うむ、君らに任せる
オイゲンのヤーコブ屋敷の使用人達は主にバルテン一族の者達だから一族の荘園に返し、王都屋敷で余った人員はこちらに移せばいいだろう。ザックリ使用人の賃金平均が年に金貨三十枚、文官が金貨四十枚で固定の人件費は金貨八百枚(約八千万円)か。
初年度はそれで、翌年からは前年の働きを見て給料を上げればいいだろう。屋敷や城壁の整備は初年度は無しか、必要になり次第別に捻出しよう。国王への贈り物が金貨二千枚とすると、他貴族との交際費がどれくらいか不安だが、子爵本人が伯爵領にいるからあまり掛からないのではないかとも思う。
ただなぁ、ゴルドベルガー伯爵の動きを見ると、戦力を集めておいた方がいい気もする。何より貴族の責務は武力で土地を守り、戦争の際には戦力を供出する事だからな。トルクヴァル商会としては個人レベルでなら高い戦力を持っているが、何しろ軍隊としては数が全然足りない。
「やっぱり税率は普通の上限五割にしよう。元代官が七割にしてくれていたお陰で、それでも新子爵様に替わって税率が大幅に下がった印象を与えるだろう。それで領民の生活に支障が出そうなら一度取った領の予算から支援、初年度の支出を見て来年度の税率を決めればいいだろう」
何だか税率を上げて、臨時給付で誤魔化す日本の行政のようになってしまった。
「そうですね。税率を一度下げてからまた上げると領民の感情も悪化しますしね。
多い方から段々下げるのがいいでしょう」
「まあ、俺達領政一年生だし、最初から上手くはできないよね」
「ん、一年生とは何ですか」
「いや、何でも無い」
土地の痩せた王国西部で生産量を増やすには、それこそチート能力でも無ければできないだろうし、売り物が無ければ街道を整備をしても商人は来ない。内政といっても行政知識も土地の知識も薄い俺にできる事と言えば、なるべく減税しようと言うくらいか。うむ、あとは部下達に期待だ。
「森なんてどこにもであるんだから、ワザワザ西部から木材を、しかも陸送で運んで来るなんて儲かるわけないじゃない」
「まあ、でも王都は人口が多い分、木材の需要も多いんじゃないかな。それを周辺地域から運んで来るなら、西部にもチャンスはあるわけだし」
カサンドラの否定的な言葉に、可能性を検討するオスヴィン。税率を決めてからは、文官達を中心にどうしたら領の収入を増やせるか検討してもらい、俺は主にその議論をふむふむ言いながら聞いていた。
彼らの話では王国西部で食料以外で売れそうなものといえば、陸上輸送になるので効率は悪いが木材があるそうだ。これまでは伐採場から王都まで運んで売っていたが、距離も長いし大変である。そこで街の外に材木置き場と取引所を作ればどうかという案が出た。
伐採地から材木を運んで来る者達にとっては、少し値段が下がってもいつでもオイゲンで売れれば便利だろう。逆に王都側から木材を買い付けに来る商人にとっても、オイゲンに来ればいつでも纏まった量の木材を買えるとなれば魅力があるだろう。
これを実現する為には、木材を無制限に買い付ける資金力と買い付けた木材を置く場所が必要となる。とはいえ、完全に無制限でなくても資金と木材置き場を需要に合わせて拡張していけば、次第にオイゲンを中心とした木材の流通を増やしていけるのではないか、という事らしい。
そして木材の流通が増えれば、オイゲン以西の悪路も踏み固められて通りやすくなるだろうし、道が通りやすくなれば人の行き来も増え、経済も回るかもしれない。まあ、既存の材木商人ともちゃんと話し合って、喧嘩しないように上手くやる必要があるが。
「無頼の冒険者などに頼らず、エスレーベン子爵騎士団を創設するのだ。
そして子爵様と国王陛下に忠義を見せる時」
「はーい、はーい、どう考えても予算が足りないのですよ」
文官なのに金の事を考えてくれないゴットホルトに、ツッコミをいれるファビアン。土地の痩せた王国西部で農耕、林業に次ぐ産業となれば牧畜だそうだ。ただし地球と違い、狼や熊などの野生生物だけでなくゴブリンや魔物にも狙われるので、家畜を守るのも大変だ。
それであまり大規模に牧畜が出来ない、効率が悪く金が貯まらない、金が無くなかなか冒険者に害獣駆除を依頼できない、依頼頻度も少なく依頼料も安いので近くに冒険者も少ない、遠くから呼ぶには依頼料が上がる、と悪循環になっている。
領の兵士に討伐させて回れば良いのだろうが、生憎そこまで領に兵士も金もない。そこでオイゲンに冒険者向けの安い借家を用意して冒険者を居付かせれば、依頼料も下がって駆除の依頼も出しやすくなり、牧畜規模も大きくしやすくなるのではないかという意見が出た。
それに冒険者が街に居付けば、兵士の少ない街で緊急時の戦力として期待できるかもしれない。借家はバルテン一族が出て行った物があるので、大したコストは掛からない。もちろん冒険者なら誰でも良いわけではなく、領で審査して優良と認められた冒険者だけだ。
一気に領を豊かにする裏技なんてないが、そんな感じで領政について文官達と話し合っていき、上の二つを含む幾つかの方針に承認を与えて動いてもらう事にした。




