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滅亡の公国

「失礼、エリーザ殿。私はトルクヴァル商会のレンとして昨年夏頃、ヴュスト砦でお目に掛かったのだが、憶えておいでであろうか」


 マニンガー公国が魔族に占領されたという話もショッキングだが、とりあえず俺は記憶にある人物か確認する事にした。


「ふむ、その顔。確かに昨年、公女殿下に青いおかしな置物などを高値で売り付けた商人に似ているか。ということは、貴殿はカウマンス王国の間者であったという事か」


「いや、あの時も今も私の本業は商人である事に間違いないのだが、最近縁あってエスレーベン子爵家に婿入りしたのですよ。あの時のエリーザ殿で間違いないなら、そちらの(かた)はもしやアロイジア公女殿下か」


「婿入りか…。如何にも。こちらの方はアロイジア公女殿下であらせられる。すまないがレン殿、殿下を保護して頂けないだろうか」


 気を失っているのか動かないが、二人とも服もボロボロで随分疲弊しているように見える。普通なら救助するところだが、勝手に公女を保護とか大丈夫なのだろうか。街に連れて行ったら捕まって処刑されたりしたら寝覚めが悪いぞ。ここは本人に確認しよう。


「まだ貴族の常識に疎く、この国の外交も良く知らないのだが、王国の人間に公国の公女が見つかっても、捕縛されるという事は無いだろうか。実は近くにオーフェルヴェック伯爵の騎士もいるのだが」


「ふむ、普通ならそう悪い扱いは受けないハズだ。元々王国と公国は五十年前まで同じ国だったから、互いの貴族家同士は親戚も多い。とはいえ、オーフェルヴェック伯爵傘下の貴族家の中には国境紛争で身内が亡くなって恨みに思っている者もいる。」


 え、ヤバイじゃん。ここからどこに行くにしても、オーフェルヴェック伯爵やその派閥貴族の領地を通らなきゃならん。どうすっかな。一番楽なのはオーフェルヴェック伯爵に引き渡す事だが、彼女達にしたらあまりよく無さそうだ。とはいえ、公女を独断で殺すような事もないだろうが。

 あとは身分を隠してエスレーベン子爵家で保護するという手もあるが、バレると大変だし、公国が魔族に落とされたって話は知らせた方がいいだろ。その場合、身分に関係なく彼女らがオーフェルヴェック伯爵に引き留められる可能性も高いが。


「エスレーベン子爵家で一旦保護する事はできると思う。ただし、近くにオーフェルヴェック伯爵の騎士やヴァルザー男爵の次男、エンデルス女男爵(バロネス)の夫も来ている。ここに来ている複数家で共同で王都までお連れする、という事で如何だろうか。公国から王国への正式な使者と考えてよいのだろう?」


「それが無難であるか。ではレン殿、それでお願いする」




 その後、エリーザさんの武装は全てこちらで預かり、彼女が気を失った公女殿下を背負う形で他の貴族家の面々がいる場所まで戻る。そしてその場にいる人間には、全てを正直に話した。エリーザさんは兵士達やマンティコアの死体に驚いていた。

 そこで決まった事は、最寄りの村でエリーザさんとアロイジア公女を休ませる事。マンティコアの死体や兵士達の死体は、最寄りの村から人を呼んでオーフェルヴェック伯爵側で対応する。ただし、エスレーベン子爵家とエンデルス男爵家はマンティコアの毒の尾二本ずつと、前足の爪二本ずつを貰っていく。

 公女が回復次第、エスレーベン子爵家とエンデルス男爵家のメンバは公女と共に王都へ向かう。なお、オーフェルヴェック伯爵家とヴァルザー男爵家からも同行する人間を出す。これは公女の救出を四家の手柄にする為だ。




其方(そなた)、やっぱりカウマンス王国のスパイであったのだな。やはり、私の慧眼であっただろう。ふふん」


「いえ、違いますって。最近、子爵家に婿入りするまでは本当に只の商人だったのですよ」


 最寄りの村まで運び込まれたアロイジア公女は、翌日には目を覚まし麦がゆを少し食べた。どうやら数日前に手持ちの食料も尽き、その後は僅かな水だけで進んでいたようだ。彼女らはマニンガー公国の公都ユーバシャールが魔族に制圧されそうになった時、僅かな兵と北に逃げたようだ。

 魔族は軍勢をユーバシャールの東西と南に展開していたが、北は中央高地が横たわっていたので警戒が低かったようだ。その隙をついて中央高地に逃げ込んだが、土着の魔物に襲われ兵士も減っていき、俺達と会った時には二人だけになってしまっていたという。

 彼女も意識を取り戻した時には、自分の国が魔族に占領されただろう事、自分を助ける為に兵士達が死んでしまった事に落ち込んでいるようだったが、俺と話している内に砦で冒険の話等で盛り上がった事を思い出し、俺をからかい出して少し元気に振舞い出した。


 まあ、俺をおちょくるくらいで元気になってくれるなら、光栄ですよ。まだ、(から)元気を装う雰囲気もあるが、それでもこの状況で元気に振舞えるのは王族?としての精神力のタフさに寄るものか。彼女は明日にはカウマンス王国の王都に向かいたいというので、村を出る事になった。

 オーフェルヴェック伯爵の騎士ブルクハルトは、是非とも伯爵領の領都に寄って療養した方がいいと誘ったが、公女が一刻も早くカウマンス王にマニンガーの事を知らせなければならないと頑として応じず、真っ直ぐ王都に向かう事になった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


活動報告にAIで生成したヴァルブルガとヤスミーンの画像を貼ってあります。顔に傷が無いとか、鎧が綺麗過ぎるとか、露出が多いとかイメージ違いもありますが、ご興味があればご覧下さい。


今後ともよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
あー公女さんね
[良い点] いつもありがとうございます。 [気になる点] この後どうなっていくのか気になりますね。 [一言] もうすぐ完結ということで、最初から読み直してきました。 寂しくはありますが最後まで読ませて…
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