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「ミーナとは何者だ、レン卿。よもや、そなた魔族と内通していたのではあるまいな」


 幹部会の第二席、キースリング子爵、アルノー君パパが早速俺を詰問する。それに俺が答える前に第一席、伯爵家騎士団長バルナバスさんが声を発した。


「レン卿の貢献は卿らも知っているだろう。魔族と内通しているとは思えんが、まずは本人の話を聞くべきだろう」


 ありがてぇ。思えばこの人は会ったばっかりの時も、亡者の門に敵勢が潜んでいる場所を俺の勘を信じて作戦を練ったりしてくれた。このへん、本人の直感なのか懐の広さなのか、その判断でお互い良い方向にいってるのだから、これが将の(うつわ)的な物だろうか。

 とにかく俺は、ペルレで襲われて川に流され、協力して大迷宮から脱出するところまで全部正直に話した。まあ、ヤリましたというのは、この場合不要だろうから言わなかったが。結局、交渉に来た魔族は代表者だけを呼んで話を聞く事になる。

 そして連れて来られたのは三人の魔族だった。一人は中背の太めの男で頭の上に狸の耳、尻から狸の尻尾を生やしている。いや、狸じゃなくてアナグマかな。その表情には緊張が見え、愛想笑いが張りついている。もう一人は長身エロボディ、つり目・細目の金髪で平たく言って狐耳尻尾クールビューティーだ。


「ヤッホーっ、レンちゃん、ワタシ、ワタシ。君の恋人ミーナだよ」


 おま、おま、地下にいた時だってレンちゃんなんて呼ばなかっただろうに。見ろよ、アルノー君パパだけじゃなく、他の幹部の目も厳しくなってるじゃないか。そう、最後の一人は予想通り、俺が良く知っている猫耳尻尾の美少女ミーナである。


「ち、違うんです」


 思わず言い訳のように否定してしまったが、そこから俺とミーナの関係の追及が始まった。そして、俺とミーナの間にある親しさが何から来るのかという方向に話が向かう。


「それでレン卿はそこの魔族の女とヤッたのか」


 アルノー君パパが目の敵のように唾を飛ばして俺を糾弾する。うおっ、これどっちが正解だ。いや、ウソをついてバレたら余計ややこしくなる。くそ、正直に言うか。


「ヤ、ヤリました」


 俺が身を縮めて答えると、さらに激高して怒鳴りつける。


「何だと、カウマンス王国貴族である卿が、魔族と交わったというのか。何と恥知らずな」


 しかし、そこで当のミーナが口を挟んだ。


「待ってよ、私もレンもずっと戦場に身を置いていて溜まってたのよ。それで一晩中交わってスッキリして大迷宮を脱出できた。だから問題ないわ」


 いや、言い方よ。問題無いの根拠が分からん。


「ひ、一晩中ぅ~う?」


 アルノー君パパが顔を真っ赤にして絶叫する。血管切れそうですよ。いや、そこはもうどうでもいいじゃないですか。俺が魔族と内通してない事だけ分かれば。


「レンは私のおっぱいが魅力的だったから協力したのよね」


 ほんと、重役会議でおっぱいとか止めて。変な方向に紛糾した会談であったが、やがて話の方向は修正され魔族側の要求と見返りへと移る。俺が恥を掻いただけじゃないか。

 そしてその内容は簡単で自分達の王国内の居住を認めれば、魔族と戦う際に戦力を出す、というものだ。彼らはこれまで戦っていた魔族の中でも人間に近い姿をしている。この三人に限ってみれば、獣の耳と尻尾があるだけだ。

 どうも魔族の中では獣に近い姿の者ほど力が強く、強い者ほど立場が強いらしい。逆に人間に近い姿の者ほど力が弱く立場が低くなるという。そして彼ら三人と来た五百人の魔族達は全て人に近い姿で、魔族の中では虐げられる立場にあるという。


 これまでの魔族との戦いの経験上、そうだろうと推測できるが、人間との戦いで最前線で戦わされ殺されていったのは彼らのような獣度の低い魔族達だったという。強く獣度の高い魔族達は好戦的で人間を皆殺しにして征服しようと考えているらしい。

 それに対して実際に多くの被害を出している、彼ら獣度の低い魔族達は上の者が言うほど人間攻略が容易じゃない事が分かってきており、戦争の終結を考え出してるという。そして虎の魔族デグリジィグス、巨牛の魔族エルプレルガーニトが倒され、統制が緩んだところで離脱したらしい。

 彼らは元いた魔族の国には戻る所が無いので、この国での受け入れを希望しているらしい。もちろん攻めて来て、殺し合って、もう止めたいから仲良くしようでは通らない事が分かっているので、これまでの償いや信用を得る為にも、魔族との戦争で人間側の最前線に出て戦うと申し出た。




 幹部会の議論の結果、ゴルドベルガー伯爵軍は彼らの参戦を認め、居住に関してはその戦果によるものとした。彼らに不利な条件であるが、ほとんど投降に近い形での合流になるので彼らもそれに同意した。ケモミミ魔族五百人はゴルドベルガー伯爵軍指揮下に加わった。

 ちなみにどういう意図かミーナは俺と一緒にいたがったが、まだ魔族との内通を口にする者もいるし、俺は伯爵軍の中枢にいる事が多いので魔族をそこに入れるわけにはいかないので、ミーナは当座他の魔族達と行動する事になる。

 その魔族達は伯爵軍から少し離れて前方に固まって進む事になる。これはまだ信用されていない魔族達への対処であった。こうして伯爵軍は魔族を加え、魔族との戦いが続く王都を救助する為、南下を開始した。

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