何で追ってくんのよ
俺は追って来る敵に対して、地下河川に掛かる橋を渡り切ったところで地形を使い、相手側は少数しか前に出れずこちらは大勢で囲めるようにして迎撃しようとした。だがその作戦は、相手の機動力によってあっさり覆される。
橋の途中で迎え撃とうとした俺は、敵に向かって一番前に大剣を持つアンスガーを据え、その後ろから槍と大槍を持つディーデリヒとオグウェノを配置。そこから俺達は巻き込まれないよう十分な距離を置き、クルト、ニクラスを前へ俺の傍にヴァルブルガとヤスミーン。俺の後ろにはヨナタンと一般人五人。
「何だ、アイツらは」「ディー、気を抜くな」
敵を捉えて最初に声を上げたのはディーデリヒだった。それに警告するアンスガー。岩の橋の上には多くの松明が撒かれているので、近付いて来たその姿がハッキリ見える。
それは人と山羊か鹿の中間のような姿で、立ち上がった人のような姿勢だが、足の関節は逆に曲がった山羊のようになっている。上半身は筋肉質な人の男のようだが、首から上は日本でテレビで見たガゼルに似ているか。
それらが高さ二メートルはピョンピョンと跳びながら近寄って来る。迷宮内は平らな石畳などではなく、剥き出しのデコボコした岩肌だ。中には一つの岩を乗り越えるだけで一メートル以上も段差がある場合もある。そんな悪路に人なら進行速度を激減させるが、奴らはそれを平気で飛び跳ねながら乗り越えてきたのか。
そして手には槍や大鎌、そしてあの盾を越えて相手を突き刺す曲刀ショーテルのような恐ろし気な武器を持っている。先頭の二体はアンスガーを飛び越えて上からディーデリヒとオグウェノに飛び掛かる。三体目がアンスガーを飛び越えようとすると、それを飛びあがったアンスガーが大剣で足を払って撃ち落とす。
だが四体目は彼らを飛び越えて俺達の目の前まで迫る。
「クルト、そいつを振り払え」
ニクラスの指示に、クルトが巨大な鉄槌を着地したガゼル人に振り下ろすが、それは岩場を粉砕するものの、目標は鉄槌を軽くかわす。それでもニクラスはクルトと二人で俺に近付けないよう追い払おうとしているが。
どこだ?四体だけじゃない。あと二体は後方からアンスガー達に襲い掛かろうとしているが、まだあと四体は近くまで来ているハズ。俺の探知スキルは、あと四体は近くにいると告げているが、何か擬態や隠蔽系の特殊能力か。
幅五メートル前後の橋の上で、隠れるところなど無いハズだが。いや、まさか。橋の下、というか橋の側面の崖のような岩場に貼り付いて進んで来たのか? 一体が側面から跳びだし、ガゼル人のショーテルを体を捻って躱そうとするオグウェノの背中に攻撃を加えようとして、大槍の石突に弾き飛ばされる。
「原野では背後から襲うのは凡策」
跳びだすと同時に橋の外に撃退したさすがのオグウェノ。
「橋の側面、左右から二体ずつ何か跳びだすぞ」
「クルトぉー」
しかし俺が警告し、気付いたニクラスが防ごうとするも、二体目がクルトの背に小剣を突きさす。とはいえ、クルトの巨体と厚い脂肪はそれで致命的な傷になる事は無いだろう。そこで側面から来た敵をよく見る。それは猫人。いや、ピューマとかクーガーと言われるヤツか。
人間の胴体に手足や腰と頭がネコ科の動物のよう、それらも動物と人間半々の様だが。そんな姿の敵は体に巻いたベルトに小剣を下げていたようだ。猫のような手でどうやって小剣を持っているんだ? 指は長い? ともかく岩場を這いながら、武器を扱えるというわけか。
そして最後の二体が俺、ヴァル、ヤスミーンのいるところと、後ろの一般人へと襲い掛かる。
「ヴァル、守れ。ヤスミーンは後ろを」
ヴァルが俺と敵の間に入り込む。同時にヤスミーンが一般人を襲おうとする敵に槍を向け、俺も懐から出したマスケット銃でヤスミーンと同じ奴を狙う。当たるタイミングはいつだ、今。探知スキルの示すタイミングで引き金を引く。
俺の銃弾が敵の太腿を撃ち、足が止まった奴をヤスミーンの槍が腹を貫く。そして俺に迫る敵は、ヴァルが盾をぶつけるように前に出すと、敵はそれに足を掛けて空中で姿勢を変えると、河に落ちることなく着地した。だが、これはイカン。この位置は。
少し離れたクルトが足元に叩き付けた鉄槌に、橋にヒビが入りそれがヴァルの足元を走る。うわっ、俺なにやってんだろ。いつもコイツは俺の護衛だって言ってんのに。俺は後ろからヴァルの手を取り、力一杯引くと、ヴァルが後ろに尻餅を突く。俺の体がそれと入れ替わるように前に出た。
「ご主人様!」
「おおっ」
俺の足元が崩れて河に落ちて行く。俺はヴァルへと手を伸ばし、ヴァルも俺の手と掴もうとして、一度、二度、三度と空を掻いて。ダメでした。
「ご主人様ぁー!」
「ラストポイントへ行ってろぉ~」
叫ぶヴァルブルガに俺は最奥のミスリル鉱床、ラストポイントへと行けと指示を出して地下河川に落ちて行くのだった。
どぷん
ついでに俺を襲った敵も落ちる。
どぷん




