跳べ、セーラー服少女
「凄い、何だあの動きは。」
驚愕するヴァルブルガ。
トロールの周囲の木々を蹴っては斬り付け、一撃離脱で空間的に攻めるセーラー服少女。立体機動か?
「それにあの様な下着、ほとんど穿いてないも同然ではないか。」
「おい、変な事を言って、気を散らすな。」
ヴァルブルガの呟きを制止する俺。気にして見えなくなったら、いや戦いに集中できなくなったらどうするんだマッタク。
まあ、この辺で一般的な下着といえば、ハーフパンツの様なドロワーズだからそう思うのも、って言うかこの前までノーパンだっただろうがヴァルブルガ。
それにしても、お臍がチラリと、いやトロールの棍棒は掠りもせず少女圧倒的有利に見えるが、付けた傷が治っていくので持久戦になれば体力勝負となり少女が不利か。俺がそう考えた時、少女がトロールから飛び離れ、俺達の前に背を向けて着地する。
「もう、しつっこいなぁ~。
こうなったら、魔法いくよ。
炎の渦に巻かれて燃えてしまえ、ファイヤーアローハリケーン。」
刀を持つ右手は逆、左手の平をトロールへ向けて少女が叫ぶと、無数の火の矢が生み出されトロールへと殺到する。
「ヒィギィャァァァ~~~ッ。」
炎に飲まれるトロールは絶叫を上げて転げまわる。すげぇ。火力自体は前に見たジークリンデお嬢様、いや女伯爵か、の魔法の方が大きそうだが詠唱時間の短さからの速射性は、セーラー服少女の方が上だろう。火の矢も一本一本が俺なら大火傷で戦力外になるレベルだし。
剣も魔法も達人レベルなんてズリーよな。俺なんて探知スキルだけだぜ。差別だ~っ。いやきっと、それだけ強い戦闘系スキルを持った彼女は、王都で聞いた魔王とか何か大変な事をするんだろう。そう考えると探知スキルで、セコセコと自分の安全だけを確保する方が俺には合っているか。
俺が馬鹿な事を考えている内に、再び立ち上がったトロールの姿を見ると、右肩を中心に体の4分の1程しか焦げた様な跡は無い。あれだけの業火でそれだけかよ。
セーラー服少女は魔法の連射が出来ないのか、再びトロールに剣戟を加えている。
ん、よく見ると焼かれた部分は再生する気配が無い。そうか。
「おい、アンタ。
トロールは傷を焼かれると再生できないみたいだぞ。」
「え、あっ、本当だぁ~。よし。」
その後、セーラー服少女は斬り付けては火の矢の魔法で焼き、を繰り返してあっさりとトロールを倒した。
「いやいや助けて頂いてありがとうございます。
お陰で命拾いしました。
それにしても正直、見た目に反して凄く強いので驚きました。」
俺はヴァルブルガにクルトの手当てを指図すると、営業スマイルを浮かべながらセーラー服少女に近付き礼を言う。クルトが元気でも俺ら3人束で掛かっても勝てそうもないので、絶対敵に回らない様に持ち上げておく。
「いえ、そんなぁ。
皆さん、無事で良かったですぅ。」
照れた様な、ちょっと甘い声を出すセーラー服少女。可愛い。いや落ち着け、俺。転生なら中身オバちゃんとかTSの可能性もあるんだぞ。騙されるな。
「私はレン、行商をしております。
彼女はヴァルブルガ、向こうの大男がクルト、どちらも私の護衛です。
よろしければお名前を聞いても?」
「アリスです。えっと、武者修行の旅?の様な事をしています。
よろしくレンさん。」
ニコリとほほ笑むアリスと名乗る少女。
くそ、わざとか。それにしてもアリスか、ここでの名前かな。いや、最近の高校生なら日本人でも「愛里朱」とか居そうだよな。
さて、素性を聞きたいが、転移後すぐならこちらの事情にも疎いだろうし、あまり突っ込んで全部話されるのもマズイよな。いくら美少女でもあんな戦闘チート持ちとガッツリ絡んで、面倒事に巻き込まれるのも避けたいからな。
うん、こちらからさり気なく情報を提供して、彼女が自分のカバーストーリーを作りやすくして、ここではお礼を言って別れる流れに持っていくか。
「アリスさんですか。こちらこそ、よろしくお願いします。
実は私達は、この近くの街道を王都からペルレに食料を運ぶ途中でして。
そこを普段見かけないトロールに追い回されて、この森まで入り込んでしまったのです。
アリスさんはひょっとして、ペルレ大迷宮へ向かう冒険者では。
あそこはこのカウマンス王国で最大の迷宮ですからね。
アリスさんの腕なら魔物も怖くないでしょうし、財宝もたっぷり手に入れられるでしょう。」
どうだ、反応は。
「えっと、そんな感じです。
実はこの辺りには不慣れで、道に迷っちゃって。
森を抜けたら行けるかとも思ったんですが、余計に迷っちゃったんですよ。」
よし、乗ってきたぞ。じゃあ、こちらもそれに乗っかかろう。




