エルフの元へ
「レン卿、伯爵領にあるミスリルの半量を貴殿に託す。王国の為、伯爵領の為、これを必ず武器に変えて持ち帰ってくれ」
「ゴルドベルガー女伯爵ジークリンデ様、承知しました。身命を賭して必ず成し遂げます」
ゴルドベルガー女伯爵は俺にミスリル五十キロ、鉄五百キロ、エルフが何を欲しがるか分からないが、製造の礼として金貨千枚(約一億円)分の貴金属、宝石類、カウマンス王国製や帝国製の布を持たせ、護衛も付けてくれるそうである。
正直、命までは賭けたくないがミーナの話からしても、王国が負けてしまえば良くて魔族の奴隷だろうし、そうでなくても俺の商売の中心はペルレにあるワケで、王国やゴルドベルガー伯爵あっての物だし、今回ばかりは俺でもやるしかないと腹を括ったわけですよ。
そうして軽い感じの中年騎士ギードさんを隊長にした五十人規模の騎士団、実際に騎士は十人くらいで残りは歩兵なのだが、に護衛されて、ミスリル等を載せた五台の馬車を連ねた俺達が案内されたのは、何と反乱を起こしているハズの元筆頭騎士バルナバス様が立て籠もる街だった。
そこでバルナバス様の率いる百人の騎士団に護衛を引き継いで、オルフ大森林のある西へと向かった。実はというか、やっぱりというか内乱は他領の魔族戦で自領の兵士を損耗しないようにするための方便だったと知らされた。
ゴルドベルガー伯爵領の領都クンツェンドルフから西といえば、俺がエルフと出会ったザックス男爵領付近からはだいぶ北になるが、王都を通る街道はほぼ魔族に封鎖された状態なので、クンツェンドルフからなるべく西に移動し、そこから街道を通らずに南下する事になった。
クンツェンドルフを出て三週間、途中魔物や小規模な魔族の集団と交戦する事もあったが、無事ザックス男爵領に辿り着いた。
「レン様、これはどういう事ですか。ペルレは大丈夫なんですか」
俺達を出迎え、というか半ばパニックになって聞いて来たのは、ザックス男爵一家に代わってザックス男爵領の管理をしていたハーラルトだった。彼はダーミッシュ商会から転籍してきたブリギッテさんの後輩であり、若手エースだが、急に百人からの騎士団が来れば驚くだろう。
俺は知る限りの情報をハーラルトに伝えると、村の外で騎士団が野営するので出来るだけ協力する事、オイゲンやできれば王都に俺がこっちに来ている事を知らせるよう頼んで、エルフの村に向かう事にした。
まずはエルフ達を脅かさないよう、少数で訪問する事にし、俺とヴァルブルガ、ヤスミーンとヴァルの父アンスガーの四人だけ、後はミスリル50キロと鉄50キロを乗せたロバ一頭で向かった。
「レンじゃなくね、何でまた来たし」
エルフ村近くまで行くと、以前と同じように村の武闘派のエルフ達に遭遇する。その中には前回訪問時、色々と色々と世話になったアンブリットもいた。他にも迷いの森を探索した際の隊長ビリエルもいたので来訪の目的を話す。
「ふむ、話は分かった。前回来た三人は我々の村に入ることも、妖精の都に行くことも許可しよう。だが、そこの物騒な男はダメだ」
ここまでも妖精の都に行くまでの迷いの森にも、魔法の迷路以外に猛獣や魔物が出ることもある。さすがにヴァルとヤスミーンの二人だけでは心許ない。アンスガーをここから外へ戻すのはいいが、代わりにエルフに護衛を頼みたい。
「分かりました。彼はここで帰しましょう。ただ森を抜けるのに護衛が足りません。代わりに何人かお借り出来ませんか。都までと戻って来た時、人の村までの護衛をお願いしたいのです」
「いいだろう。村までは俺達が一緒に行くし、都までは俺の隊か誰かを付けるよう長老に聞いてみよう」
「ありがとうございます」
俺はアンスガーにエルフに会った事を口止めし、ただ“協力者”が護衛を引き継いだ事だけ話すよう言って村へ返した。ちなみにヴァルとヤスミーンは俺の代わりに戦って貰う必要があるので、武装の他は最低限の物しか持たせていない。エルフへの代金として持ち込んだ金貨、宝石、高級布合計2キロは俺が背負っている。
何か俺が従者というかポーターみたいだ。一応、コジマちゃんと結婚したので俺も子爵相当の格があるんだが。まあ、いい。ビリエルさん達とエルフの村へ同行し到着。多少の歓待の後はビリエルさんとノッポのアスビョルンが妖精の都まで行ってくれた。
「お前の望みは分かった。対価としてお前にはここで七年の間、私に仕える事を望む」
えっ、長すぎるよ。それに武器をもらうのが7年も後だともう戦争も終わってるだろうし。妖精の都エインズワースに着いた俺達は、前と同じクレヴィングの塔を訪ねてハイエルフのスヴェンエーリクに会う事が出来た。そして事情を話し、ミスリルの武器の製造を依頼すると、こう言われたのだ。
「それでは人間と魔族の戦いに間に合いません。対価は金貨や宝石、上質な布では如何でしょう」
そう言って俺は、目の前のスヴェンエーリクとの間にある木の机の上に持って来た財宝を広げる。しかし、スヴェンエーリクはそれにはほとんど関心を示さなかった。くぞ、物じゃダメか。とはいえ、間に合わなんじゃしょうがないし、俺が七年も働くのは嫌だな。アイツ、男色じゃないよな。




