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滝を越えて

 滝を越えたところで、俺達は寝ることにした。時間は分からないが、とりあえず俺達が目覚めてから半日は経ったと思われるし、岩山登りみたいな地下洞窟を進むのは体力の消費も激しいからだ。ちなみにテントも布団も無いので、仕方なく互いの服を敷いて熱をなるべく逃がさないようにして寝た。野生が目覚める。




 翌朝、と言っていいのか分からないが、俺はスッキリ目を覚ましたが、しがみ付く温かい誘惑に抗いがたく、そのまま周囲をなるべく広い範囲で探知スキルで調べる事にした。俺はそこで二つの選択肢を得る事になった。

 一つは上流から近付いて来る者達。たぶん、ヴァルブルガ達だ。あと半日上流へ向かえば合流できそうである。二つ目はここから東へ、上へ延びる横穴を辿る事だ。あまり広くはないが、この横穴は地上に通じている。

 俺としてはヴァル達に合流できれば良いが、そのときミーナがいるとちょっと問題だろう。俺だけヴァル達に合流し、ミーナに地上へつながる横穴を教えてここで別れる手もあるが、ちょっと経路が複雑で俺が行かないと迷いそうだ。


 俺がミーナを地上に案内し、そこで俺だけヴァル達のところに戻るという手もある。今更、地上に出たらミーナに捕まって捕虜にされるとは思わないが、その上に続く経路を俺だけで降りてくるのも大変そうである。さて、どうしたものか。俺は取り合えず、分岐点付近までは進む事にする。




「なあ、ミーナ。実は」


「何、レン」


 俺はそこまで言ったところで、探知スキルに危険反応が出た。咄嗟にミーナを突き飛ばす。


「何を、レン」


 そう言ったミーナの上を太い糸の束が伸びていく。土蜘蛛?仔馬サイズの蜘蛛が岩から跳び出して来て襲いかかる。本当は岩ではなく、糸で編んで岩に擬態した巣から跳び出したのだろう。俺とミーナは岩場をゴロゴロと転がる。うっ、痛ぇ。


「シャーっ」


 俺もミーナも怪我人だ。次の手をどうしようと思っていると、ミーナが唸り声を上げる。すると手足が人の物からネコ科の動物の物に変わる。さらに髪の毛も毛皮のように変わり、それでも顔と胴体は人のままだ。

 半獣化したミーナは素早い動きで土蜘蛛に回り込むと、手の爪で蜘蛛の腹を裂き体液が噴き出す。八本の足を滅茶苦茶に動かしてひっくり返る土蜘蛛に、今度は頭部回り込んだミーナが後ろ回し蹴りのように足を回すと、足の爪が土蜘蛛の頭部を切り裂いた。

 うっ、強い。俺の探知スキルが危険を感じなかったからこれまで一緒にいたけど、向こうがその気になったら瞬殺されていたんだ。


「ミーナ、ありがとう」「レン、ありがとう」


 ありがとうが被った。ラブコメか? いや、こんな真っ暗な地下迷宮の奥、土地蜘蛛の死体、まだ足がバタバタ動いているが、の横でラブコメも何もないが。怒らせたら瞬殺ヒロインとか、無いだろ。いや、最近のラノベでは結構あるのか。

 とりあず、俺はヴァル達の事はひとまず置いといて、ミーナを地上まで送る事にした。




「じゃあ、ミーナ。ここでお別れだ。俺はもう一度迷宮に戻る」


「何故だ、レン。別に地上から他の人間の街を目指してもいいでしょ」


「いや、実は俺の仲間が地下河川のもっと上流まで来ていたみたいなんだ。だから、俺はそっちに合流する」


「む、む、む」


 ミーナが考え込む。いや、他にないだろう。俺はそれでもミーナを待った。


「分かった。私も一度迷宮に戻るわ」


「いや、そんな必要ないだろう」


「いや必要よ。レンはドン臭いから、私がいなきゃ下まで辿り着けない」


「う、それは」


「なに、地下河川までよ。別にお前の仲間の前まではいかないわ」


「くっ」


 そうなんだ。崖ほどじゃないが、この地上への経路は俺一人だと結構辛い。


「お、お願いします」


 俺は一度、ミーナを地上まで送り届けたのに、ミーナに地下河川まで送ってもらった。なんか、格好悪い。




「なあ、ミーナ。本当に道は覚えたのか。結構複雑だけど、大丈夫か」


「大丈夫よ、洞窟は道が分り易いし。森の中の方が同じような景色ばかりで分かり辛いわ」


「そ、そっかミーナって記憶力良かったんだな」


「何よ、馬鹿だと思ってたの?」


「そ、そうじゃないけど」


「まあ、いいわ。レン」


 そういうとガシッと俺の頭を両手で抑え、自分の顔に近付けるとブチュと唇を重ねた。うお、これは深いですよ。驚く俺に、いたずらっぽい笑みを浮かべるとペロンと掌で俺を撫でた。どこを撫でたかは、あえて言わないが。


「ミ、ミーナ」


「いい、レン。次に会う時は敵同士よ。じゃあね」


 それだけ言うと後ろも振り返らずにミーナは闇へと消えていった。何か、凄く翻弄された気もするが、そういうところが猫っぽいか。ニャンニャン、ありがとうございます。




「おーい」


 一人で地下河川を上流へと登っていった俺は、ヴァル達が百メートルまで近付いた時、声を掛けた。まだ、距離はあるが洞窟だから声は届くだろう。幸い、周囲に魔物はいないようなので、多少の音は大丈夫だろう。


「俺だ、レンだ。おーい」


 その声に気付いたのか、明かりの一つが他と離れてこっちへと近付いて来る。速いな。ミーナに匹敵するか。


「コーチ、無事で良かった。こんな暗闇の中でよく」


 近付いて来た明かりはヤスミーンだった。

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