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大迷宮の合流

 ヴァルブルガ達と合流した俺。ニクラスとクルトは一般人や魔術師ヨナタンを連れて先に最奥のミスリル鉱床、ラストポイントに行っていたが、残りは俺の捜索に来てくれていた。ラストポイントに辿り着いた俺は、再びそこで大迷宮の中を3D情報にして周囲を調査する。

 俺はそこから最短で地上に上がる経路を見つけ、その場にいる者を連れて地上に上がる事にした。地上への迷宮からの出口は、ペルレの北西およそ五キロくらいの位置だった。当然、地上に出る前に地上に魔族がいないか捜索したが、ペルレ周辺以外に魔族がいなかったので俺達は地上へ出る。

 魔族達が北へ向かう様子は無かったので、きっと西の王都へ向かったのだろう。王都屋敷が気になるが、そこはカウマンス王国最大の戦力が固めているハズだ。魔族を越えて王都に向かうのは無理なので、俺達は王都を大きく迂回してゴルドベルガー伯爵領へ向かう事にした。




 魔族が王国に進攻して来た事で王国の北部も混乱していたが、魔族がこちらに向かっている様子は無かったので、そのまま村々で馬車を手に入れたり物資を補給しながらゴルドベルガー伯爵領へ向かう。そうして二週間後、俺達は伯爵領の領都クンツェンドルフに到着した。


「レン殿、こちらへどうぞ」


 俺達は訪問の挨拶と滞在の許可を得る為に伯爵の館を訪れた。だが俺は挨拶の前に執事のクリストフさんに地下牢へと連れて行かれる。もちろん拘束されているわけでもないが、休む時間も与えられず連れて行かれるのは若干の抵抗と恐怖を感じる。それと何故かヤスミーンも一緒だ。

 そしてその先で見たのは、太い鎖で拘束された犬人だった。よかった。いや、犬人君は可哀そうな事になっているが、俺やヤスミーンがこのまま牢獄に入れられるとかでなくて良かった。さて、魔族を捕らえたのはいいが、何で俺をここに連れてきたのだろう。まあ、聞くしかないが。


「クリストフさん、それは魔族ですか。何でこんなところに」


「レン殿、見ていて下さい」


 俺の問いを無視して、横にいた二人の兵士がそれぞれ自分の持つ槍で犬人の太腿を突き刺した。犬人は叫び声を上げる。


「グェー」


「いったい何を」


「見て下さい、レン殿。二つの傷口の差を」


 それって、俺は気持ちの悪さを我慢して、槍を引き抜かれた傷口の差を見比べる。左の傷は突き刺した穴が出来ているのに対して、右の傷は穴の周囲が赤く腫れているよう見えるし、傷口が大きく広がっているように見える。俺は兵士の持つ二つの槍を見比べるが、右の方が大きいと言う事はない。何の差だ。


「分かりましたかな。右の兵士の技術が高い、というわけではありません。左の槍の穂先は鋼ですが、右の槍の穂先はミスリル、いえミスリルと鋼の合金なのです。そしてレン殿。そちらの女性の槍を貸して下さい」


 そこで、ゴルドベルガー女伯爵の側近。フリッツさんとギードさん、アルノー君が牢に入って来た。右の兵士がヤスミーンの槍へ手を伸ばす。ヤスミーンが俺に視線で許可を求めるので、俺は頷いた。槍を受け取った兵士が犬人の腹にヤスミーンの槍を刺すと、再び絶叫が上がる。

 その声は前の二つ分よりも大きかった。そして新たに付いた傷は前の二つよりも大きく、周囲は黒く変色していた。つまり魔族にとってミスリルの槍は特効となる、そしてエルフの槍はさらにその効果が強い。でも、本当にその傾向は確かな事なのだろうか。


「レン殿。次はこちらへ」


 次に連れて行かれたのは、あの王都前で遭遇した狼男と同種の魔族のようだった。あの再生力のある魔族だ。そして同じ実験をすると、もともとここにあったミスリルの槍が傷の再生が遅くなるのに対して、ヤスミーンのミスリルの槍は完全に再生が止まった。


「レン殿、アルノーからその槍の事は聞きました。女伯爵様はその槍を望んでいます」


「クリストフさん、ヤスミーンの槍を引き渡せという事ですか」


「いえ、いかに強力な槍とはいえど、一本では意味がない。魔族はその数や個体の強さだけでなく、人間にとって毒となる武器を手に入れ、優位に立っている。その不利を覆す為にも製法を、その槍を作った者を教えて欲しいのです。王国が人間が勝つために」


 なるほど、女伯爵はアルノー君から聞いてミスリルの槍が魔族に特効だと気付いていた。あるいはそれだけでなく山羊頭の男など、女伯爵は以前から魔族を討伐するだけでなく、捕獲しその特性を調べていたのではないか。アルノー君の情報が決定打ではなく、多くの情報の一つなのではないか。

 だからミスリルを集めていた。いつからかは分からないが、魔族に対抗するための手段としてミスリルの武器を作ろうとしていた。そういえば二度目の侵攻時には何か毒の黒い武器を持って、前回よりも個の攻撃力が上がっているような話も聞いたような。

 でも、ヤスミーンの槍を作ったのはエルフの都のハイエルフ。彼が人間に協力して槍を作ってくれるだろうか。いや、それを交渉するのが俺の仕事か。エルフの槍が有利と言っても、それが戦況を決定する要因ではなく勝率5%とか10%上げるくらいかもしれない。


 だけど、その僅かでも勝率を上げる為に武器を調達するのも、商人としての俺の仕事かもしれない。俺は女伯爵に面会すると、全部話した。その上で自分がミスリルを持ってエルフの都にミスリルの武器の作成依頼に行きたいと願い出た。

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