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万一の備え

 俺はペルレに移動すると、ミスリル採掘を共同でやっている金属卸大手ダーミッシュ商会、食品卸大手ヴァルヒ商会とペルレ大迷宮の入口を警備する冒険者クラン『赤い守護熊(レッドベア・ガーディアン)』に面会を求めた。俺は彼らに会うと、マニンガー公国が魔族に襲われた件について対策を話し合う。

 『赤い守護熊』はペルレが公国との国境に距離があり、自分達にはあまり関係がないという認識だった。ダーミッシュ商会とヴァルヒ商会はマニンガー公国との貿易が出来なくなり、その損失をどこで取り返すかという事を考えている様だった。


 俺は採掘されたミスリル鉱に関して、買い手のゴルドベルガー伯爵領へこれまでよりも小分けにして輸送する事、ミスリル採掘関係設備の警備を増やし、信用のできる冒険者、傭兵の雇用を1年から3年の長期契約に変える事、迷宮内も含めて拠点の食料他の物資の備蓄を増やす事を提案した。


「そうは言うけどね。魔族か魔物か知らないけど、ペルレまで攻め込まれるなんてほとんど王国が壊滅状態って事だから、ペルレの守りを増やしても仕方ないんじゃないかな。それなら隊商の護衛を厚くするべきだと思うけど」


「ユリウスさん、それでも今後治安は悪化する可能性が高いでしょう。であれば、独自の武力を増やしておく事に意味はあります。いざ、ペルレに立て籠もる事になった時、一日長く守れれば迷宮と言う戦略価値のあるここには救援が来る可能性もあるワケですし」


 三者は俺の提案にあまり乗り気ではないようだったが、俺がゴルドベルガー伯爵家から預かっている資金から出すと言えば、同意した。こちらの戦力増強の人員は、ミスリルの機密性もあるのでダーミッシュ商会やヴァルヒ商会に任せる事にした。




 さて、次に俺はバックハウス男爵を訪ねた。以前、ノルデン山脈から魔族が現れた時、コースフェルト伯爵が招集した討伐軍に、バックハウス男爵は俺に指揮官を頼んでバックハウス男爵の隊を派兵した。だが俺は他家に婿入りしたので次があっても応じられないが、ただ突っぱねるのも不義理だ。


「確かに子爵家に婿入りしたレン殿には、次の出兵要請時に我が男爵家の指揮官をお願いするわけにはいきませんね」


「ですから男爵殿の小作人を、街の志願者と一緒に共同で訓練してはどうかと思っています。志願者には我が子爵家と男爵殿の家の兵の予約というか事前に囲い込む為、訓練日に共同で日当を出したいと考えています。

 その中から名目上の男爵殿の隊の隊長を選び、お望みなら実質の指揮官には私の持つ手練れの奴隷を派遣してはどうかと。もし戦場を同じにする場合は、その方が連携や物資の融通もつきやすいですし」


「ありがたい。お世話になりますレン殿」


 そんな感じでバックハウス男爵にも一部出資してもらって、ペルレで人を集めて自分が動かせる兵士を訓練する事にした。ペルレ市はエスレーベン子爵領の街オイゲンはもちろん、王都よりもマニンガー公国との国境の街シェードレや、その後ろのライマンに近い。

 なので王国の南部で兵士が必要になった時、オイゲンから領民を連れて来るよりも、ここで調達できれば早くて簡単だ。ただし農夫とか定職を持つような者を徴兵すれば、ペルレ周辺を治めるコースフェルト伯爵と揉める事になりそうなので、そこは無職の者を選ぶ必要があるだろう。




 俺はバックハウス男爵との話が付いた後、トルクヴァル商会の執務室にヤンという男を呼び出した。彼は前回の魔族討伐でバックハウス男爵の15人分隊の隊長だった男だ。別に手練れをいうわけではないが、ゴロツキを指揮して戦場まで歩かせ、逃げずに生きて帰れただけで価値がある。


「訓練に出るだけで銀貨三枚貰えるなら、馬鹿どもを集めるのは簡単ですぜ、旦那」


「訓練に来た奴はいざって時に逃がすなよ。お前には訓練だけで銀貨六枚出すし、いざ戦地へ行く時に訓練済みの者を一人集める毎に銀貨十枚の手当てを上乗せしようじゃないか」


「へっへっへっ。しっかりと働きますよ。ええ、しぃ~~~っかりとねぇ~。」




 そうしてミスリル採掘の警護の人員をダーミッシュ商会やヴァルヒ商会の紹介で増やし、ミスリル鉱床の警備をさせていたアンスガー、ディーデリヒを地上にいる時には、ヤンが集めた者達の訓練を始めさせた。

 また主にヴァルヒ商会を通じて物資を買い付け、地上の商会はもちろん、特にミスリル採掘の最前線のキャンプには、非常時の避難場所として密かにかなりの食料などを備蓄する。




「会長。ノルデン山脈からまた魔族が現れたそうですよ」


 そう言ったのはトルクヴァル商会で小間使いをしているレオナだった。俺がペルレに戻って来て二週間が経った頃である。ただし前回の魔族の襲撃後に王国北東を治めるコースフェルト伯爵は、領内の東部に幾つかの砦を造り、新たな騎士団を新設しているので現時点ではそれほど緊迫感はない。

 コースフェルト伯爵の領地は南の商人街道が通る為、商業が活発で元々西部に比べて土地が豊かで、ラウエンシュタイン王国との国境争いも稀なので比較的裕福な領地だったので、新たな砦も騎士団も比較的早く完成したらしい。

 とはいえマニンガー公国を魔族が制圧したなんて話もあるから、油断は出来ないだろう。オイゲンはどちらとも遠いのであまり心配は無いが、やはりペルレは万一に備えておいた方がいいな。

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食糧備蓄はエラい
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