておらず、逆に追いつかれた兵士達はそれに蹴られたり、踏み潰されたりでアッサリと薙ぎ払われている。あんなのどうにもならないだろう。俺達はそれ以上近付くことなく尻尾を巻いて逃げ出した。




 獅子王の進撃と、それに呼応した魔族達の襲撃により王国側の損害は甚大となった。何しろあんなのが王都を目指しているのだから、勝てないと分かっていても兵を出して足止めするしかない。王都と三伯が何度も兵を出したが、その全てが敗退し、兵を激しく消耗していった。

 ゴルドベルガー伯爵軍もミスリル槍兵や火縄銃隊を出したが、その勢いを止める事は出来ず貴重な兵科を損耗していく。しかし、そこまでしても獅子王には傷ひとつ付ける事が出来なかった。これに対して狐耳美女魔族とその仲間達が獅子王が巨大化した原因を探りに行くと申し出てくれた。

 幹部会ではそれこそ魔族優勢の中、彼女らが寝返らないか不安視する声も出ていた。だが俺は探知スキルに敵対反応が出ていなかったので、彼女らを擁護、幹部会の説得に回り、俺の責任で彼女らに調査に行ってもらう事になった。




 そしてついに獅子王が王都の城壁前まで迫った時、王都と三伯の全軍が城壁前に並んだ。ここが本当の決戦だろう。俺もゴルドベルガー伯爵軍本陣にて獅子王の前に来ていた。そしていよいよという時に、狐魔族が満身創痍で戻って来た。幹部会に入って来た彼女は言った。


「獅子王パンセラウィレオはダークエルフの呪術で心臓をどこかに隠し、無敵になっているらしいわ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一等魔族兵、二等魔族兵 まーた後の火種になりそうな事を [一言] 心臓隠してるて、主人公にしか対処できないじゃないですかー
[一言]  魔王デマオン式か。銀のダーツを探さねば。
[良い点] ちんちんけもけもの夢は潰えた……哀しいねバナーナ
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