伯爵軍南下
南下したゴルドベルガー伯爵軍は、王都への街道周辺の魔族の集団を撃退していった。俺の探知スキルで居場所も動きも分かるし、既に百丁近くまで揃った火縄銃で遠距離から数を減らし、近寄れば三百を超えるミスリルの武器で戦った。
全然余裕だった、と言いたいところだが全員がミスリルの武器で武装しているわけでは無し、敵の中には黒い金属の武器で武装している者もいて、これが厄介だった。これに傷つけられると小さな傷でも次第に膿んでいき戦線を離れる事になり、地味地味とこちらも兵数を減らす事になる。
ちなみにミーナ達、こちらの魔族が最前線で壁役を担っていたが、彼らは黒い金属で傷つけられても人間のように傷が膿むような事もなかった。ミスリルの武器が魔族に対して特効のように、黒い金属の武器は人間にとって特効なのかもしれない。
クンツェンドルフ出発から1ヶ月後、伯爵軍は王都と伯爵領を繋ぐ街道上、王都まで約六キロの地点に到着。そこに陣を張る。これ以上近付くと王都周辺の魔族達のキャンプに近付き過ぎて戦闘に入る可能性があるからだ。そして塹壕、防御柵、土塁、物見塔などの建造を始めると共に、王都への使者を派遣する。
使者は幹部第二席のキースリング子爵、アルノー君パパを筆頭に、第五席の俺を副官とし、伯爵家最強の一人、瞬足の騎士フリッツさんを始めとする騎士30人だ。全員騎乗だが、俺はそこまで馬の扱いに習熟していないので、駆け足はいざという時の逃げる場面だけに抑えてもらっている。
まあ、駆け足で強行突破するよりも俺の探知スキルで敵を避けながら進んだ方が安全だろう。王都は魔族達に包囲されているといっても、近距離でピッチリ囲っているわけではなく、南部二伯爵家の軍も含めて互いに1~3キロ距離をおいて疎らの陣を張っている。
なので少数であれば、その隙間を縫って王都への出入りも可能である。まあ、運悪く敵勢力の陣に近付き過ぎれば捕まる事もあるだろうが、俺には探知スキルがあるので隠蔽能力を持つ集団や魔法で隠されていない限り大丈夫だろう。
そして王都に入った俺達はそのまま王城に参上する事になる。
「キースリング子爵、ゴルドベルガー伯爵家の救援には礼を言うが、いささか遅かったのではないのか」
「王よ、心苦しく思いますが、我らの領地も王都周辺に負けず多くの魔族の襲撃を受けておりました故。寧ろこれほど早く救援にこれました事は我らの忠義による粉骨砕身の結果でございます」
俺達は玉座の間で謁見を行うが、俺は頭を下げていればアルノー君パパが全て話してくれるから楽だ。チラリと王の近くにいる人々を窺うとアロイジア公女殿下と目が合うが、ニッコリ微笑むだけで何も言わない。良かった。当たり前だがこんな場で絡まれたら堪らん。
さて謁見の間では王と謁見相手の姿勢を貴族達に見せる事が目的なので、この場はそれほど時間を掛けずに終了し、詳細は王や軍関係の官僚のいる会議室に移って話す事になる。そこでゴルドベルガー伯爵領の魔族との戦いや現状を話し、逆に王都の戦いの様子を聞く。
端的に言って人間側が数が多いが、個では魔族側が強く、軽傷でも戦線から離脱させる黒い金属の武器のせいでジリジリと兵を削られ、劣勢。今日明日に陥落はないが、魔族の圧力が変わらなければ半年もつかは分からないらしい。王国軍もミスリルの武器の有用性に気付き、魔族側を削ってはいるのだが。
そして今後の動きだが、王都周辺に陣取る魔族の集団を削っていく事になる。王国軍は王都の防衛を主として距離の近い拠点を、南西のオーフェルヴェック伯爵軍が王都南方の拠点を、南東のノイシュテッター伯爵軍が王都東方の拠点を攻めていた。
東のノルデン山脈から来た魔族の圧力は王都の西は少なく、手の回らなかった王都北方はゴルドベルガー伯爵軍の南下で緩んだ。なのでゴルドベルガー伯爵軍は、魔族の圧力が一番強い王都東方、ペルレの街の方をノイシュテッター伯爵軍と協力して攻略する事になる。
それから今後の誤解を避ける為に、ゴルドベルガー伯爵軍が投降した魔族を肉壁として使役している、言い方は悪いが一般のカウマンス王国人に理解しやすいように、と説明して伯爵軍内に魔族がいる事を周知する。だいたいこんな所で最初の会合は終わった。
「キースリング子爵。王都東方の魔族達の中で、最大勢力が獅子王パンセラウィレオを中心とした獅子魔族達である事は間違いない。これは王国軍全軍で当たらねばらなないだろう。だが、東にはもうひとつ厄介な集団がいる」
会合後、王都東の魔族討伐に協力する事になったノイシュテッター伯爵に呼び止められ、相談を受ける。何でも羊や馬のような特徴を持つ魔族の集団だそうで、個としては弱く臆病らしいのだが、彼らに味方する人間がいるようで、寧ろその人間が率いているらしい。
う~ん、人間か。こっちにも人間側についた魔族がいるんだし、魔族側についた人間がいてもおかしくないよな。まあ話し掛けられたのはアルノー君パパなので、俺は大人しくしていよう。この件は持ち帰りという事で、その日は城を出た。




