到着ゥゥーーーッ!!
クンツェンドルフに到着した俺達はすぐにゴルドベルガー女伯爵の城へと入り、ミスリルの武器を積んだ馬車を裏庭に回す。そしてほとんど到着と同時に、騎士団長バルナバスさんやその配下の隊長達と一緒に女伯爵の執務室へと案内された。
「レン卿、よくぞエルフの武器を持ち帰ってくれた。褒めて遣わす」
あ、ジークリンデ様の俺の呼び方に卿が付いた。とにかく褒められて、珍しく機嫌のいい女伯爵様と10分くらいエルフの都の話などをしてから退出、俺一人で別室に移される。そこでは女伯爵の執事クリストフさんと、あまりお目に掛かれない俺の奥さんコジマちゃんが待っていた。
「お勤めご苦労様です。大変な偉業を達成された事、喜ばしく存じます」
コジマちゃんもたぶん、最大限に褒めてくれた。表情が冷たい感じだが別に怒っているとかじゃなくて、きっと侍女として執務中にはしゃいだりはダメとかそんな礼儀なのだろうと思う。たぶん、彼女は真面目なのだろう。
実は砕けすぎ感のある中年騎士ギードさんも、他に人がいるところでは目も合わせず最低限の事しかしゃべらなかったりする。人前で多少でも感情を見せるのは、圧倒的地位と実力のバルナバスさんぐらいだったりする。そう、反逆した事になっていた彼は、緊急時とかミスリル武器の功とかで公に出戻った。
「ところでレン卿、今回の功績は公にしますか」
コジマちゃん同様、俺を褒めてくれたクリストフさんだが、どうやら今回はこれが本題らしい。妖精の都に行き、魔法の武器を手に入れてきた、これは大変な功績になる。これを公にすれば、エスレーベン子爵家として大変な名誉になるし、伯爵家としても第五席を用意しているという。
この第五席というのは、伯爵家傘下の貴族家でも特に側近とされ、他の子爵家よりも伯爵家に近い家となる事になる。第四席まではアルノー君のお父さんとかバルナバスさん本人、クリストフさんの息子とか古くから伯爵家と縁のある貴族家で、第五席に任命は今回初らしい。
きっと四天王的な家だろう。ゴルドベルガー伯爵家派閥の中でも一目置かれ、他家よりも優位な立場になる。デメリットは他の家に妬まれたりすると共に、エルフや魔法の武器絡みで絡んで来る者も出ると言う事だ。
公にしない場合は全てバルナバスさんの功績となって、エルフの都に行ったのが俺だと言う事は秘されるが、当然第五席という立場はなくなる。まあ、金銭的な報酬は貰えるのだが。俺はこの日、コジマちゃんの時間をもらってどうするか話し合う事にした。
コジマちゃんとしては俺の功績だから、俺が決めていいと言ってくれた。ただ、どちらにしてもそれぞれの場合で、これからの子爵家への影響を考えて方針を決めておく必要があるという。俺は貴族の慣習などは知らないので、それぞれの場合の影響をコジマちゃんにいろいろ聞いてみた。
そして結局、俺は公表して第五席の地位を貰う事にした。どうせエルフ絡みはバルナバスさんの百人の騎士団員とかザックス男爵の村とかにはバレてるし、人に知られるのも時間の問題だろう。だったら自分が偉くなっていた方が突っぱねやすいだろう。
コジマちゃんにそう話すと彼女はそれに賛同してくれた上で、今トルクヴァル商会に差し出されているザックス男爵の娘ヘロイーゼは側室に迎えようと言われた。既に先方はそのつもりで問題ないだろうし、実質支配下にあるし、エルフの村や妖精の都への境界を抑えるべきという事だ。
ヘロイーゼは8歳なので側室にするのは問題ではと聞いてみたが、年齢的な問題はなし、子作りはもっと育ってからすればいいだけで、今の内からガッチリ縁を繋いでおくべきだと言われた。それと普段側近のように連れているヴァルブルガ達が奴隷なのもマズイらしい。
そこで彼女達は人前ではもうちょっと離して運用するか、信用出来るならいっそう奴隷から解放して家臣にしたらどうかという事らしい。俺としてもヴァルやニクラス、ヤスミーンは信用しているし、ヴァルの父兄のアンスガーやエーデリッヒは大丈夫だろう。
俺達がクンツェンドルフに到着して2ヶ月、一進一退を続けていた領都の戦いはゴルドベルガー女伯爵側優勢に大きく傾いた。これには3つの要因があったが、いずれも俺が関係していた。一つ目は俺が持ち帰ったミスリルの武器だった。
クンツェンドルフを包囲していた魔族達はいずれも並みの人間の兵士よりも強力であったが、特に狼や虎の特徴を持つ魔族、狼人や虎人達は戦闘中に傷が塞がっていくような、異常な再生力を持ち苦戦を強いられていた。
しかしミスリルの武器で傷つけられた狼人や虎人は、その再生力を発揮できない様で傷つける事が容易になった。しかも、俺は妖精の都から幾つかのミスリルの武器と共に三百個の槍の穂先を持ち帰っており、この穂先を付けた槍のお陰で数的にも再生力を持つ魔族に対抗できるようになった。
「レン卿によるミスリルの武器の入手は大きな貢献であった」
魔族との戦闘が始まってから度々行われる幹部会で、そう言ったのは幹部第一席で騎士団長のバルナバスさんだった。




