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戦況の変化

 ゴルドベルガー伯爵家幹部第一席のバルナバスさんから、ミスリルの武器による自軍の優勢が伝えられる。それに続いたのは細いながら引き締まった体の三十代の真面目そうな男、第三席のロルツィング子爵、女伯爵様の執事クリストフさんから当主を譲られた息子さんだ。


「火縄銃の生産は月に十から十五丁となっており、外壁の守備兵や敵拠点を襲撃する火縄銃兵に随時配備されています」


 俺が銃の開発を伯爵家に引き継いでから約半年、歩留まりは悪いながらも火薬と銃製造に成功しており、一ヶ月前に始まった魔族の攻撃時から主に外壁上からの斉射で敵を退けていた。伯爵家が保有している火縄銃はすでに約六十丁となっている。

 銃の存在とその増加が伯爵家が魔族相手に優位に戦闘を進められている要因の二つ目であり、最後が俺の探知スキルによって敵の奇襲や配置を知る事が出来る点である。しかし、魔族戦が伯爵家側圧倒的有利に進んでいるというわけでは無かった。


「領都の南5キロの位置に陣取る敵の本陣が崩せない。何度か攻撃を加えたが、体長五メートル近い牛の姿の魔族が出てきて撃退されてしまう。どうもソレが攻め手の首領、エルプレルガーニトというとか。逆にアレを倒せれば魔族達を撤退させる事もできるかもしれないが」


 そう言ったのは表情も口調も硬く厳しく、見ようによっては嫌そうに見える男。幹部会の第二席、キースリング子爵。アルノー君のパパだ。彼がそんな顔をしているのは魔族のせいか、それとも平民上がりの俺が評価されているのが面白くないからか。

 ちなみにこの場にいるのは第四席を除いた幹部五人だ。魔族側の攻撃は強力に統制されているとはいえないが、巨大な牛の魔族エルプレルガーニト、言いにくいので牛魔王でいいか、を倒すか撤退させる事ができれば、侵攻が止まるのではという意見で一致した。

 問題はその牛魔王が崩せない点にある。魔族本陣は二千前後の魔族がいるとはいえ、それが全て固まっているわけではなく、数十から数百の集団に分かれそれなりに離れて駐留していた。そこを俺の探知スキルで位置を確認して、牛魔王のいる三百体程度の陣地を五百の精鋭兵で急襲した。


 その作戦は半分成功し、他の集団に気付かれる事なく牛魔王の陣地の襲撃に成功し、牛魔王以外の牛頭の魔族をある程度削る事が出来た。しかし牛魔王本人が出て来ると大きな打撃を受け、撤退した。その中には伯爵軍最強の一人と言われる瞬足のフリッツさんもいたが、ダメだったらしい。

 これまでの幹部会では牛魔王に兵を当てるのは危険だと言う事で、それ以外の陣地を襲って全体数を削っていく方針で落ち着いた。実際、ミスリルの武器や火縄銃、そして俺の敵の位置を把握する探知スキルでそれは成功していた。時間はかかるだろうが、それで撤退に持ち込もうとしていた。

 しかしその日、俺達幹部は執事クリストフさんに案内されて城内のある場所へ連れて行かれた。そこはここ3ヶ月ほどで新造された尖塔だった。尖塔の中は地上階から上が吹き抜けとなっており、床の中心に魔法陣、さらにその中心に領都のミニチュア、その周囲には十二の水晶が設置された台がある。


「完成したのですね」「ええ」


 バルナバスさんの問いに短く答えるクリストフさん。俺は詳しく説明されていなかったが、どうやらこの塔内では魔法の威力を十倍に増強する事が出来るということだった。そして俺達が尖塔内で整列する中、ゴルドベルガー女伯爵ジークリンデ様ご本人が入って来た。


「レン卿、牛の魔族エルプレルガーニトはどこにいる」


 女伯爵様にそう問われた俺は、探知スキルで周囲半径五キロを探査し、魔法陣の中心の領都のミニチュアを現実の領都に見立てて牛魔王の位置を示した。そこはここから南に三キロの地点だった。


「ここでございます」


「ギリギリだが、届くな。

 私の炎の魔術の射程距離は三百メートル、この塔の力を使えば」


 ジークリンデ様が詠唱を始める。以前、亡者の門で見た爆炎の魔法よりも長い詠唱だ。女伯爵様の体から赤いオーラが立ち上り、そして周囲の水晶が赤く燃える。彼女が両手を頭上に掲げ、その頭の上三メートルの高さに赤い光点が生まれて膨れ上がる。


「バトス」


 結びの句が唱えられると、赤い光点は尖塔の上空に向けて急上昇し空へと消えていった。皆の視線が俺に集まる。お、俺か。俺が探知スキルで再び領都周辺を俯瞰して見ていると、高エネルギー体がクンツェンドルフから飛び出し、南に一直線に飛んでいく。

 そして俺が示した地点に着弾。大爆発を発生させて消滅した。消滅したのは高エネルギー体だけではなく、牛魔王の反応とその周辺の魔族達数十体ともどもだった。気付くとジークリンデ様は力が抜けてクリストフさんに支えられ、周囲の水晶は全て砕けていた。


「エ、エルプレルガーニトが消滅しました。周囲の魔族数十体ごと」


「「「うおーっ」」」」


 俺の報告に、いいオッサン達が普段みられないような歓声を上げた。えっ?ひょっとしてここから牛魔王を倒したの?ジークリンデ様って魔砲少女だった!?

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― 新着の感想 ―
ロマン砲
[一言] フリッツさん…
[良い点] めっちゃサクサク進むやん
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