表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/234

どこまでもチェイス

「それでエスレーベン子爵家レン殿。

 その獣は君達が我がヴァルザー男爵領に追い込んだ、という事ではないのかね」


 そう聞いて来たのはエンデルス男爵領の南に領地を持つヴァルザー男爵だ。家畜被害がエンデルス男爵領の南に移った後、俺とエンデルス男爵夫妻はさらに南に領地を持つヴァルザー男爵を訪ね、似たような被害が無いか尋ねた。

 男爵は長身で厳めしい顔の五十近い男で、この件でマウントを取ろうというのか、この事態をこちらの落ち度に押し込もうとしてくる。


「いいえ、お恥ずかしい限りですが、我々はその獣が家畜を襲った跡しか見つけた事がなく、その獣に近付くどころか見た事さえないのです。元よりそんな獣は王国西部にはいませんでした。これはただの想像ですが、オーフェルヴェック伯爵領の南の中央高地から迷い出て来たのかも。

 とにかく獣が存在する事に誰かが責任を持つとかではなく、被害を受けた土地に住む者達で協力して退治すべきと考えています」


「では我が領に入り込んだ獣の討伐にエスレーベン子爵家の兵で対応(・・)してくれると」


「我々は討伐に協力(・・)したいと考えています、それでまずは情報をお知らせに来たのですよ」


 兵を全て賄えと言われても応じられない。ヴァルザー男爵領で起きた事は、男爵が対応すべき問題なのだ。こちらは善意の協力であり、現時点ではエンデルス男爵内での襲撃の情報を渡すだけだと匂わせる。今、この男爵邸の応接室にいるのはヴァルザー男爵とその次男、俺とヴァル、エンデルス男爵夫妻の六人だ。

 あまり大勢で押し掛けるのも何なので、今回は俺とヴァルブルガ、ヤスミーンと黒い肌の異国人オグウェノ、それと念力魔術師ヨナタンの5人で来ている。クルト、ニクラス、大男ジルヴェスターと火魔術師メルヒオールはオイゲンで留守番に残した。

 ちなみにヨナタンを連れてきたのは、俺の探知スキルの偽装の為だ。ヨナタンは軽い物を浮かせる事しかできないが、掌の上で鉄の棒を回転させてコンパスの様に探索させる方向を指し示させる。それを失せ物を見つける魔法と偽って、俺の探知スキルを隠す予定だ。


 なお、エンデルス男爵側もパウルのハーレムパーティーと女男爵(バロネス)本人の5人しか来ていない。この人数はウチと合わせて調整した数、というかウチが彼らに合わせた感じになった。彼らはパウルと女男爵の結婚前、パウルとハーレムパーティーで冒険をしていたらしい。

 俺達がゴルドベルガー伯爵派閥であるのに対して、ヴァルザー男爵家はオーフェルヴェック伯爵派閥なので、やっぱりすんなりと話は通らなそうだ。ちなみにゴルドベルガー伯爵家はラウエンシュタイン王国に隣接する主戦派、オーフェルヴェック伯爵家はマニンガー公国に隣接する主戦派だ。

 マニンガー公国との国境を守る、というか国境争いをしているのもオーフェルヴェック伯爵派閥の貴族家で、ヴァルザー男爵は俺がマニンガー公国へ入る前に絡まれ、後にマニンガー側に捕まって奴隷にされたバルドゥイーンの(とう)ちゃんだ。もちろん、彼に会った事は内緒にしている。ドキドキ。




 話が進まないまま睨み合いのようになった面会の中、突然応接室の外からヴァルザー男爵の部下と思われる男の声がした。


「男爵様、また家畜が襲われました。(グリーン)窪地(ホロウ)の村です」


「近いな。まだ姿なき(アン・シーン)が近くにいるかもしれない」


 お、出たのか。実は最近、俺達が追っている獣は姿なき(アン・シーン)と呼ばれている。それはともかく、この際俺達も知れるだけの情報は取りたいし、ここで討伐して区切りを付けられるならなお良い。俺は同行を申し出る事にした。


「ヴァルザー男爵、我々も同行を」


「許可しよう。ただし、邪魔だけはしないでくれよ」


 嫌な言い方だが、これで彼の領内で動く同意を得た。俺達はヴァルザー男爵と共にグリーンホロウに向かった。




 ヴァルザー男爵の館から一時間、騎馬もいるが徒歩の兵士に合わせた速度での移動、でグリーンホロウに辿り着いた。俺達は村人の案内の元、家畜の襲われた牧草地まで行った。数頭の豚が牧草地から森の境へと引き摺られて行ったようで、そこで食い散らかされていたようだ。

 そこから村の狩人に足跡を追わせたが、森の中を一時間も分け入ったところで跡が消えてしまう。エンデルス女男爵(バロネス)の夫パウルのハーレムパーティーの一員、パウルによれば天才射手ウルズラ、にも捜索させるが、姿なき獣がどこへ行ったのかは分からなかった。

 だが、俺はここで探知スキルを使う。深く集中して獣の通った軌跡を探す。五十メートル、百メートル、三百メートル、…、三十キロ先にやっと反応を得る。おい、発見は何時間前だ。ここから真っ直ぐ全力で逃げたわけではないだろうに遠過ぎるだろう。


 とにかく俺の指示に、念力魔術師ヨナタンは掌の上に金属針を浮かせて回転させる。


「ほう、レン殿の魔術師が姿なき獣を見つけたというのですな」


「はい。ただし、時間を空ければまた見失ってしまう。今回は襲撃から短時間でここまで来れたので見付けられたようです」


 俺はヴァルザー男爵にそう答えた。そこでヨナタンの掌の上に浮かぶ、回転する金属針がピタリと止まる。それは俺が事前にヨナタンに教えた方向だ。ヨナタンが言った。


「針の指す方向、これが魔法の導く、我々が進むべき方向です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ